インターネットを活用した遠隔医療により離島・へき地における医療の質の向上と医師の確保を図るための研究

文献情報

文献番号
199800797A
報告書区分
総括
研究課題名
インターネットを活用した遠隔医療により離島・へき地における医療の質の向上と医師の確保を図るための研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 澄伯(鹿児島大学医学部公衆衛生学教室教授)
研究分担者(所属機関)
  • 伊地知信二(下甑村長浜診療所長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はインターネットを活用した遠隔医療技術により、1)最新情報の獲得による離島・へき地に勤務する医師の資質の向上、2)離島・へき地における日常診療レベルの向上と地域格差の解消、3)離島・へき地に勤務する医師の確保を図ることを目的に、離島・へき地における医療情報システムの開発を行う。
研究方法
本年度は1)離島・へき地で診療を行っている医療機関への意識調査、2)遠隔医療システムを導入している医療機関の実態調査とへき地に適した低通信コストの離島医療情報基盤モデルシステムを提案するための実装的研究、3)インターネット活用の問題点に関する検討会の実施、4)パイロット研究としてテレビ電話(フェニックスミニ)を用いためまいに関する遠隔診断を行った。
1.意識調査の実施=鹿児島県内の離島・へき地に勤務する医師に対し、コンピュータの使用状況、インターネットへのアクセス経験、その他の手段による医療情報入手に関する問題点、遠隔医療等に対する意識調査等を行った。
2.遠隔医療システムを導入している医療機関の実態調査とへき地に適した低通信コストの離島医療情報基盤モデルシステムを提案するための実装的研究=本年度は10名以上の情報処理専門家、公衆衛生専門家が既に遠隔医療システムが導入されている奄美大島の県立大島病院と瀬戸内町へき地診療所の実態調査を行った。
また、通信コストを軽減した離島医療情報基盤モデルシステムを提案をするための実装的研究を行った。
3.インターネット利用の問題点に関する検討会=現在、離島・へき地においてインターネットを活用している医師による検討会を4回、離島医療に関しシンポジウム等を行った研究会を1回行い、現場レベルでの問題点を検討し、得られた意見を参考にしてホームページを開設した。
また、意識調査の結果とあわせ、提言をまとめた。
4.めまいに関する遠隔診断=インターネットに加え、テレビ電話と赤外線眼球運動検査機器を組み合わせてめまい診療を試みた。
結果と考察
研究結果
1.意識調査=県内の離島・へき地で診療を行っている医療機関で、医療情報ネットワークに関心の高い62施設、62人に協力をいただき回答を得た。。医療等に関する情報の収集や、研修の機会に関し不便さを感じている医師が多かった。また遠隔医療への関心はあるようだが、機械が高価なことや、支援体制の脆弱さの指摘がなされた。
2.遠隔医療システムを導入している医療機関の実態調査とへき地に適した低通信コストの離島医療情報基盤モデルシステムを提案するための実装的研究=両者の連携のニーズはかなり高いものと推定されたが、X線診断等の遠隔医療システムの利用頻度は期待されていたものよりかなり低いようであった(客観的なデータは入手していない)。これは両医療機関ともにLANが整備されていないため使い勝手が悪いこと、病院側の担当者が設置されていない等、人的なシステムが未整備であるためなどが原因であると思われる。
また、離島割引を使用する53Kbps音声モデムを用いたリンクを複数本利用して、デジタル線の帯域幅に近い品質を確保しつつコストも軽減できるというモデ
ルを考え、実装的研究を行った。
3.インターネット利用の問題点に関する検討会=意識調査の解析結果等も含め検討し、提言として1)離島・へき地では常勤医師が少ないため、診療時間の妨げにならないよう情報通信ネットワークの操作は時間や手間のかからないものでなければならない。(ネットワーク操作の省力化)、2)操作する医師が高齢でも操作が可能となるよう、情報通信ネットワークの操作は簡便でなければならない。(ネットワーク操作の簡便化)、3)離島医療経験の乏しい医師のため、ネットワークは各診療専門科の医師とのコンサルトシステムのみでなく、離島医療施設間や後方医療機関とのカンファレンスシステムの構築もはかられなければならない。特にメーリングリスト機能を活用した症例検討会、症例コンサルティングのシステム開発により、医師の資質の向上を図ることが必要である。(ネットワーク網の横断化)、4)ネットワークは、例えば行政機関へ接続し救急搬送における手配時間などの短縮をはかったり、各学会へ接続し遠隔会議を行ったりするなど将来的に拡張できるシステムでなければならない。(ネットワークの拡張性の強化)、5)離島・へき地の自治体は財政力が弱いのでシステム及び通信コストが安価でなければならない。(ネットワークの低コスト化)の5点がまとめられた。
4.めまいに関する遠隔診断=症例数は少ないが、医師の意見や患者の感想等から、離島・へき地医療に有用ではないかと思われる。
現段階での考察=鹿児島県における有人離島は28を数える(図1)。このうち本島規模(人口1000人以上)には有床医療施設があるが、、治療方針に関して医-医間のコミュニケーションが十分でなく、派遣される医師にとって知識獲得への不安ばかりではなく、様々な医療上の障害が存在するといわれている。さらに、100名から200名程度の島民が居住している小さな離島には専従の医療関係者がおらず、現在でさえ緊急を要する場合に海路が遮断された場合、救急診療を支える具体的な方法はないに等しいと言われている。
このような状況から、県内の離島と後方支援病院を結んだ遠隔医療のシステムが設置されているが、種々の理由から活用されているとは言い難い状況である。
そこで、活用されやすいシステムを構築するための検討を、意識調査や検討会等を通して行った。その結果、遠隔医療に想定されていた即時性が必ずしも有用ではないこと、専用機器を用いたことにより費用が高額になり導入の妨げになっていたことの他、医師の側にも、ニーズがあるにもかかわらず、"煩雑だ"等の先入観が障壁となっている可能性が示唆された。また、先に挙げた5つの提言をまとめることとなった。
離島・へき地に勤務する医師や、中核的医療機関に勤務する専門医師だけではなく、栄養士や保健婦等のコメディカルスタッフまで参加するネットワークをインターネット上に構築する事が、離島・へき地に勤務する医師の日常の診療レベルの向上に寄与すると同時に医師の知的好奇心を満足させ、離島・へき地医療に勤務する医師の資質の向上や、従事する医師の確保に寄与するものと考える。
我々の試みているインターネットを活用してのシステムは、現在普及しているコンピューターを利用する事により費用面や扱い安さの問題が解決され、また利用形態から離島・へき地での医療に適していると考える。
結論
インターネットを活用した遠隔医療のシステムにより、離島・へき地医療の質の向上による地域格差の解消や、従事する医師の確保に寄与できると考える。

公開日・更新日

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