医療情報技術の総合的評価と推進に関する研究

文献情報

文献番号
199800783A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報技術の総合的評価と推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允(国立大蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山本隆一(大阪医科大学)
  • 前田知穂(京都府立医科大学)
  • 沢井高志(岩手医科大学)
  • 山口直人(国立がんセンター)
  • 高木幹雄(東京理科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで医療情報技術は、技術の可能性の側から導入されてきたために、その
医療上や経済性の評価は十分行われていない。本研究の目的は、映像通信技術やコンピュ
ータネットワーク技術の応用である遠隔医療や遠隔教育を対象として、その医療上の評価
と経済性の評価を行い、その効果的な利用のための問題点を明らかにすることにある。
この研究の成果は、日本の医療に将来情報技術を用いていくための行政施策の基礎となる
ものとして利用されることが期待される。情報技術の応用は、行政的にも非常に重要であ
り、これを効果的に利用していくことが今後の医療では必須である。しかし、その応用は
単に技術要素を利用するだけでは効果は得られず、総合的な見地からの方針と戦略が必要
である。この研究で明らかにされるであろう効果と問題点及びその解決への提言は、上記
の行政施策の上での著しく有用であろう。既に、過去の先行する研究においては、それが
実証されている。
研究方法
研究は、次ぎのテーマについて、研究グループを設けて行った。
1) 遠隔医療に関する実態の把握
遠隔医療は最近広い分野で利用されるようになっている。本研究班は昨年度までに詳細な
調査を行っており、今年度はそれを更新した。
2) 遠隔医療の医療的・経済的評価
本年度は、既に実績のある遠隔放射線診断及び遠隔病理診断の分野において、その医療的
ならびに経済的効果を更にさまざまな角度から評価した。
3) 遠隔教育(学習)の効果
今後、遠隔医療は遠隔教育(学習)システムと一体化することによって、より大きな効果
をあげられるものと考えられている。このため、遠隔教育を医師の間や医療機関と一般市
民の間に適用する場合の効果と問題点のを実証的に把握した。
4) 遠隔医療の技術的な課題の検討
遠隔医療の中で常に提起される色の問題について、それを簡単に補正する方法を研究した。
5) セキュリティの研究
医療情報を安全に送るためのさまざまな方法が提案されているが、まだ実際に使われるま
でに至っていない。この研究班では、実証的にこれらの方法を検討して、今後の安全な医
療情報の伝送方式を提案した。
結果と考察
(1)新しく導入された技術の推移
新しい技術が医療に導入されると、最初は、個別のプロジェクトの中でその技術が応用さ
れ成果をあげる。そして、類似のプロジェクトが各地に生まれ、それぞれが成果を競うよ
うになる。しかし、通常はそれが日常の医療の中に定着することはなく、個々のプロジェ
クトは何らかの理由で中止されることも多い。
遠隔医療においてもこのことは例外ではなく、本研究班が調査した結果をこの観点からま
とめると、過去の行われたプロジェクトの中で既に中止されたものが約三分の一、現在実
験中と考えられ実験が終わると中止されると思われるものが三分の一、実際の医療の中に
定着したものが約三分の一であった。
(2)新しい技術が定着するための課題
新しい技術が定着するための課題には次のようなものがある。
(2-1)新しい技術によって一部の人に集中的に生じる負担
実際に遠隔病理診断を日常的に行っている病理医6名に対して調査したところ、時間的な
負担が多く増加したもの3名、日常の病理診断に比べ心理的な負担を感じているもの2名、
機器の操作に負担を感じているもの1名であった。このことは、遠隔医療がもはや個人的
には行い得ず、組織としての対応が必要なことを示している。
(2-2)新しい技術によって生じる医療上のマイナス面に対する問題
遠隔医療は、対面診療に比べ少ない情報で診療をするために、誤診の危険は常に存在し、
その大きさを評価しておくことが必要である。沢井分担研究者の研究によれば、実施例7
45例の中で誤診例が17例あった。この中のほとんどは、遠隔診断が原因でなかったが、
遠隔診断でなければ誤診しなかったと思われる例も少数例あった。
(2-3)経済的な問題
本年度の研究においては、遠隔医療によって実際にかかるコストの観点から研究を行った。
遠隔病理診断においては、伝送料金、機器の原価焼却費、人件費の和として計算すると、
遠隔医療のための付加的な費用は、一症例約23000円となった。これに、通常の病理
診断料22000円を加えると、遠隔病理診断の費用は45000円が適当な費用と考え
られた。今後、この遠隔医療に相当する付加分の費用を誰が負担するかについてのコンセ
ンサスが必要となる。一方、遠隔放射線診断の領域では、現在の放射線診断の費用は、診
断料とフィルム代で構成されているが、平成10年4月にフィルムのないCRT診断でも
診断料を算定してよいことが保険制度上で明確にされたため、フィルムは必ずしも必要と
しなくなった。しかし、遠隔診断の場合には、フィルムを必要としなくても、それに代わ
る伝送費用などが必要とされるから、その材料費をフィルム代と同じように算定してもよ
いとも考えられる。しかし、現在はそのような考え方は、医療保険にはなく、病理診断と
同様にその費用の負担に関するコンセンサスが必要である。
(2-4)法制度上の問題
遠隔医療を用いて遠隔地にいる患者を診断することの法的な問題は、平成9年12月の厚
生省通知によって解決されたと考えられる。しかし、電子画像の保存に関する法制度は、
まだ十分明確ではなく、その解釈の統一が強く望まれる。
(2-5)技術的な問題
在宅医療や病理診断など色を必要とする場合には、色の標準化が常に問題となる。本研究
班では、高木分担研究者は色票(CasMatch)を用いて簡単に色を補正する方法を考案した。
(2-6)セキュリティの問題
セキュリティの問題は、技術的には多くの要素技術の組合わせで解決されるはずである。
本研究班においても、階層化証明書発行局と代理認証サーバによる方法を提案した。領域
(2-7)特有の問題
これまでのべた一般的な問題に加えて、各領域に特有の問題があり、これを解決する必要
がある。本研究班では、サイトスクリーニング、皮膚科、内視鏡、国際的な遠隔医療の適
用など、領域に特有の問題を調査した。
結論
新しい技術である情報技術が医療に導入され、それが医療の中に定着するまでの問
題を遠隔医療を例として、医療上の有効性と問題点、法制度、経済、技術などの総合的な
視点でとらえ、その問題点及び解決方法の提案を行った。

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