在宅医療システムの実用化と経済効果に関する研究

文献情報

文献番号
199800788A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療システムの実用化と経済効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 勝之(国立小児病院・小児医療センター病態生理研究室室長)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木康之(国立小児病院)
  • 滝澤博(セコム株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅医療の推進は医療経済効率、生活の質、医療の質への一般の要求を満たす手段として期待されている。しかし患者が分散すること自体は、効率の面から考えると必ずしも利点とはならない可能性を有する。
本研究では、テレビ電話を用いた遠隔医療が、在宅医療にもたらす医療効率を患者側、医療供給側、そして医療機器供給側から総合的に検討するものである。
研究方法
初年度である本年度は、1)現在一般に用いられているテレビ電話を、在宅医療用に用いる場合の改良点を抽出し、フィールド調査ができる装置への改良を試みると同時に、2)在宅人工呼吸器取り扱い業者を例に、テレビ電話利用がもたらし得る時間的、経済的効率の基礎的データ収集を試みた。
1) 市販テレビ電話の改良
昨年まで当研究者のグループは、在宅医療へのテレビ電話の導入を多角的に検討してきており、比較的安価な公衆電話回線であるISDN641回線を用いたテレビ電話システムでも臨床使用上には十分に機能を発揮できるが、カメラ機能や聴診器機能など、細部にわたる操作性での改良点が医療側から指摘されていた。本年度はこれらに加えて、医療機器業者側からの改良点を主には聞き取り調査で吸収し、開発につなげる検討をおこなった。
2) 在宅人工呼吸器取り扱い業者の状況
今後行なう幅広い在宅医療に関連する産業での経済効率の調査に先立ち、現在在宅医療では最も高度の医療機器を用いる、小児在宅人工呼吸管理に関わる業者の協力を得て、1年間の保守に関する後方視的タイムスタディーを行った。
結果と考察
1)市販テレビ電話の改良に関しては、アイシンコスモス社の製品(AIC EYE)を中心に改良開発を行った。医療機器取り扱い業者側からの要望としては、カメラ操作性の改良、音声機能の改良(これは在宅視診機能のための照明と静止画機能手許スイッチを備えたカメラ、聴診器機能付加など医療側のニーズと一致)に加えて、交信記録自動収集及び顧客データ自動展開機能が要望され、本年度は前者に関する開発が行われた。また、全体としての患者サイトでの価格を10万円近傍にすべきだとの要望が高く、その線での開発が進められることとなった。
2)在宅人工呼吸器取り扱い業者の状況
ある業者の、小児在宅人工呼吸器を取り扱う部門での、平成10年1月1日から12月31日までの1年間の作業日誌を後方視的に調査を行い検討した。
この調査に関わった患者は全て小児患者22名であり、用いた在宅人工呼吸器は全員パピー2(オリジン医科工業)であった。在宅人工呼吸使用期間は2年以上が5名であったが、12名は開始して1年以内の患者であった。12名の患者は24時間連続使用、10名は睡眠時のみの使用であり、調査期間での延べ使用日数は8、030日人工呼吸器作動時間は約15万時間と推定された。
この間に人工呼吸器のトラブルとして患者側から業者側に連絡があった件数は21回であったが、生命の危機にかかわる程の重大なトラブルはなかった。この中で人工呼吸器本体の機械的トラブルで、結果として装置自身を交換する必要があった件数は6回であり、あとは加湿器などの付属品のトラブル9件、説明のみなど6件であった。
今回の調査では、在宅人工呼吸器本体のトラブルは1/3.7年使用、あるいは1/25,000時間(2.9年)であった。
現時点では、21件のトラブルコール全てに業者は出張しており、この中の6件はテレビ電話で解決可能であると判断された。更に付属品のトラブルは、結果として加湿器の同一部品であり、予め準備しておけば、こちらも出張が省略できると考えられた。また、本体のトラブルの中で、結果として本体の交換が必要であった例は、内蔵電池の故障とケーブルの断線であり、そのどちらもテレビ電話での診断対応が可能だと考えられた。
結果として在宅医療機器の保守にテレビ電話が導入された場合、バックアップ部品の対応に十分に配慮すれば90%(19/21)程度の保守出張が節減できると推定された。
わが国の在宅人工呼吸患者の推移は、木村らによると1991年の160名は1997年で1,250名、1998年度末では3,000名が推定されており、急速に増加しており、主に病態の背景から神経筋肉疾患など、必ずしも呼吸管理を専門としない医療関係者が関わらなくてはならない種類の患者の増加が中心になりつつあることから、在宅医療機器の適切な保守管理体制の確立は急務であると思われる。
本研究では、この状況を背景に、在宅医療機器の適切な保守管理体制を、特にテレビ電話の導入がもたらす可能性を中心に、様々な角度から検討した。
本年までの研究で、比較的安価な公衆電話回線であるISDN64を用いたテレビ電話システムを、カメラのズーム機能の付加および簡易遠隔操作機能付加するなどの在宅遠隔医療仕様に改良し、遠隔医療に使用する面から客観的評価方法を用いて検討してきた。また、在宅酸素業者のテレビ電話使用による時間、労働力節約効果も70%にのぼることを報告し、本年度からはその成果を応用し在宅医療機器の保守管理への導入の可能性を検討した。
本年度の検討では、在宅人工呼吸器自体のトラブルの頻度は3.7年連続使用に1回と極めて低いことが示された。Srinvivasan ら(Chest 114:1363-1396, 1998)は、この領域で長年の経験を持つロスアンゼルス小児病院での小児在宅人工呼吸症例155例の検討で、人工呼吸器本体のトラブルが1.25年連続使用に1回と報告されており、世界的にみても極めて優秀な結果であることが示された。人工呼吸器の本体トラブルは、使用する呼吸器自体の性能に加え、その通年の保守体制自体も大きく影響する。今回の結果は今回調査した特定の業者に当てはまることであり、わが国一般に当てはまることとは結論できず、より広範囲な調査が必要なことはいうまでもない。
今回の調査では、人工呼吸器本体のトラブルの約3倍のそれ以外の用件でのトラブルコールがあったが、この回数はおそらく在宅医療移行の際の教育も大いに関わることである。とはいえ、現状では一旦トラブルコールがあった場合、平均約4時間の時間と労力が費やされることから、直接的な費用効果も高いと推察される。
本年度の結果から、テレビ電話により相当な時間の節約が測られ、そしてその時間が患者の直接支援に費やされれば、患者のQOLの向上に役立つことが示された。現実のわが国の医用機器の保守体制は、実際に故障なり破損があった場合の課金や記録は明確であるものの、テレビ電話が最も活躍するであろう、設定や使用方法に対する疑問や誤りなど、技術者が必ずしも赴かなくても良い(テレビ電話のみで対応可能)と判断される状況も多いが、これらは伝統的に料金を請求しにく状況下にあるからである。
在宅人工呼吸に関しては、レンタル制度の導入で明確な定期的予防的保全を行えば、漸進故障(可動部品など)をある程度防ぐことができる。しかし、突発故障(電子部品)への対応や取り扱い上の誤りや誤解に基づく修理要請や問い合わせは、医療機器に関して素人の多い在宅医療ほど多くなる可能性があるとも考えられる。しかし、医療施設と遜色ない保守管理体制による継続した医療が必要であり、生体情報とは別の技術で、在宅医療機器のための遠隔管理監視システムが必要だと考えられる。
この面で、テレビ電話を用いたシステムの導入が、現実的かつ効率的な方法であり、医療費の削減と医療の質の向上という一見相反する命題への解決策だと考えられる。本年度の検討では、複数の医療サイドと、複数の企業を含めた更なる検討の意義が大いにあることが示唆された。
結論
在宅医療機器の保守にテレビ電話システムを導入することにより、医療側のみならず医療機器業者サイドも含めた有用性および経済効率を検討した。
今回の調査では、在宅人工呼吸器本体のトラブルは1/3.7年使用、あるいは1/25,000時間(2.9年)と世界的にみて極めて低い値であったが、その約3倍のトラブルコールがあり、小児在宅呼吸管理の場合、テレビ電話で軽減できる訪問修理は90%のぼると考えられた。
企業利益が関わることで、正確な情報が得にくい領域ではあるものの、今後はより幅広い企業の協力を検討をしたい。

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