診療録の様式並びに記載、コードの統一と診療情報のデータベース化に関する研究

文献情報

文献番号
199800790A
報告書区分
総括
研究課題名
診療録の様式並びに記載、コードの統一と診療情報のデータベース化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
河北 博文(東京都病院協会)
研究分担者(所属機関)
  • 木村明(日本診療録管理学会)
  • 長谷川友紀(帝京大学医学部)
  • 足立山夫(東京都立墨東病院)
  • 安藤高朗(永生会永生病院)
  • 飯田修平(練馬総合病院)
  • 稲波弘彦(岩井整形外科内科病院)
  • 北村信一(東京都済生会向島病院)
  • 佐々英達(佐々総合病院)
  • 中西泉(町谷原病院)
  • 早川大府(葛西中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
消費者意識の高揚、医療財政の逼迫の中、医療においては、質の確保、効率的な医療の供給、これらを保証するための医療情報の開示が必要とされている。診療録をはじめとした診療情報は、個々の医療機関が行なった医療サービスの内容、結果をあらわすだけでなく、総体として当該地域あるいは全国レベルでの医療システムの評価を行なうために必要不可欠なデータベースの一部をなすものであり、その標準化及び整備が重要である。本研究では、診療情報の整備状況を明らかにするとともに、問題点及びその解決策の立案を行なった。
研究方法
電子カルテシステム、アメリカ、イギリス両国の診療情報管理の現況調査などに合わせて、東京都病院会の会員病院344に対して1998年11月に無記名式のアンケート調査を行なった。調査項目は、あらかじめ数回の班会議、及び研究協力者の所属する病院等10病院に対するヒアリング、アンケート調査を基に作成され、病院の属性、診療情報管理の状況、診療情報の開示、患者とのコミュニケーション拡大のための方策、等からなる。
結果と考察
130病院(130/344=37.8%)より回答が得られた。平均病床数は132床、平均在院日数中央値は20.8日、年間退院患者数は1228人、死亡退院患者数は74人、死亡率6.0%である。医育機関は9.1%、臨床研修指定病院は26.1%、学会等の指定は1~5学会が31.7%、6学会以上が21.7%を占める。診療録の保管管理は、「独立した部署を有するもの」16.9%、「独立ではないが担当部署を有するもの」43.8%であり、診療録管理委員会を有するものは18.8%で、「管理規定により保管」29.6%、「他の文書規定により保管」1.6%、「明文規定はないが統一管理」62.4%、「各診療科の責任で管理」4.8%、「その他」1.6%となっている。担当者として診療情報管理士等専門教育を受けた職員を有するものは14.0%であった。診療録は95.6%で医事部門等でまとめて管理されており、1患者1診療録で管理されているのは47.7%であった。医師・職員を対象にした診療録記載方法についての教育は、「定期的に行なっている」5.5%、「不定期に行なっている」35.9%であった。入院診療計画書は90.6%の病院で配付を行なっており、実際に入院治療を行なった結果との比較検討は25.4%の病院で行なわれていた。検討項目は「治療計画・検査内容」78.1%、「診断名」62.5%、「入院期間」56.3%の順である(複数回答可)。入院患者の疾病毎の統計は、「医学的根拠に基づく病名で可能」なのは29.4%、「レセプト病名のみ可能」35.7%であり、実際に作成しているのは21.8%であった。国際疾病コードを用いた登録は、診断名で29.5%、処置名で9.2%であった。退院時サマリーは82.4%の病院で作成されており、53.8%の病院では作成割合いが把握されており退院48時間後で55.8%、退院2週間後で69.6%である。退院時サマリーをコンピューターに登録しているのは12.2%であった。診療情報の開示は、「病院として積極的に行なっている」3.2%、「患者・家族からの求めがあった場合に行なっている」65.6%、「行なっていない」31.2%である。診療情報の開示について「明文化された規定がある」1.6%、「明文ではないが病院としての方針は決まっている」31.3%、「方針・規定とも決まったものはない」67.2%であった。開示が可能な範囲は「原則として診療録全て」42.4%、「診療録の一部のみ可能」44.0%であった。項目からは
、検査結果(画像・検体・生理)でほぼ100%可能なのに対して、診断名、医師記載、看護婦記載、退院時サマリー、レセプトでは約80%とやや低い。患者本人が希望しながら、開示を制限するような状況は84.7%が考えられると回答し、「悪性腫瘍の場合」、「その他の予後不良の疾患の場合」、「精神病の場合」、「患者の経過に悪影響をもたらす可能性のある場合」、「患者についての情報をもたらした第三者に悪影響をもたらす可能性のある場合」等が挙げられる。診療情報開示を進めることは患者の満足度向上に寄与すると回答したものは74.6%で、医療の質向上に寄与すると回答したものは77.3%であった。反面、開示により医療訴訟件数が増加すると回答したものは66.4%であった。将来の方向については、「積極的に開示を進めるべき」35.0%、「現状程度を維持すべき」62.6%と意見が分かれた。もし、開示を進めるならば解決されるべき問題としては、「診療録の記載の充実」、「医療従事者を対象にした開示を前提とした診療録記載方法の教育」、「事務処理量増加に対応した経済的補償」、「診療情報を知ることに伴う責任等についての患者教育」、「開示方法・範囲についての共通のルール」等が多く挙げられた。またその方法としては「法制によるもの」は43.9%、「法制以外の方法によるもの」56.2%と意見が分かれた。「入院診療の要約」等の入院中の経過、療養上の注意等を記載した書面の導入・配付は、82.9%が患者の満足度に寄与し、82.2%が医療の質向上に寄与すると回答している。しかし、導入には「退院時サマリー等、診療録記載内容の充実」、「配布を促す経済的なインセンテイブに乏しい」、「事務的な手続き・負担がたいへんである」等の問題が解決されるべきであると多く挙げられた。本研究班から何らかの提案がなされたならば62.9%の病院が配付を積極的に検討すると回答した。回答病院の属性毎による検討では、急性期大規模病院と比較して、急性期中小規模、及び慢性期病院では診療情報管理の整備が不十分である状況が推察された。
結論
診療録管理部門は医療サービスの提供状況を表す最も重要な情報を提供する。本研究では以下の事柄が示唆された。すなわち(1)診療情報の保管管理の状況には病院間でばらつきが大きい。病院の属性毎の検討では急性期大規模病院に比較して、急性期中小規模、及び慢性期病院では保管管理の整備状況が不十分なことが多い。これは病院の診療情報管理の整備状況の改善のためには当該病院の保管管理の状況に応じた、何らかの支援体制の導入可能性について検討すべきことを示唆している。米国では、州が診療情報について法律を定め、具体的な保管管理についてはJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)が定めるスタンダートがJCAHOによる病院の認定過程を介して事実上のde fact standardとなっている。また診療情報管理の専門職員に対する教育過程の認定、卒業生の資格試験、病院に対するコンサルテーションはAHIMA(American Health Information Management Association)が行ない、人材の育成・システムの立ち上げ、認定、法整備の各住み分けがされている。今後更に検討が必要であるが、個々の病院レベルで対応が困難な場合には、病院外に人材育成、コンサルテーション等支援を行なう機関等の体制整備も選択肢の一つであろう。(2)診療情報の開示については、多くの病院が開示促進の患者満足度、医療の質にもたらす正の効果を認め、検査等客観データを中心にすでに多くの病院で一定程度開示が可能な状態にある。開示の範囲と方法をどのように定めるかについては法制と法制以外の方法によるかで意見が別れた。どのような方法が望ましいかは今後検討する必要があるが、範囲、方法、費用の負担、開示できない場合等について一定のルールを定めることは有効であると思われる。(3)「入院診療の要約」等患者とのコミュニケーションを促進するための文書導入についても多くの病院が開示促進の患者満足度、医療の質にもたらす正の効果を認め、もし提案されるならば積極的に検討すると回答している。実際に、期
待した効果が得られるかどうか、今後検証し、その結果に基づいて検討する必要があると思われる。

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