中毒情報の自動収集、自動提供システムの構築とそのパイロットスタディ

文献情報

文献番号
199800802A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒情報の自動収集、自動提供システムの構築とそのパイロットスタディ
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(財団法人日本中毒情報センター常務理事)
研究分担者(所属機関)
  • 白川洋一(愛媛大学医学部救急医学教授)
  • 黒川顕(日医大多摩永山病院救急医学教授)
  • 嶋津岳士(大阪大学医学部救急医学助教授)
  • 安部嘉男(大阪府立病院救急診療科医長)
  • 後藤京子(財団法人日本中毒情報センター次長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全ての国民、医療従事者の要求に対応するには現在の中毒情報センターの規模では困難であり、中毒情報ネットワークの構築が必要である。この研究の目的は、関連諸機関との連携や新しい情報提供・情報収集手段の開発(とくに情報提供・情報収集の自動化)を進め、さらに新しい診断補助システムの開発なども含めて、わが国における今後の中毒情報センターのあり方を具体的に検討することである。いずれの研究も中毒情報センターの可能な限りの省力化と業務拡大を目的としたものであるが、医療効果と医療経済効果の両面、すなわち中毒事例の救命率の向上、治療期間の短縮と治療費の削減、中毒事故発生予防等の面からも、必須の研究である。
研究方法
上述の目的にそって、今年度は以下の5課題の研究を行った。すなわち新しいシステムの構築とその拡充、これを稼働させてのパイロットスタディ、集団化学災害時に必要な中毒情報の整備加工活動に加え、分析ネットワークに関する調査研究である。
1.インターネットを介した中毒情報の自動提供、自動収集システムの構築
昨年度の厚生科学研究「情報の自動提供・自動収集システムについて」において準備した「化合物(薬毒物)辞書データベース」の辞書内容の充実、データベースリンクの拡充、およびデータベースリンクに伴うインターフェイスの改良を行う。既に運用を進めている「中毒起因物質の血中濃度データベース」と、「中毒関連雑誌/学会誌データベース」について内容の充実を図る。
2.臨床例の自動収集システムに関するパイロットスタディ
医療機関から中毒情報センターに問い合わせのあった症例のおよそ10%を対象に、興味ある症例や希有な症例については経過中の症状、治療内容、転帰などの追跡調査が、現在は調査用紙を用いて行われている。インターネットを介してのその自動収集の方法を検討する。
3.診断補助データベースの開発
中毒情報センターの保有するオリジナル・ファイルを基本データとし、複数の用語(中毒患者の複数の臨床症状)をkey wordとして、中毒起因物質の推定を行うシステムを構築する。
4.集団化学災害時の情報提供内容とその提供方法のあり方について
昨年度の厚生科学研究にて作成した対象者別フォーマットを再検討し、災害発生時の一般公開用の簡略情報と救急隊員用情報を作成する。毒性情報や治療・処置法に関しては、中毒情報センターが保有するオリジナルファイルから、防災に関連した注意事項や中和・廃棄法等は、厚生省薬務局安全課監修の毒劇物基準関係通知集(改訂増補版、薬務広報社)、North American Emergency Response Guideline 96(NAERG 96),International Chemical Safety Card(ICSC),Material Safety Data Sheet(MSDS),Akron大学のHazardous Chemical Database等を参考とし、編集した。
5.薬毒物中毒分析ネットワークの構築と今後のあり方について
中毒情報センターが保有するデータ・ベースに記載のある簡易分析法を抽出し、その物質名と分析方法のリストを作成する。medlineにより過去10年間の血中濃度測定に関する文献を収集し、分析に関する研究の行われている物質について調査する。
結果と考察
1.インターネットを介した中毒情報の自動提供システムの構築
化合物名辞書のなかに化合物名(英語)10,363 語、(日本語)3,634 語を収載した。またリンク情報として、以下のデータベースあるいは検索サイトを直接的に検索することが可能となった。すなわち、本研究班が管理する3つのデータベース:①商品名辞書データベース、②中毒起因物質の血中濃度データベース、③中毒関連雑誌データベース、さらに専門サイトである①TOXNET(英語)、②神奈川県環境科学センター/化学物質のデータ検索(英語/日本語)、③国立医薬品食品衛生研究所/国際化学物質安全性カード(英語/日本語)、④GINC Search----Global Information Network on Chemicals(英語)、その他一般サイトである。一連のデータベースを収載したシステムは、従来どおりML-poison会員に限定して試験運用したが、本辞書が、インターネット上に散在する多様なデータベースを効率よく利用するためのインターフェイス機能を十分に備えていることが実証された。
2.臨床例の自動収集システムに関するパイロットスタディ
この追跡調査は、日常業務の情報提供に供する症例のデータベースとしてあるいは中毒情報センターの研究に活かされているが、現時点では、現在実施されている調査用紙郵送方式に加え、補助手段としてFAXとインターネットを利用した自動収集を実行しても、その回収率の向上は困難である。
3.診断補助データベースの開発
息切れ、呼吸困難、呼吸不全、呼吸障害・・・と言った市民からの問い合わせ時に用いられる一般的な言葉を、該当する医学用語に置き換えるための同義語・類義語参照テーブルを作成した。昨年構築したシステムでは、14語までの複合検索が可能であったが、検索された物質は羅列されるのみであった。そこで今年度は中毒情報センターへの過去の問い合わせ頻度をデータ・ベースに加え、その頻度順に列挙される機能を付加して重み付けを行った。起因物質が判明しており、かつ中毒症状を呈している実際例を用いて、このシステムの推定率を今後検証して行く必要がある。
4.集団化学災害時の情報提供内容とその提供方法のあり方について
集団化学災害を起こす可能性のある83品目について、災害発生時に一般に公開する簡略情報と、救急隊員用情報の2種類を作成した。実際の公開に先立ち、識者等に対象を限定してその内容を検討する必要がある。
5.薬毒物中毒分析ネットワークの構築と今後のあり方について
中毒センターがグループ別に整備しているデータ・ベースになんらかの同定方法の記載がある物質は60種類で、呈色反応など簡易分析方法で確認できるものは40種類であった。分析に関する文献の検索数は262編で、これら分析情報のある物質の分布は中毒情報センターの保有するデータ・ベースと類似していた。
結論
いずれの研究課題も完全な結論を得るまでには至っていないが、わが国や諸外国に存在する膨大な化学物質の毒性情報を自動的に収集するシステム、収集整理されたこれらの毒性情報を自動的に提供するシステムを構築することや、中毒症例の自動収集を行うためのシステム、さらには単なる毒性や治療情報の提供だけではなく、これらの情報を加工することによって臨床現場に診断補助の情報(起因物質の推定情報)を提供することが不可能ではないことが判明した。また集団化学災害時のごとく市民から専門家まで立場の異なる多数の人々へそれぞれの情報を効率的に提供することもインターネットによって可能となった。
いずれの研究成果も、直接的には中毒情報センターのデータ・ベースの充実、情報ネットワークの構築に生かされるが、将来的には発展途上国に対する国際貢献の可能性も合わせて有している。

公開日・更新日

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