文献情報
文献番号
199800782A
報告書区分
総括
研究課題名
院内感染対策の第三者評価システムの研究開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
北原 光夫(東京都済生会中央病院)
研究分担者(所属機関)
- 小林寛伊(関東逓信病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国においては、院内感染対策の基盤の脆弱さのために、その対策が全体として遅れているばかりでなく、行われている内容も医療施設によってバラバラである。このような状況にあるわが国の医療施設における感染管理の第三者評価を実践し、その方法論を確立することにより、わが国の感染管理の現状を理解すると共に、感染管理の有るべき姿を提示することができる。
研究方法
(1) 病院訪問調査による感染管理の第三者評価を行う。
平成10年1月に医療の質に関する研究会の感染管理専門家委員会の討議から、「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」が開発された。本スタンダードを評価基準、評点基準とした訪問調査を、平成10年12月までに10病院で実施した。この訪問調査から、わが国の一般病院における感染管理の現状を把握し、今後の改善の目標とする。また、この訪問調査の結果をフィードバックすることで、「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を用いた感染管理の評価に関する「評価基準」、「評点基準」、「評価システム」の問題点を抽出し、その改訂作業を行った。
平成10年1月に医療の質に関する研究会の感染管理専門家委員会の討議から、「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」が開発された。本スタンダードを評価基準、評点基準とした訪問調査を、平成10年12月までに10病院で実施した。この訪問調査から、わが国の一般病院における感染管理の現状を把握し、今後の改善の目標とする。また、この訪問調査の結果をフィードバックすることで、「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を用いた感染管理の評価に関する「評価基準」、「評点基準」、「評価システム」の問題点を抽出し、その改訂作業を行った。
結果と考察
研究結果
(1) 感染管理評価検討会
上記のように「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を用いての病院訪問調査が行われたが、平成10年9月までに訪問調査が実施された8病院での調査結果を10月24日の「感染管理評価検討会」で報告した。
評価の対象とした病院は、「医療の質に関する研究会」の会員病院である。各病院とも良質の医療を提供することに関しては、モティベーションの高い病院であり、その規模や機能に違いは有るものの基本的には地域病院である。今回の訪問評価はいずれも病院側からの主体的な参加希望により行われた。
8病院の構成は、自治体立病院が1病院で、7病院は医療法人である。所在地は北海道1,関東1,中部2,近畿1,中国2,九州1であった。病床数は、100-200床2施設,200-300床1施設,300-400床2施設,500-600床1施設,600-700床1施設,700-800床1施設であった。
感染管理の評価基準及び評点基準となるスタンダードは「1.組織的な感染管理システムがある」「2.サーベイランスが行われている」「3.病院における種々の分野での感染対策がなされている」の3つの1桁項目からなり、各1桁項目の下位に2桁項目として以下の項目がある。「1.1 院内感染対策の決定機関としての感染対策委員会がある」「1.2 日常の感染対策を実践する組織がある」「1.3 管理部門に感染管理システムを支援する方策がある」「2.1 院内感染の現状が把握されている」「2.2 サーベイランスの結果がフィードバックされている」「3.1 院内感染防止対策マニュアルがある」「3.2 患者ケアに関連する具体的な感染対策がなされている」「3.3 手術・麻酔に関連する感染管理がなされている」「3.4 細菌学的検査が組織的に機能している」「3.5 薬剤を管理する体制がある」「3.6 ハウスキーピングなどにおける感染対策がなされている」「3.7 感染防止についての教育活動が行われている」「3.8 病院職員に対して職業感染防止対策を実施している」。この2桁項目の下に更に3桁項目があり、各項目毎に評点を付けるためのガイドラインがあり、具体的な感染対策を評価している。各3桁項目毎にa, b, cの3段階で評価した。
今回の8病院の訪問評価の結果から、共通して評価が低かった項目としては、「2. サーベイランスが行われている」がA評価がなく、B評価が2病院、C評価が6病院であった。サーベイランスの方法論がまだわが国では浸透していないことが明らかとなった。「3. 病院における種々の分野での感染対策がなされている」にもA評価はなく、6施設がB評価で2施設がC評価であった。この「3. 病院における種々の分野での感染対策がなされている」の下位の2桁項目では、「3.2 患者ケアに関連する具体的な感染対策がなされている」では、1施設がc評価だった他は6施設がb評価であった。「3.4 細菌学的検査が組織的に機能している」では、b評価が5施設、c評価が3施設であった。「3.6 ハウスキーピングなどにおける感染対策がなされている」ではb評価2施設、c評価が4施設であった。「1.組織的な感染管理システムがある」は比較的評価が高くなったが、それでもA評価1施設、B評価6施設、C評価1施設であった。以上のように病院によって違いはあるものの、全体として院内感染対策の評価は極めて低いことが判明した。
評価方法の問題として病院側から指摘された点としては以下の諸点が挙げられた。
① サーベイの時間が短い。これは殆どの病院から指摘された点であった。半日で感染管理のサーベイを行うようにしたため、部署訪問による評価等がどうしても時間不足気味になった。
② 評価に用いるスタンダードの記載に具体的でない箇所があったため、自己評価に際して判断に困ることがあったと指摘された。また、評価方法に関するものではないが、「医療の質に関する研究会」として、こうすれば完璧であると言えるようなモデルを提示してもらえると病院の努力目標になるとの意見を得た。
以上のように、今回の一連の訪問調査からわが国の院内感染対策が極めて不十分な状態にあることが判ったため、この「感染管理評価検討会」では、当研究会の感染管理専門家委員による教育講演を併せて行い、感染管理活動の有るべき姿を提示した。
(2) 感染管理スタンダード改訂ワークショップ
「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を実際に運用して、病院の訪問調査を行い、スタンダード自体の問題点が指摘された。このため、改訂版作製作業が開始された。平成11年3月6日に感染管理専門家委員を中心にした会員参加によるグループワークにて改訂第2版原案が作製された。原案をもとに若干の修正が加えられ、現在第2版は校了に向けての最終段階にある。
(3)「実践講座 院内感染サーベイランス」
本年の病院訪問調査から、病院感染疫学調査が殆どの病院で行われておらず、その方法論も理解されていない施設が多いことが判明した。感染管理の評価を行ってきた私どもの研究会としては、この現状を憂い、わが国の病院感染疫学調査の普及に少しでも裨益することを期待して、平成11年3月7日に一般公開の教育プログラム「実践講座 院内感染サーベイランス」を開催した。
考察=私ども「医療の質に関する研究会」が、これまでわが国において行われてこなかった病院における感染管理の第三者評価を実施したところ、その評価結果は極めて厳しいものであった。評価対象とした病院数は限られたものであったが、この結果を一部の特殊な病院の結果と捉えるべきではなく、日本の病院の現状を十分に反映したものと考えられるものであった。
院内感染に対する施策としては、さまざまな対策が講じられてきており、例えば平成8年4月の診療報酬改定から院内感染防止対策に対する保険点数が認められた。それまでは、社会的な要請をもとに病院のボランティア的精神により行われてきた院内感染対策に経済的な誘導が加わった。この経済的な誘導は見事に功を奏しており、診療報酬上の施設基準として求められている速乾式手指消毒剤は、今回訪問した病院においては例外なく各病室の入り口に配置されていた。また、この施設基準で求められている院内感染対策委員会はどの病院にも設置されており、今回の感染管理訪問評価の中では唯一例外的に7病院でa評価であった。しかし、その院内感染対策委員会の活動状況を問う「1.2 日常の感染対策を実践する組織がある」の評価では、a評価は1病院、b評価が1病院のみで、6病院はc評価と言う評価内容であった。即ち診療報酬による経済的誘導は組織を形成させるのに極めて有効であったが、実効ある活動を誘導するところにまでは踏み込めないでいると考えられる。
病院の全般的な評価に関しては、(財)日本医療機能評価機構が第三者評価を精力的に展開しているが、今後わが国の院内感染対策が充実して行くには、感染対策に着目した今回のような第三者評価が普及して行かなければならないと言えよう。
また、院内感染を疫学的に把握するためのサーベイランスはまだ殆ど普及していないのがわが国の現状である。今回私どもが開催した「実践講座 院内感染サーベイランス」は、指導的なテキストもあまり見あたらないわが国の現状で、病院感染疫学調査を普及させるためのきっかけになったものと自負するものである。
今回の一連の感染管理評価活動から、評価基準及び評点基準となった「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」に関する問題点が明らかとなったため、その改訂版開発が為された。スタンダードはわが国の感染管理の有るべき姿を提示するものである。この改訂版を参考にすることにより、病院は旧版以上に具体的に自施設の対策改善を行うことができる。
(1) 感染管理評価検討会
上記のように「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を用いての病院訪問調査が行われたが、平成10年9月までに訪問調査が実施された8病院での調査結果を10月24日の「感染管理評価検討会」で報告した。
評価の対象とした病院は、「医療の質に関する研究会」の会員病院である。各病院とも良質の医療を提供することに関しては、モティベーションの高い病院であり、その規模や機能に違いは有るものの基本的には地域病院である。今回の訪問評価はいずれも病院側からの主体的な参加希望により行われた。
8病院の構成は、自治体立病院が1病院で、7病院は医療法人である。所在地は北海道1,関東1,中部2,近畿1,中国2,九州1であった。病床数は、100-200床2施設,200-300床1施設,300-400床2施設,500-600床1施設,600-700床1施設,700-800床1施設であった。
感染管理の評価基準及び評点基準となるスタンダードは「1.組織的な感染管理システムがある」「2.サーベイランスが行われている」「3.病院における種々の分野での感染対策がなされている」の3つの1桁項目からなり、各1桁項目の下位に2桁項目として以下の項目がある。「1.1 院内感染対策の決定機関としての感染対策委員会がある」「1.2 日常の感染対策を実践する組織がある」「1.3 管理部門に感染管理システムを支援する方策がある」「2.1 院内感染の現状が把握されている」「2.2 サーベイランスの結果がフィードバックされている」「3.1 院内感染防止対策マニュアルがある」「3.2 患者ケアに関連する具体的な感染対策がなされている」「3.3 手術・麻酔に関連する感染管理がなされている」「3.4 細菌学的検査が組織的に機能している」「3.5 薬剤を管理する体制がある」「3.6 ハウスキーピングなどにおける感染対策がなされている」「3.7 感染防止についての教育活動が行われている」「3.8 病院職員に対して職業感染防止対策を実施している」。この2桁項目の下に更に3桁項目があり、各項目毎に評点を付けるためのガイドラインがあり、具体的な感染対策を評価している。各3桁項目毎にa, b, cの3段階で評価した。
今回の8病院の訪問評価の結果から、共通して評価が低かった項目としては、「2. サーベイランスが行われている」がA評価がなく、B評価が2病院、C評価が6病院であった。サーベイランスの方法論がまだわが国では浸透していないことが明らかとなった。「3. 病院における種々の分野での感染対策がなされている」にもA評価はなく、6施設がB評価で2施設がC評価であった。この「3. 病院における種々の分野での感染対策がなされている」の下位の2桁項目では、「3.2 患者ケアに関連する具体的な感染対策がなされている」では、1施設がc評価だった他は6施設がb評価であった。「3.4 細菌学的検査が組織的に機能している」では、b評価が5施設、c評価が3施設であった。「3.6 ハウスキーピングなどにおける感染対策がなされている」ではb評価2施設、c評価が4施設であった。「1.組織的な感染管理システムがある」は比較的評価が高くなったが、それでもA評価1施設、B評価6施設、C評価1施設であった。以上のように病院によって違いはあるものの、全体として院内感染対策の評価は極めて低いことが判明した。
評価方法の問題として病院側から指摘された点としては以下の諸点が挙げられた。
① サーベイの時間が短い。これは殆どの病院から指摘された点であった。半日で感染管理のサーベイを行うようにしたため、部署訪問による評価等がどうしても時間不足気味になった。
② 評価に用いるスタンダードの記載に具体的でない箇所があったため、自己評価に際して判断に困ることがあったと指摘された。また、評価方法に関するものではないが、「医療の質に関する研究会」として、こうすれば完璧であると言えるようなモデルを提示してもらえると病院の努力目標になるとの意見を得た。
以上のように、今回の一連の訪問調査からわが国の院内感染対策が極めて不十分な状態にあることが判ったため、この「感染管理評価検討会」では、当研究会の感染管理専門家委員による教育講演を併せて行い、感染管理活動の有るべき姿を提示した。
(2) 感染管理スタンダード改訂ワークショップ
「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」を実際に運用して、病院の訪問調査を行い、スタンダード自体の問題点が指摘された。このため、改訂版作製作業が開始された。平成11年3月6日に感染管理専門家委員を中心にした会員参加によるグループワークにて改訂第2版原案が作製された。原案をもとに若干の修正が加えられ、現在第2版は校了に向けての最終段階にある。
(3)「実践講座 院内感染サーベイランス」
本年の病院訪問調査から、病院感染疫学調査が殆どの病院で行われておらず、その方法論も理解されていない施設が多いことが判明した。感染管理の評価を行ってきた私どもの研究会としては、この現状を憂い、わが国の病院感染疫学調査の普及に少しでも裨益することを期待して、平成11年3月7日に一般公開の教育プログラム「実践講座 院内感染サーベイランス」を開催した。
考察=私ども「医療の質に関する研究会」が、これまでわが国において行われてこなかった病院における感染管理の第三者評価を実施したところ、その評価結果は極めて厳しいものであった。評価対象とした病院数は限られたものであったが、この結果を一部の特殊な病院の結果と捉えるべきではなく、日本の病院の現状を十分に反映したものと考えられるものであった。
院内感染に対する施策としては、さまざまな対策が講じられてきており、例えば平成8年4月の診療報酬改定から院内感染防止対策に対する保険点数が認められた。それまでは、社会的な要請をもとに病院のボランティア的精神により行われてきた院内感染対策に経済的な誘導が加わった。この経済的な誘導は見事に功を奏しており、診療報酬上の施設基準として求められている速乾式手指消毒剤は、今回訪問した病院においては例外なく各病室の入り口に配置されていた。また、この施設基準で求められている院内感染対策委員会はどの病院にも設置されており、今回の感染管理訪問評価の中では唯一例外的に7病院でa評価であった。しかし、その院内感染対策委員会の活動状況を問う「1.2 日常の感染対策を実践する組織がある」の評価では、a評価は1病院、b評価が1病院のみで、6病院はc評価と言う評価内容であった。即ち診療報酬による経済的誘導は組織を形成させるのに極めて有効であったが、実効ある活動を誘導するところにまでは踏み込めないでいると考えられる。
病院の全般的な評価に関しては、(財)日本医療機能評価機構が第三者評価を精力的に展開しているが、今後わが国の院内感染対策が充実して行くには、感染対策に着目した今回のような第三者評価が普及して行かなければならないと言えよう。
また、院内感染を疫学的に把握するためのサーベイランスはまだ殆ど普及していないのがわが国の現状である。今回私どもが開催した「実践講座 院内感染サーベイランス」は、指導的なテキストもあまり見あたらないわが国の現状で、病院感染疫学調査を普及させるためのきっかけになったものと自負するものである。
今回の一連の感染管理評価活動から、評価基準及び評点基準となった「感染管理部分的サーベイ スタンダード&スコアリングガイドラインVer1.0」に関する問題点が明らかとなったため、その改訂版開発が為された。スタンダードはわが国の感染管理の有るべき姿を提示するものである。この改訂版を参考にすることにより、病院は旧版以上に具体的に自施設の対策改善を行うことができる。
結論
院内感染対策の第三者評価システムの研究開発により、院内感染対策を評価するスタンダードが開発された。その運用によって、わが国における院内感染対策の現状が明らかになった。各病院共通の問題点であった院内感染の疫学調査に関しては教育プログラムを提供し、普及啓蒙を行った。また、スタンダードの問題点を改善するため改訂版が開発された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-