患者満足度の向上を目指したネットワークによる医療情報提供体制の検討

文献情報

文献番号
199800796A
報告書区分
総括
研究課題名
患者満足度の向上を目指したネットワークによる医療情報提供体制の検討
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
谷水 正人(国立病院四国がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 高嶋成光(国立病院四国がんセンター)
  • 江口研二(国立病院四国がんセンター)
  • 久野梧郎(松山市医師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者満足度の向上は、医療者の判断や治療の方針をわかりやすく説明することから始まる。インターネットは医療機関間連携と同時に患者への情報の開示にも有用な手段である。我々は患者満足度の高い病診連携推進のためにインターネット(含イントラネット)を利用した医療情報提供体制のあり方を検討し、インターネットの有用性を明らかにする。
研究方法
愛媛県医師会では平成7年より愛媛県医師会地域医療情報ネットワーク(EMAネット)が構築され、平成11年3月現在、県医師会員の736名(県医師会員の25%)、松山市医師会員の280名(市医師会員の30%)が加入している。EMAネットはインターネットへの出口を持つと同時にダイアルアップによるイントラネット環境を持ち、会員間の情報交換がインターネット環境に比して安全に行えるシステムとなっている。このEMAネットを活用し、研究を進める。
1. 医療機関間で、電子メールを活用し、患者情報の提供、交換をおこなう。患者紹介(検査、処置の予約、入院予約)の簡便化と円滑化を図る。
2. 情報端末を診察室の患者の見えるところに設置し、画像や検査値、情報提供書類を患者に示しながら説明する(患者に病診連携の様子を見せる)。
3. 医師会ホームページに医療機関情報マップをおき、各診療科、疾患ごとの医療機関情報を提供する。
上記1から3を実践するためには地域の病院と開業医がインターネットに参加する必要がある。本研究では、まず医師会のインターネットによる情報発信体制を整え、会員間にインターネットに対するニーズを創出し、インターネットの有用性を主張啓蒙する。コンピュータアレルギーの多い医師会員がインターネットにスムーズに入っていけるための援助活動を行う。また医師会を中心とした病診連携活動全般(医療機関としての患者受け入れ態勢、医師会としての支援態勢の構築)にも取り組む。
結果と考察
研究結果=以下の1から6にまとめる。
1. システムの基盤整備:
愛媛県医師会のEMAネットから松山市医師会に専用線(64K)を敷設しアクセスポイント(アナログ、デジタル8回線)を設け、松山市医師会独自のイントラネットサーバーを立ち上げた。
2. 医療機関情報マップの公開:
かかりつけ医への患者の移行を進めるためには、各医療機関における対応可能な医療の内容に踏み入った情報が必要である。松山市医師会病診連携小委員会と在宅医療部が中心となって、松山市医師会所属の医療機関の対応可能な医療をアンケート調査により収集し、これを医療機関情報マップとして医師会イントラネットホームページ上に公開した。緩和医療に関する医療機関マップ、在宅医療に関するマップ、後方病院(入院受け入れ医療機関)に関するマップを公開した。これらのマップは印刷物としても医療機関に配布した。
3. 患者アンケート調査:
患者の医療機関受診の実態と意識を調査にする目的で患者アンケート調査を実施した。
調査期間:平成11年1月4日-2月12日
対象:がん疾患で治療後国立病院四国がんセンターに通院中の患者454人(配布578通回収率79%)
結果:
a) 受診に到る経路は、紹介状ありが53%、紹介状なしが43%であり、現在の患者紹介制は十分に機能しているとは言えなかった。また四国がんセンター以外にかかりつけ医に定期的に受診している患者は全体の17%に過ぎず、四国がんセンターに4週に1回以上通院している患者が71%を占めていた。すなわち四国がんセンターがかかりつけ医機能を担いすぎていることが明らかになった。
b) 病状が安定しているときに希望する通院形態として、近医かかりつけ医への通院を希望する患者は20%に過ぎず、反対に不便でも病院だけに通院したいと考えている患者は40%を占めた。患者の病院志向が依然として強いことが明らかになった。
c) 患者の病診連携に関するコメントとしては、期待する声も多かったが、かかりつけ医と病院主治医との判断の相違や、医療レベルに関する漠然とした不安を訴える声も聞かれた。
4. 医師会員インターネット利用状況調査:
松山市医師会員のインターネットに関する実態調査を行った。
調査期間:平成11年2月8日-2月20日
対象:松山市医師会員947名に郵送、382通回収(回収率40.4%)。
結果:
a) インターネット加入者は46.9%であった(EMAネット参加33.3%、民間プロバイダ参加13.6%)。20から40代の会員の加入率はほぼ70%であり、50代39%、60代20%、70代以上7%との間に開きが認められた。
b) 活用状況は、電子メールを頻繁に活用しているのは加入者のうちの63.2%であり、30%の人が見る、読むだけであった。
c) 活用の目的は趣味、娯楽が82%、医療情報検索閲覧が73%であり、患者情報交換は20%であった。
5. 医師会員対象ネットワーク講習会:
医師会員のインターネットへの参加を援助するためネットワーク講習会を開催した。市医療情報委員会のメンバーが講師を勤め、月1回定期的に開催した。医療情報委員会とパソコン業者との合同講習とし、受講者は1回8人まで、マンツーマン一人一台の環境で講習した。平成11年1月、2月、3月はまず医師会理事、役員に講習した。
6. 病診連携実地医学講座の開催:
医療機関、医療者の病診連携意識改革、医療技術のレベルアップを目指して、“緩和医療における在宅医療、かかりつけ医への移行"をテーマとして医師会員、医療関係者を対象とする講習会を開催した。
第1回緩和医療実地医学講座(平成10年12月12日):ペインクリニック、麻薬処方、呼吸困難、摂食障害について。
第2回緩和医療実地医学講座(平成11年1月9日):緩和医療における補液、在宅中心静脈栄養、リザーバー管理、うつ対策、体力管理について。
第3回緩和医療実地医学講座(平成11年2月27日):緩和医療における生命倫理的考察(京都大学名誉教授星野一正)の招待講演会を開催、同時に開業医、病院医師双方が参加した討論会(病診連携を円滑にするには ~患者満足度の向上を目指して~)を行った。
考察=病診連携は医療の効率化のために必須であるが、患者の流れを適切に誘導するには患者心理への配慮が必要である。インターネットは医療機関間情報伝達を改善するだけでなく、患者に医療をわかりやすく見せる手段として有望である。我々の3つの提案(電子メールを活用する、患者に病診連携をみせる、医療機関情報を提供する)は、単純な活用法である。しかし、現時点では、医療現場におけるインターネットの普及率が障害となってそれらの活用は一部に限定された試みにとどまっている。我々の目的はインターネットによる医療情報交換を地域医療の中でシステム化し、インタ-ネットの医療における有用性と活用法を明らかにすることである。
平成10年度はシステム基盤整備を行うと共に、現状の問題点を具体的な数値として把握することを目指した。松山市医師会に独自サーバを導入し、患者の病状に沿った紹介を行うための医療機関情報をイントラネットホームページに掲載した。現状における患者の受診実態と心理については、今回示された結果を出発点とし、本研究の最終時点で再調査し患者心理の改善を確認する。医師会員におけるインターネットの普及は、40%を超える会員がすでにインターネットを利用できる環境にある。まだ医療に十分活用されているとは言いがたいが、病診連携による患者情報交換を実験するには十分な普及度であった。今後個々の症例で情報交換の実践を積み重ねていく。
現在のEMAネットの基幹部分は平成7年に秋山昌範(現国際医療センター内科医長)らにより構築されたシステムである。インターネット技術の進歩は早く、構築後3年を経過しシステムの陳旧化が生じている。今後システムの再構築を検討し、患者情報の交換に安全なシステム基盤整備を進めていく。
次年度の目標は、以下の通りである。
1. 医師会サーバ運用による医療情報発信の充実、FAXサーバによる医師会情報配信サービスの開始、WEB連携データベースによる医療機関情報、医師会報情報の蓄積、などを通じたインターネットに対する医師会員ニーズの創出。
2. インターネット(イントラネット)普及の推進(医療機関のインターネット参加を推進)
3. 安全な患者情報交換のシステムの充実(セキュリティを保持した患者情報交換(暗号化メール)、EMAネット基幹システムの再検討、拡充)。
結論
平成10年度の活動において、基盤整備と病診連携に必要な医療機関情報のホームページ掲載を行った。また患者の受診行動と心理を具体的数値として把握した。医師会員間にインターネットの普及が進んでいることが判明した。今後さらにインターネット(イントラネット)環境を整備し、患者満足度向上を目指した病診連携を実現していく。

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