画像観察CRTモニターの医学的安全基準設定に関する研究

文献情報

文献番号
199800794A
報告書区分
総括
研究課題名
画像観察CRTモニターの医学的安全基準設定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
石垣 武男(名古屋大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野通雄(兵庫県立成人病センター)
  • 中田肇(産業医科大学)
  • 吉田祥二(高知医科大学)
  • 松本満臣(東京都立保健科学大学)
  • 稲邑清也(大阪大学医学部保健学科)
  • 宮坂和男(北海道大学医学部)
  • 池添潤平(愛媛大学医学部)
  • 小寺吉衞(名古屋大学医学部保健学科)
  • 安藤裕(慶應義塾大学医学部)
  • 村田喜代史(滋賀医科大学)
  • 尾辻秀章(大阪府済生会吹田病院)
  • 池田充(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はCRTモニターが、医用工学的にみてどこまでの条件を満たしていれば診断能の点で臨床的に安全な画像情報を提供できるかという医学的指標を日本医学放射線学会電子情報委員会が確立するための基本となる臨床研究である。すなわち、CRTモニターの経時的な劣化の臨床的許容範囲ついて周囲の照明との関連で検討することと、診断能を保証するCRTモニターの標準的読影機能の検討である。今年度はCRTモニターの輝度および部屋の照明が読影に及ぼす影響について主観的評価を用いて検討した。
研究方法
1.新しいCRTモニターと劣化(経年変化)したモニターにおける輝度とデジタル値の関係を測定、2.部屋の照明とCRTモニターの輝度が画質、診断能に及ぼす影響。用いたCRTモニターは2048 x 2560 x 8 bit(Konica RS-252)の高輝度、高精細のものが2台である。読影テスト画像は、平成5~6年度に行った研究(厚生科学研究費補助金による診断技術評価に関する研究事業、Radiology 201:51,1996)でROC解析に用いた症例のうち正常6例、間質影6例(容易群2例、中等度群2例、困難群2例)、計12例の胸部単純CR写真を用いた。モニターの輝度は1台は400カンデラ、他の1台は50カンデラに固定した。部屋の照度は、照度計でモニターコンソール上で測定した状態で、480、120、20ルクスの3段階に変化させた。モニターの輝度、部屋の照度のそれぞれの組み合わせで計6通りの条件で読影実験を行った。すなわち、同一条件下で12例の画像をランダムに読影し、条件を変えて6回読影した。6回の読影についてはそれぞれ画像を表示する順序を変えた。この際、まず輝度の低い3条件で読影し、次いで輝度の高い3条件で読影した。読影者は分担研究者を含む放射線科専門医6名である。読影の内容は間質影の有無を「あり」から「なし」まで連続スケール表示で回答し、さらに表示された画像が臨床現場で使用が可能な画像かどうかを5段階スコアで評価した。「なんとか使用可能」を3として、良好なものを5、不良なものを1とし、中間を4、2とした。解析はジャックナイフ法を利用した分散分析によった。
結果と考察
1.新しいCRTモニターと劣化(経年変化)したモニターにおける輝度とデジタル値の関係。新しいCRTモニターと劣化(経年変化)したモニターにおける輝度とデジタル値の関係を測定したところ新しいCRTモニターではブライトネスを変化させた場合、電子の量が制限されるため、最大輝度が下がるとデジタル値が500くらいから急に飽和してくる。一方、劣化したモニターでは工学的に最大輝度が下がるため、ブライトネスを変化させた場合と同じくデジタル値の途中から急に飽和してくる。したがって、極端な場合は肺野は濃度の飽和状態、すなわちX線写真上濃度の緩やかな変化が表示されず細かい濃度変化は判断できなくなる。この基礎検討から実験的にはCRTモニターのブライトネス調整を行えばCRTモニターの劣化と同等な条件設定が可能であることが分かった。2.部屋の照明とCRTモニターの輝度が画質、診断能に及ぼす影響。間質影の有無についての読影精度については、Brier score(0は完全に正解、0.25では解答はばらばら)は0.196~0.242であった。統計的有意差はないが、120ルクスでBrier Scoreが最も良かった。主観的な画質の評価については部屋の照明やモニターの輝度を変
化させることにより有意差がみられた。症例間および読影者間にも有意差がみられた。モニターの輝度を一定にした場合、部屋の照明が暗い方が良好な評価であった。部屋の照明を一定にしてモニターの輝度を変化させると、有意差を持って輝度が高い方が良いという結果であった。モニターの輝度が高い場合は。部屋の照明が480ルクスと20ルクスとの間で有意差がみられ、また、輝度を低くした場合は部屋の照明が480ルクスと20ルクスとの間および120ルクスと20ルクスとの間に有意差がみられた。最も良好な評価であったのは照明が低く、輝度が高い場合であった。また、これらの主観的評価には個人差が多いことがわかった。部屋の照度と診断能の比較における以前の我々の研究結果(Y.Itoh et al. Computer Methods and Programsin Biomedicine, 37 :253, 1992)では、胸部CR画像の結節影の読影に際して、部屋の照度が170ルクスの場合、照度480ルクスの場合と比べて有意差をもってROC解析上診断能が良好であり、照度70ルクスの場合に対しても有意差はないものの、170ルクスの方が良好な結果であった。今回の検討で、輝度に関係なく、部屋の照明が120ルクスの場合、20ルクス、480ルクスよりも読影精度が良い傾向にあったのは、我々の以前の研究結果と同様の結果であり、以前の結果が裏付けされたといえる。主観的評価ではモニターの輝度が高いほど、部屋の照明が暗いほど、画質の評価は良好であったが、眼の疲労や作業効率が診断能へ及ぼす影響を考慮すると、ごく短時間での画質評価を長時間にわたる診断作業での環境に持ち込むことは必ずしも正しくないことが今回の検討から明らかとなった。個々の評価では読影医によるばらつきもあり、さらに、ROCによる解析を含む検討が必要である。
結論
CRTモニターの劣化は輝度の劣化が主であり、ブライトネス調整で劣化モニターのシミュレイションが可能である。部屋の照明とCRTモニターの輝度が画質、診断能に及ぼす影響では主観的なCRTモニターの画質評価では、モニターの輝度を高く、部屋の照明を暗くすると良好な評価となった。しかし、読影精度では、有意差はないものの120ルクスで最も良い傾向であり、ROCによる解析を含むさらなる客観的な解析が必要である。

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