医療提供体制の特異性を反映したDRG/PPS設計方法の研究

文献情報

文献番号
199800805A
報告書区分
総括
研究課題名
医療提供体制の特異性を反映したDRG/PPS設計方法の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
下村 健(健康保険組合連合会)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤隆正(医療法人渓仁会手稲渓仁会病院)
  • 河北博文(医療法人財団河北総合病院)
  • 竹田秀(財団法人竹田綜合病院)
  • 矢野一郎(医療法人社団洛和会音羽病院)
  • 松村耕三(財団法人磐城済世会松村総合病院)
  • 大野秀樹(健康保険組合連合会大阪中央病院)
  • 田間惠實子(大阪大学)
  • 川渕孝一(日本福祉大学)
  • 今中雄一(九州大学大学院)
  • 須藤武徳(健康保険組合連合会)
  • 畑實(宗教法人淀川キリスト教病院)
  • 山口治紀(医療法人鉄蕉会亀田総合病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療費削減の抜本的方策として疾患群別1入院定額払い制(DRG/PPS)の導入が検討され、国立病院を主体とした10病院での試行が着手されている。
わが国の医療提供体制はDRG/PPSを導入した米国やドイツ、フランスなどと比較すると、その構造的な差異が大きいと言える。米国のDRG/PPSは急性期病院における医療サービスに対する支払い方式である。わが国では急性期、亜急性期と慢性期の病期に亘った医療サービスが同一病院で1入院期間内に提供されている。従って、平均在院日数は米国の4~5倍、欧州の約2倍長いという構造的特異性を持っている。また、わが国の病院は規模的に20床から1,000床を超える病院までバラツキが大きい。医師や看護婦数などのスタッフ配置、専門医の有無、また、手術室・ICU・機器などの施設レベルなどの、いわゆる病院のストラクチャーが欧米に比較して欧米に比較して大きなバラツキを有しているという医療提供体制の構造的特異性を持っている。
このような医療提供体制の構造的な特異性を正しく反映させることによって、様々な医療機関に対して公正で、医療の質を保証した疾患群別1入院定額払い方式の設計が可能となる。本研究は、病期とストラクチャー差の反映方法の研究に取り組むこととする。
研究方法
本研究では、実データに基づく実証的な研究を以下のように取り組み、上記のDRG/PPSのシステム設計の研究および常にDRG/PPSのシステムがリファインされるための情報システムの要件の研究などを2年度に亘って行う。
・病期の研究とDRG/PPSへの反映方法の研究(1年目)
・病院ストラクチャーとDRG/PPSへの反映方法の研究(2年目)
・病院情報システムの活用によるDRG/PPSにおける質と診療情報管理の方法研究(1、2年目)調査は本研究委員会の委員の病院(6病院)に協力を得てデータ収集を行う。
結果と考察
結果:本研究は2年度に亘って、わが国の医療提供体制の特異性を反映したDRG/PPS設計方法の研究に取り組むものである。本年度は病期の研究と病期を反映したDRG/PPS設計方法の研究に取り組み、平成11年度は病院ストラクチャー差の評価方法の研究とストラクチャー差を反映したDRG/PPS設計方法の研究に取り組む予定である。
研究の進め方の特徴は、実際の診療実績データに基づいた実証的な取り組みを行うことにある。
病期の研究と病期を反映したDRG/PPS方式の設計は、急性期から慢性期までの医療サービスが同一病院で1入院期間を通じて提供されている実態が急性期に限定して導入されている米国などのDRG/PPSにそもそも馴染むか否かという基本的な問題である。
急性期、亜急性期、慢性期という言葉はあるものの、明確な定義や具体的に診療行為との関連性を持った疾患別の期間設定もないのが実態である。本研究では委員の急性期病院でのデータを収集し、以下の実態の整理を行うことができた。
①在院日数分布(4,9000件の退院症例の実在院日数)と長期入院の疾患分析
・急性期病院では約45%が10日未満で退院し、約60%の症例は2週間以内で退院し、約75%は25日未満で退院している。平均在院日数を長くしているのは90日以上の長期入院のケースである。
・長期入院ケースをよりストラクチャーの軽い施設に移せるとすると平均在院日数は格段に短縮できる。今回の調査データによる効果予測は、・90日で移すと在院日数が10日短縮・180日で移すと在院日数が7日短縮
・長期入院の疾患の特徴は悪性新生物や脳疾患などの比率は高いものの、かなり高汎な疾患によって長期入院が発生している。
②急性期と慢性期の区分の可能性調査
前述の4,9000ケースの中から特定の13疾患(国立試行DRG分類)について、在院日数や区分別診療報酬点数及び患者属性情報を使って分析を試みた。
・在院日数とともに投薬、注射、処置、検査、画像等の行為(比例行為部分)が上方硬直性を示すというモデルを仮定して、疾患ごとにモデルの適合度を検証してみた。心臓バイパス手術などの一部の手術を伴うDRGについては仮定モデルに適合するものの、症例ごとの変動が大きくてモデルに適合しないモデルもあった。
・モデルに適合するDRGの場合には、症例ごとに日別診療報酬点数(比例行為部分)の推移を分析すると、比例行為が終焉する時期が特定できる。
・この時期以降を病態管理上安定期と考えられれば、この時期を境に急性期から、亜急性期、もしくは慢性期に移行したと考え得る。臨床的に、この考え方の妥当性を検証することが必要となろう。
・ケアマップ等によって診療の標準化を進めている医療機関のデータでは、術後の安定期に至る期間のバラツキが小さく、ケアマップに近い。
③長期入院(180日超)の原因調査
委員の6病院で長期入院のケースについて看護内容(医学的ケアの内容)、ADL度、疾患名、家族構成、住宅環境、退院が遅れている要因などの調査を行って、長期入院となる原因(入院日数の影響因子)について分析を行った。
・医学的ケアの内容が最も入院日数に影響を与える。その内容によって次の理由が異なる。
・経管栄養、中心静脈栄養、留置カテーテルなどの患者の場合は家族での医学的管理が難しいケース及び家族構成などによって退院が遅れている。
・リハビリ的なケア(緩和ケアを含む)の場合は、原病によって長期入院に影響を与える要因が異なる。たとえば、ガンの場合は全面介助でなくても家族構成によって影響を受け、脳障害の場合は住宅環境によって退院が影響を受けるなどである。
・疾患によって長期入院日数やその医学的ケアに要する医療費に大きな差異は発生しない。
考察:本年度の目的は病期分類とそのDRG/PPS方式設計への方法研究にある。また、介護保険導入後の医学的管理を必要とする患者の受け皿としての提供体制や医療保険の対象となる疾患・ケースの層別化などの技術的整理が課題でもある。
前記の分析によって得られた知見により、これらの課題に対応する上で以下のことがいえる。
①医療費抑制効果も含めて病期を分類して、病期ごとに相応しい医療提供体制(病院ストラクチャー)の再構築のニーズが明確にできた。
②病期分類方法については、疾患によっては急性期と亜急性期分類方法の可能性の見極めができた。
③亜急性期から慢性期への移行期の分類方法については、今後の課題であるものの、慢性期医療への支払いは、疾患別よりは医学的ケア内容とADLなどで分類することの有効性が確認できた(米国のRUG的な方法)。
結論
本年度事業によって、病期について臨床データからその移行期を推定する方法の可能性を確認できた。また、長期入院の原因とケア内容の類型化など急性期に対する方法とは異なった方法で取り組むことの方向と、その方法としてデータマイニングツールの適用の可能性が確認できた。
今後、大量データによって、より精度の高い研究が望まれる。
平成11年度はストラクチャー差についての反映方法の研究に取り組みたい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-