病院における機能分類と評価体系のあり方に関する実証的研究

文献情報

文献番号
199800780A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における機能分類と評価体系のあり方に関する実証的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
福田 敬(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中野夕香里(日本医療機能評価機構)
  • 伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では、1995年に、財団法人日本医療機能評価機構が設立され、病院の評価および認定活動が推進されている。評価をする方法としては、評価基準を定め、それに基づいて医療・看護・事務管理等の各専門家が病院を訪問して評価する形式がとられている。 現行では、審査種別として、一般病院A・B、精神病院A・B、長期療養型病院があり、原則としてはいずれかの種別の評価基準を用いて評価を実施している。しかしながら、実際には、これらの機能が組合わさって1つの病院となっている場合もあり、評価体系の見直しが求められる。そこで、本年度は、病院における機能の分類およびその組み合わせを医療機能評価を受審した病院のデータをもとに分析し、また、わが国の医療機能の多様性に関して、特に精神疾患患者における一般医療との組み合わせの状況を把握する。これらの結果をもとに病院の機能評価体系を検討することを目的とする。
研究方法
本研究では、医療機能評価受審病院のデータを用いた機能分類と組み合わせの検討と精神科医療機能の多様性に関する調査、および米国における診療機能区分とその評価体系の検討を行った。医療機能評価受審病院のデータを用いた機能分類では、日本医療機能評価機構における評価を受審した259病院の書面審査データを用いた。項目としては開設者、病院の種別、病床数、特殊病床数、併設施設、臨床研修指定、病棟ごとの機能として、病床数、病床の種類、平均在院日数、老人比率、看護婦数等、また各部門の機能として、救急医療体制、内視鏡、画像診断、検体検査、病理診断、手術、中央滅菌、リハビリ、栄養、診療録管理、訪問看護等の機能の有無に関するデータを用いた。病棟の機能は以下の通りに分類した。一般病床については急性期と長期療養機能に、それ以外は、緩和ケア、精神病棟、集中治療、救急専用、伝染性疾患に分類した。病棟以外の部門については、院内でどの程度その機能を有するかという観点から、機能の有無を変数とした。精神科医療機能の多様性に関する調査、および米国における診療機能区分とその評価体系の検討では、精神病院の入院患者の分析として、福岡県精神病院協会会員のうちの22の精神病院に入院した計1,100名のうち有効な回答が返送された984名についての分析を行った。調査内容は、人口統計学特性、精神医学的診断、患者の社会生活機能等を測定する機能の全般的評定、入院形態、および身体合併症の有無である。また、米国における診療機能評価の区分については、評価組織や評価区分、評価体系を検討する際の課題等について専門家への聞き取り調査を中心に実施した。
結果と考察
医療機能評価受審病院のデータを用いた機能分類と組み合わせの検討において、対象とした病院は258で、受審した種別では一般病院が225、精神病院が22、長期療養型病院が11であった。病院の種類と実際の受審種別との関係をみると、特定機能病院と総合病院は全て一般病院種別で受審しているが、単科専門病院では一般病院種別が23、長期療養型が1、その他一般病院では、一般病院種別で受審している病院が108、長期療養型種別で受審している病院が21であった。また、病院の性格と受審種別の関係をみると、一般病院種別で受審している病院では、急性期型が189、慢性期型が1、ケアミックス型が28となっており、一般病院種別であっても、慢性期型やケアミックス型が多く存在することが示された。長期療養型種別で受審している病院では、急性期型は1、慢性期型が10、ケアミックス型が12であった。ケアミックス型では、全ての病床が慢性期医療のために用いられているのではなく、一部
で急性期型の医療も担っているため、長期療養型種別の評価基準のみでよいかどうかは検討が必要である。精神病院種別で受審している病院では、急性期型が1、慢性期型が3、ケアミックス型が7であった。医療法上の定義とは異なり、精神病院種別で受審する病院の一部には一般病床を有し、精神疾患以外の患者にも対応している場合があり、その部分の評価も必要である。病棟別の機能をみると、急性期病棟を有する病院は214(83.3%)あり、これは病院の性格として、急性期型とケアミックス型を選択した病院の合計よりも少なかった。長期療養機能を有する病院は180(70.0%)であり、病院の性格として急性期型としている病院の多くで長期療養機能を有する病棟を持っていることになる。緩和ケア病棟を有する病院は8、結核・伝染病棟を有する病院は33であった。精神病棟に関しては43の病院で有しており、病院種別が精神病院であるものは22であるため、一般病院においても精神病棟を有する病院が多いことがわかる。精神科医療機能の多様性に関する調査では、984名の対象者のうち、身体合併症を有する患者は442人(44.9%)であった。機能の全般的評定(DSM-IV)の平均値では、身体合併症のある患者は31.4で身体合併症のない患者の36.4より、有意に低い値となっていた。米国における診療機能評価区分とその体系に関しては、米国では、医療専門家、政府および消費者団体の大きく3つに分類できる立場から、診療機能の評価が行われていた。それぞれの団体は、おもに構造および過程の評価が中心であるが、近年医療のアウトカムに関連するパフォーマンスの指標を用いた診療機能評価方法を開発している。医療専門家による医療機能評価としては、JCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations) NCQA(National Committee for Quality Assurance)、AMAP(American Medical Association Program)があり、病院だけでなく各種医療サービスの評価・認定が行われている。また、アウトカムを用いた評価も検討されている。病院が長期療養施設を有している場合にJCAHOが実施しているテイラード・サーベイはわが国の状況にも類似しているものであり、今後の参考になると思われた。政府機関による医療評価活動としては、HCFA(Health Care Financing Administration)やAHCPR(Agency for Health Care Policy and Research)があり、医療施設の評価だけでなく、パフォーマンス指標の開発にも取り組んでいる。消費者団体による医療評価活動としては、FACCT(Foundation for Accountability)があり、医療の質に関する情報を消費者が理解するのを助けるような活動を行っている。わが国においては、病院は急性期、長期療養、精神等様々な機能を有しており、各病院がそれらの機能の独自の組み合わせをもって運営している。医療機能評価を受審した病院のデータからは、これらの組み合わせの状況が把握され、従来の病院種別で対応することが困難であることが示唆された。また、精神疾患患者についての調査からは、身体合併症を有する患者の状況が把握され、これらの患者について対応することは精神疾患を主に扱う病院においても必要なことであると認識された。わが国における医療機能評価の評価体系を検討する際には、先行して実施している諸外国の状況を参考にすることは有効であり、米国の状況からは、医療専門家、政府、消費者団体のそれぞれからの医療評価の考え方が示された。特に医療専門家が行う評価においては、病院の機能に応じた評価基準の組み合わせを行うなどの工夫もなされており、わが国でも参考になると思われる。また、アウトカムあるいはパフォーマンス指標を用いた評価方法の検討もなされており、今後、わが国でも検討する必要があると思われた。
結論
わが国では、それぞれの病院が様々な機能の組み合わせを有しており、医療機能評価においては、このような様々な機能に合った評価体系の検討が必要である。これらの機能を評価する体系としては、機能別の評価項目とそれを病院に応じて組み合わせるしくみが必要と考えられ、今後、評価体系の見直しと基準の作成を行
い、実施していくことが望まれる。

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