文献情報
文献番号
199800781A
報告書区分
総括
研究課題名
ケースミックス分類に基づく診療パフォーマンスの指標化標準手法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(九州大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ケースミックス分類を用いて、日常の診療パフォーマンスを指標化する標準的なシステム・方法論を開発することを当研究の目的とし、ルーチンに得られる日常の診療関連データに基づいて国内外の標準的な既存のDRG分類等を用い、さらに互換性を保持して精緻化したケースミックス分類を用いて、診療パフォーマンス評価のための指標を系統的に日常的に算出する手法の体系化・標準化を行うことを目的とする。三年計画の中で、順次、評価指標の完成度を高めるとともに、対象病院と対象疾患群の範囲を広げ、診療機能の評価指標を測定する体系の標準化を行う。具体的には、1)データ構造を規定し、現実的・効率的に導入できる収集方法を設定、2)参加多施設より収集したデータベースで既存のケースミックス分類の精緻化方法を開発、3)分類内の消費資源、在院日数、診療報酬額のばらつきの評価検討や影響要因の解析、4)規定のデータセット内で創案し開発を進めてきた多軸的な重症度補正方法の導入を図り、より妥当な施設間の比較評価、5)多軸的な臨床的効果の測定方法を導入しての評価指標の算出・検討、といったことを行う。初年度において対象疾病類型は循環器系の一部に限定したが全てを試行・施行した。
ケースミックス分類内の在院日数や診療報酬総額などのばらつきが大きい一つの理由として、症例の重症度が考慮されていないこと点がある。既存の重症度評価方法(PMC, Comorbidity Score, AIM, APRDRG, MedisGroup, APACHE ⅡおよびⅢなど)をレビューしたところ、いずれもコード体系やデータの記録・利用可能性といった点で日本の病院診療情報管理の現状では使いづらい。そこで本研究は、診療情報管理でルーチンに得られるデータを持って、、多軸的な重症度を用いて層別化し精緻化し、より妥当な臨床と資源消費との評価指標の算出基盤を構築すること、それをデータで実証することを目的とした。
ケースミックス分類内の在院日数や診療報酬総額などのばらつきが大きい一つの理由として、症例の重症度が考慮されていないこと点がある。既存の重症度評価方法(PMC, Comorbidity Score, AIM, APRDRG, MedisGroup, APACHE ⅡおよびⅢなど)をレビューしたところ、いずれもコード体系やデータの記録・利用可能性といった点で日本の病院診療情報管理の現状では使いづらい。そこで本研究は、診療情報管理でルーチンに得られるデータを持って、、多軸的な重症度を用いて層別化し精緻化し、より妥当な臨床と資源消費との評価指標の算出基盤を構築すること、それをデータで実証することを目的とした。
研究方法
協力の得られた病院群で構築してきた症例データベースを活用し、心臓血管疾患系の症例を抽出して解析対象とした。症例データは、患者の性別、年齢、などの基礎データ、入退院日(在院日数)、主病名の同定を含む病名とコードのリスト、手術・処置とそのコードのリスト、診療報酬情報などである。一入院で一レコードとした。CABG(冠動脈大動脈バイパス移植術)施行症例については406レコードが収集された。
ここでは、心臓血管系の診断群に焦点をおき、一定症例数が確保できる症例群を解析対象とした。在院日数と診療報酬総額の諸分類案症例群におけるばらつきの状態とその要因を解析した。死亡率の解析については、CABGなど死亡退院率が比較的高い症例群を対象とした。
ここでは、心臓血管系の診断群に焦点をおき、一定症例数が確保できる症例群を解析対象とした。在院日数と診療報酬総額の諸分類案症例群におけるばらつきの状態とその要因を解析した。死亡率の解析については、CABGなど死亡退院率が比較的高い症例群を対象とした。
結果と考察
得られた症例データベースを用いて、ケースミックス分類とそれに基くパフォーマンス指標化の解析結果は以下のようにまとめられる。
(1)既存の分類内の在院日数や診療報酬総額など資源関連指標のばらつき著しいが、年齢、副病名、入院の緊急性など診療情報管理でルーチンに得られる情報を加え、分析結果たる根拠に基いて分類を精緻化することにより、診療報酬額の分散を1/4から1/2程度有意に削減することが再確認できた。
(2)また、臨床評価指標として、一症例分類(冠動脈バイパス術症例)の死亡退院率の多施設比較を試みた。上記と同様の方法で症例分類を重症度・危険度をもって層別化したところ、層ごとに2-3%~60%以上といった差が見られた。重症度の分布は病院間で異なったため、層別に施設間比較をすることがより妥当と考えられた。例えば、病院Aは最も重症度の高い群を除く他群では死亡率の低さが著明となること、病院Bはより軽症な群に症例が偏っており、重症度の層別に見ると死亡率の高さがより顕著となることなど、重症度別に死亡率を比較することで病院ごとの特徴を描出することができた。
今後、診療の質の確保と効率化が迫られる診療報酬制度の改革や医療評価の展開において、後述するように従来の医事の範疇におさまらない診療情報の電子化とその活用が診療報酬体系の中で必須となるに違いない。しかしながら現状のレセコンはたいていの場合大いなる欠陥を有しており、それは医事請求に関するデータを格納していながら、レセプト印刷と請求という目的に特化したために、個々のデータエレメントを磁気媒体に落とし込めないということである。また、独自に対処している病院も多くなっているが、診療報酬の請求が月ごとであるために、月をまたがっている症例のデータが1件に集約できないことが普通である。これらの問題が新しい診療報酬や医療評価の体系構築にネックになると考え、我々は既に1994年より自発的なグループで医療の指標化プロジェクトを実稼動させて上記のような欠陥を修正してさらに各部門サブシステムの情報を集約できるように参加各病院の情報システムを改変し、より詳細な部分までデジタル化を進めている。
1997年度の急性期入院医療の定額支払い試行導入の検討に関する国の基礎調査では必要なレセプト情報を収集する際、対象病院のレセコンが上記のようにデータのデジタル化に対応できず、コンピュータが再度紙に打ち出したものから人間がデータを拾い上げてコンピュータに入力し直すというとても非効率な手段をとらざるを得なかったのである。この基礎調査において、我が国の多くの医療機関が抱える医療情報上の課題に改めて直面することとなり、医療情報のデジタル化の状況、データの要素や構造の標準化、院内の異なるシステム間のデータの連結、症例の類型化に必要なデータセットの確定と普及、原価関連情報といったような基本的な課題における不備が、明確に示されたということである。今後、以上の問題は、DRGなどのケースミックス分類に基く管理手法・改善手法の普及に伴い、より多くの医療機関において、そして国レベルに施策において、顕在化するであろう。パフォーマンスに応じて報酬が決められる効果的、効率的なしくみが構築されるためには、実証的にそういうしくみづくりを行う必要があり、そのためには情報の下部基盤の整備が必須である。診療パフォーマンスと消費資源を算出するための症例分類システムのフレームワークCAMP(Case index system to Adjust and Measure Performance in clinical effectiveness and efficiency, CAMP-CEE)をその情報基盤の一つの考え方として提案している。コード体系整備を含め、症例類型化、指標化にのための「開発の枠組み」を呈示するとともに、症例類型化や重症度・患者因子による補正や細分類化(医療費・資源の場合、Resource Intensity Equivalent Groups)をする技術を実証的に示そうというものである。このようなケースミックス分類の開発や制度への導入には、診療情報に関するコード体系とデータセットの標準化と普及、および情報がデジタル化されていることが基盤となる。
また、研究成果を適用する際に社会的な状況と適用方法を十分に配慮することにより、以下のような間接的な社会的成果が可能性として期待される。(1) 各医療機関での診療の機能・質の内部評価や改善活動に資する。 (2) 第三者による病院の診療機能評価あるいは認定事業への活用も考えられる。 (3) 多施設の評価指標をもって参照データベースを構築し、医療者に公開することにより、一層の質評価・改善活動を促進しうる。 (4) 診療のパフォーマンスと支払との関係を再構築する上で、支払者が活用しうる。 (5) 公開手法を検討した上で、一般への情報公開に活用しうる。 (6) 上記の潜在的な利用方法を通じて、社会における医療の質の保証と向上のための情報基盤として資する。
(1)既存の分類内の在院日数や診療報酬総額など資源関連指標のばらつき著しいが、年齢、副病名、入院の緊急性など診療情報管理でルーチンに得られる情報を加え、分析結果たる根拠に基いて分類を精緻化することにより、診療報酬額の分散を1/4から1/2程度有意に削減することが再確認できた。
(2)また、臨床評価指標として、一症例分類(冠動脈バイパス術症例)の死亡退院率の多施設比較を試みた。上記と同様の方法で症例分類を重症度・危険度をもって層別化したところ、層ごとに2-3%~60%以上といった差が見られた。重症度の分布は病院間で異なったため、層別に施設間比較をすることがより妥当と考えられた。例えば、病院Aは最も重症度の高い群を除く他群では死亡率の低さが著明となること、病院Bはより軽症な群に症例が偏っており、重症度の層別に見ると死亡率の高さがより顕著となることなど、重症度別に死亡率を比較することで病院ごとの特徴を描出することができた。
今後、診療の質の確保と効率化が迫られる診療報酬制度の改革や医療評価の展開において、後述するように従来の医事の範疇におさまらない診療情報の電子化とその活用が診療報酬体系の中で必須となるに違いない。しかしながら現状のレセコンはたいていの場合大いなる欠陥を有しており、それは医事請求に関するデータを格納していながら、レセプト印刷と請求という目的に特化したために、個々のデータエレメントを磁気媒体に落とし込めないということである。また、独自に対処している病院も多くなっているが、診療報酬の請求が月ごとであるために、月をまたがっている症例のデータが1件に集約できないことが普通である。これらの問題が新しい診療報酬や医療評価の体系構築にネックになると考え、我々は既に1994年より自発的なグループで医療の指標化プロジェクトを実稼動させて上記のような欠陥を修正してさらに各部門サブシステムの情報を集約できるように参加各病院の情報システムを改変し、より詳細な部分までデジタル化を進めている。
1997年度の急性期入院医療の定額支払い試行導入の検討に関する国の基礎調査では必要なレセプト情報を収集する際、対象病院のレセコンが上記のようにデータのデジタル化に対応できず、コンピュータが再度紙に打ち出したものから人間がデータを拾い上げてコンピュータに入力し直すというとても非効率な手段をとらざるを得なかったのである。この基礎調査において、我が国の多くの医療機関が抱える医療情報上の課題に改めて直面することとなり、医療情報のデジタル化の状況、データの要素や構造の標準化、院内の異なるシステム間のデータの連結、症例の類型化に必要なデータセットの確定と普及、原価関連情報といったような基本的な課題における不備が、明確に示されたということである。今後、以上の問題は、DRGなどのケースミックス分類に基く管理手法・改善手法の普及に伴い、より多くの医療機関において、そして国レベルに施策において、顕在化するであろう。パフォーマンスに応じて報酬が決められる効果的、効率的なしくみが構築されるためには、実証的にそういうしくみづくりを行う必要があり、そのためには情報の下部基盤の整備が必須である。診療パフォーマンスと消費資源を算出するための症例分類システムのフレームワークCAMP(Case index system to Adjust and Measure Performance in clinical effectiveness and efficiency, CAMP-CEE)をその情報基盤の一つの考え方として提案している。コード体系整備を含め、症例類型化、指標化にのための「開発の枠組み」を呈示するとともに、症例類型化や重症度・患者因子による補正や細分類化(医療費・資源の場合、Resource Intensity Equivalent Groups)をする技術を実証的に示そうというものである。このようなケースミックス分類の開発や制度への導入には、診療情報に関するコード体系とデータセットの標準化と普及、および情報がデジタル化されていることが基盤となる。
また、研究成果を適用する際に社会的な状況と適用方法を十分に配慮することにより、以下のような間接的な社会的成果が可能性として期待される。(1) 各医療機関での診療の機能・質の内部評価や改善活動に資する。 (2) 第三者による病院の診療機能評価あるいは認定事業への活用も考えられる。 (3) 多施設の評価指標をもって参照データベースを構築し、医療者に公開することにより、一層の質評価・改善活動を促進しうる。 (4) 診療のパフォーマンスと支払との関係を再構築する上で、支払者が活用しうる。 (5) 公開手法を検討した上で、一般への情報公開に活用しうる。 (6) 上記の潜在的な利用方法を通じて、社会における医療の質の保証と向上のための情報基盤として資する。
結論
診療録・診療情報管理でルーチンに得られるデータにより構築した症例データベースに基き、解析結果たる根拠に基づき重症度を取り入れた精緻なケースミックス分類を作成し、より妥当な資源関連指標や臨床パフォーマンス関連指標を算出基盤と資することができうることを、複数病院の特定の症例群において実証的に示した。
DRGなどケースミックス分類内の在院日数や診療報酬総額など資源関連指標のばらつきはかなり大きいが、年齢、副病名、入院の緊急性などの、診療情報管理でルーチンに得られるデータで精緻化することにより、診療報酬額の分散を削減することが再確認できた。また、臨床評価指標として、一症例分類(冠動脈バイパス術症例)の死亡退院率の多施設比較を試みた。上記と同様の方法で症例分類を重症度・危険度をもって層別化したところ、複数病院データベース総体として層ごとに2-3%から60%以上といった差が見られた。重症度の分布は病院間で異なったため、層別に施設間比較をすることがより妥当と考えられた。層別に比較することにより、病院ごとの特徴を描出することができた。この研究目的にある一連の方法論の妥当性と安定性を高め、より普遍的に他の症例群にも適用していくための、重要な基盤が得られた。
DRGなどケースミックス分類内の在院日数や診療報酬総額など資源関連指標のばらつきはかなり大きいが、年齢、副病名、入院の緊急性などの、診療情報管理でルーチンに得られるデータで精緻化することにより、診療報酬額の分散を削減することが再確認できた。また、臨床評価指標として、一症例分類(冠動脈バイパス術症例)の死亡退院率の多施設比較を試みた。上記と同様の方法で症例分類を重症度・危険度をもって層別化したところ、複数病院データベース総体として層ごとに2-3%から60%以上といった差が見られた。重症度の分布は病院間で異なったため、層別に施設間比較をすることがより妥当と考えられた。層別に比較することにより、病院ごとの特徴を描出することができた。この研究目的にある一連の方法論の妥当性と安定性を高め、より普遍的に他の症例群にも適用していくための、重要な基盤が得られた。
公開日・更新日
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