医用画像管理・診断ネットワークシステムの総合的推進による医療の質および経済効果に関する研究

文献情報

文献番号
199800795A
報告書区分
総括
研究課題名
医用画像管理・診断ネットワークシステムの総合的推進による医療の質および経済効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
前田 知穂(京都府立医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 芦原司(京都府立医科大学)
  • 小野木雄三(東京大学医学部)
  • 大喜雅文(九州大学医療技術短期大学部)
  • 黒田知純(大阪府立成人病センター)
  • 紀ノ定保臣(京都府立医科大学)
  • 栗原幸雄(高知医科大学)
  • 高橋正樹(藤田保健衛生大学)
  • 滝沢正臣(信州大学医学部)
  • 中野善久(関西医科大学)
  • 西谷 弘(徳島大学医学部)
  • 森山紀之(国立がんセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子・高齢化が進む中で医療費は高騰し、国民の福祉及び生活を圧迫している。そこで、医療情報を有効に活用し医療の質を高めると共に福祉にも貢献し、かつ医療費を抑制するシステム構築が必須となっている。最近では、医用画像がデジタル化されフィルムに替ってディスクに画像の保存が可能となり、また画像をモニターに表示し診断するシステムが開発されてきた。この様に、医療情報が有効に活用され医療の質の向上を目指すフィルムレス画像管理・診断システムに遠隔医療情報システムの機能を備えた次世代型医用画像総合管理・診断システムを普及するためにシステムのモデルとその医療・経済効果について検討する。
研究方法
①病院の規模に応じて医用画像総合管理・診断システム(PACS:Picture Archiving & Communication System)の構築を模式化し、磁気デイスクを用いた画像管理について調査し、その医療経済効果を検討する。先ず、全国主要病院208施設に対しアンケート調査を行い193施設(66.8%)から回答を得、医用画像総合管理診断システムの現状を分析した。
②デジタル画像のCRT観察では、従来のフィルムシステムとは異なって静止画像は基より三次元・動態画像が観察される。そこで、CRT観察の診断上の有用性を示すと共に波及する経済効果を見積もる。
結果と考察
①医用画像総合管理・診断システム(PACS)は、画像の収集・蓄積・処理・表示及び装置間を伝送する5つの主な機能から成る。画像の収集は、各種モダリテイー装置からDICOM(Digital Image Communication in Medicine)規格のオンライン下で画像蓄積装置RAIDに伝送されると共に、画像観察系のCRTモニターに表示する為のワークステーションに伝送される。オンライン伝送には155MbpsATMスイッチを用い画像観察端末には10MBのネットワークを要す。
②PACSに関するアンケートの結果、この1年間で新にシステムが導入された108病院中DICOM規格対応となったのは51病院(47%)でDICOM浸透度は良好であった。一方、保存メデイアは多様化しており規格化されたデイスクより、更に低価格の保管メデイアを利用する傾向が見られた。
③年間フィルム使用枚数45万枚程度の大学附属病院では、画像保管期間5年間で230万枚程度となる。一方、医用画像の電子保存では5年間保存として13TBを必要とするが、1年経過後の画像を1/10に圧縮することにより4TB以下で、フィルム保存の場合に比し画像の保管面積は約1/30で済む。又、医療従事者のフィルム作業に要する人員は約8名であるが、オンライン化により人的作業は著しく減少し得る。尚、PACSの導入費はLANに要する費用、保管装置、画像ワークステーションやCRT装置を含め総額636,900千円が必要となるが、フィルム保管に関わる消耗品費、人件費等全てを含め検討すると2-3年で採算が取れる計算となった。
④大学附属病院間での遠隔教育の応用に関する研究では、学内LANとWWWサーバを用いた教育研究用画像ファイリングシステムを構築している。概要は、1;低価格に収め得た。2;フィルムの電子化へ画像データのサーバ送信操作が容易である。3;人手が不要である。4;高速での画像参照やデータベース作成が容易である。5;放射線科医の自宅からデータベースの維持管理が出来る等の要素を組入れた。
⑤本システムは、遠隔医療放射線診療(Teleradiology)を包括したシステムで、医療の較差を解消し、救急救命に貢献しており、医療・経済効果は明らかである。詳細に付いては、開原班で述べたのでここでは省略する。
⑥フィルムを用いた従来の画像観察に比し、CRTを用いた画像観察では画像処理によって病態の表現はより容易となり、検討した殆どの症例で診断がより容易となり診断精度の向上が得られた。又、病診連携が行いやすく速やかな治療の結果、在院日数の短縮とQOLの向上に加え予後の延長が期待された。即ち、デイスク保存とCRT診断は医療の在り方を変える可能性が示された。
⑦耳小骨の3D画像など、従来のCT画像で表現し得ない新しい画像処理法を組み入れたCRT診断が耳小骨の精確な微細構造を示し聴覚系疾患診断の質的向上に寄与している事を示した。同様に、スパイラルCTを搭載した肺癌検診車による移動肺癌検診の結果、従来の肺癌発見に比べ10倍もの肺癌を検出しており、デジタル画像とそのCRT診断の有効性が示された。
⑧従来のフィルム保存・診断システムに替わってデジタル画像の総合画像管理・診断システムになると、デイスク保存の3原則を満たす共通規格MOの使用が望ましい。然し、運用に関する調査研究からは、これらのシステムは明らかに医療上の効果が得られるとするものの、「病院側の経済性は成り立たない」と回答したのが59,8%であった。これに対して民生用の機器、ソフトの利用で経費の節減を図るとしたものや、医療保険給付の中にシステム構築費、運営費を含める要望が45,6%にみられた。
⑨遠隔放射線診療システムを包括した医用画像総合管理・診断システムの医療経済効果に付いては、モデル病院を作り具体的にシステムに関わる費用、デジタル画像の保存に関わる費用等の検討が必要である。
⑩フィルムを用いた従来の画像観察に比べ、CRTを用いた画像観察では画像処理によって病態の表現はより容易となり診断精度の向上が得られた。本システムの応用により、在院日数の短縮とQOLの向上に加え予後の延長が期待される。デイスク保存とCRT診断は医療の在り方を変える可能性が示された。
結論
遠隔放射線診療システムを包括したデジタル画像の総合管理・診断システムは、医療情報の効率的活用と医療の質の向上が得られ医療費の抑制が期待される。従って、必要な保険医療給付についての検討が必要である。

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