化学物質等による集団災害時の救助体制確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800799A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質等による集団災害時の救助体制確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 侃(日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大橋教良(つくば中毒110)
  • 小栗顕二(香川医科大学)
  • 木下順弘(香川医科大学)
  • 屋敷幹雄(広島大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学災害は環境中に化学物質が放出され多数の被災者が発生する事態で,1)目に見えぬ化学物質が拡散することで被害が広範囲,大規模になりやすい。2)火災や爆発,大型交通事故に伴うことが多く,化学物質による中
毒以外に熱傷や外傷を合併する。3)環境へ深刻な影響をもたらす可能性がある。という特徴を持つ。わが国において的確な化学災害対策をたてるためには,①どの程度の規模の化学災害がどの程度の頻度で発生しているかの実態把握,②未知の原因物質による場合の同定方法の確立,③拡散防止や二次災害防止な
どの救助体制の整備が重要である。以上のことを踏まえ,3人の分担研究者に①②③の課題をそれぞれ分担させて調査研究を行うことを目的とする。
研究方法
分担研究者大橋教良は,化学災害の発生頻度と,規模,原因,負傷者数,救助体制の問題点などについて,近年わが国で発生した災害の実態調査を行う。分担研究者小栗顕二は,原因不明の物質による災害が発生した場合の物質の同定方法について,現状把握と問題点を調査する。分担研究者木下順弘は,実際に災害が発生した場合に対応する救助者としての消防・救急の体制と負傷者を治療する救命救急センター等の医療機関の体制を調査する。これらの結果を総合的に踏まえた上で,将来取られるべき的確な防災体制を提唱する。
結果と考察
化学災害の発生頻度は,いくつかのデータベースや資料を下に調査した結果,年間74件程度であった。それらのうち死傷者が20名以上の大規模な災害は年間4件程度起きていた。しかし,本年度は平成10年7月に和歌山で発生したヒ素入りカレー事件をきっかけに,模倣犯罪が多発した。これらはすべて被災者が数名程度であったが,毒物を混入するという犯罪行為であり,発生源の関係者の協力が全く得られないため物質の同定が極めて困難であった。化学物質が関与した事故(事件)は、ガスクロマトグラフィー等を用いる教科書的手法で、多くの場合原因物質を同定できるが、天然毒の場合には分析が困難となる。化合物の分析には少なくとも3時間以上が必要となる。この時間経過は、致死量に近い毒物を摂取した場合には、救命できるチャンスを限られたものにしてしまう。さらに短時間で分析する方法を開発検討するか、簡易スクリーニング方法を確立するしかない。
救助体制についても,特に和歌山の事件では,原因物質の同定までに長時間を要し,救命に貢献する有効な治療が行われず,4名もの死者を出したことに対し,社会的批判が集中した。これを受け、分担研究者木下順弘は、集団で急性中毒患者が発生した場合の対応について検討した。まず、このような事態では救急車が多数要請され、情報の窓口となる。そこで、救急司令台より行政の消防防災課及び警察への通報が行われる。さらに患者を収容した救急医療機関から救命救急センター等の急性中毒基幹病院への情報提供や患者転送が実施され
る。これらの医療機関にて採取された試料や検体は保健所を通じ分析専門機関及び警察へ提出され、原因の特定と証拠保全が行われる。原因物質が特定されれば、日本中毒情報センター等のデータベースより、治療方法のデータを得る。この結果を患者を収容した医療機関にFAX等で情報提供する。という流れを作成した。香川県では、このフローシートを県の救急医療情報ネットワークのホームページに掲載し、「化学物質等の中毒の原因物質と治療薬」「中毒患者の応急処置の手順」「医療機関等における急性中毒診療の原則」などをあわせて医療関係者が閲覧できるようにしている。現実に事態が発生した場合には、Eメールでホームページの電子会議室に情報を送り、関係者間での情報共有に役立てようとしている。
結論
本研究は,当該年度が初年度であり,実態把握が中心で,体制整備や対応方法に対する結論は得られていない。しかし,現状では化学災害が発生した場合に,救助,治療を行う上で,様々な問題点が存在することは間違いない。今後、2年間にさらに研究を重ね、最終年度には将来取られるべき的確な防災体制を提唱する。このような研究の結果と結論は、適宜学会等で発表するのみでなく、インターネット上で公開したり、研究報告書として取りまとめ、関係機関に配布する予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-