文献情報
文献番号
201927023A
報告書区分
総括
研究課題名
2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた熱中症診療ガイドライン改定に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
19LA2001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 康史(帝京大学 医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
- 清水 敬樹(東京都立多摩総合医療センター 救命救急センター)
- 横堀 將司(日本医科大学 医学部)
- 中原 慎二(神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,923,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦の熱中症対策においては、これまで熱中症の実態調査の実施やそれに基づく診断基準の策定、具体的な応急処置の手順、救急搬送の適応などが定められ幅広く啓発されてきた。2015年には厚生労働科学研究の支援のもと、日本救急医学会において熱中症診療ガイドライン2015が策定され、これをふまえて高齢者の熱中症発生原因の把握と予防、診療がなされてきた。しかし2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を控え、熱中症の疫学と重症度把握、リスク因子と予防、マスギャザリング対応、冷却法や臓器別治療などについて最新の知見を反映する必要があることから、新たなエビデンス評価に基づくガイドラインの改訂を目的とした。またこれまで厚生労働科学研究と日本救急医学会により毎夏実施されてきた全国の救急医療機関による症例登録Heatstroke STUDYを継続して新たなエビデンス構築に資すること、重症熱中症に対する診断、治療効果判定、予後予測の指標となるバイオマーカーとしてliver-type fatty-acid binding protein(L-FABP)の有用性につき検討することとした。
研究方法
熱中症診療ガイドライン2020改訂にあたっては、医中誌Web、MEDLINE、Cochraneから抽出された2,591件の論文から抄録の確認できる2000年以降の原著論文を選択し、日本救急医学会熱中症および低体温症に関する委員会の協力を得て、評価基準(対照群を設けた比較研究、メタ解析、システマティックレビュー、50例以上の実際の患者を対象とした観察研究)によりスクリーニングを行い、抄録、実文献に目を通して過半数の評価者が採用した356件の論文を基本セットとした。Clinical Questionは4つの項目(疫学・定義・重症度/リスク因子・予防・マスギャザリング/冷却法/臓器別治療)で33件設定した。Heatstroke STUDYにおいては、日本救急医学会との連携のもと2019年7月から9月に指導医・専門医施設と救命救急センター110施設の熱中症入院患者734症例を対象とし、発症と来院時の状況、治療方法、転帰の情報をウェブ上で収集し分析した。バイオマーカーとしてのL-FABPの検討では、非介入の多施設前向き観察研究で、入院を必要とする熱中症患者において来院時、来院12-24時間後、36-48時間後の尿中L-FABPを測定し、各種生化学検査値、発症一か月後のmRSとの相関性を検討する。12例が集積され中間解析を行った。
結果と考察
熱中症診療ガイドライン2020の改訂では、採用されたエビデンス内容をもとに記載内容の検討と執筆、peer reviewを行いガイドラインとしてまとめた。CQに応える十分なエビデンスが文献のみからは得られず、専門家の意見等エビデンスレベルの低いものを用いることとなった。今後のさらなるエビデンス構築が必要である。Heatstroke STUDY2019においては、男性、65歳以上の高齢者が多くを占めた。発生場所は屋外と屋内で拮抗し、肉体労働や日常生活による労作性が多く、ADLが極端に低下している症例は少なかった。現場での高体温(>40.0℃)例はそれ以下の例の半分程度で、軽度の意識障害を認める症例が多かった。来院時の深部体温は主に直腸か膀胱で測定され、高体温でない症例も一定数含まれていた。応急処置の実施にもかかわらず、来院後の深部体温の高い例が多かった。重症度指標からは多臓器不全を呈している重症例が半数程度は含まれていると考えられた。冷却の目標設定温度は38℃が多く、冷却法は大多数で蒸散冷却が用いられており、体温管理装置も広まりつつあるが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の流行下では蒸散冷却法ではエアロゾル発生による感染リスクが指摘されており、今後は別の方策を検討する必要がある。入院例では約1割が死亡転帰であった。バイオマーカーとしてのL-FABPに関する検討では、尿中L-FABPと各種生化学検査値はいずれも正の相関を認め、とくに乳酸値との相関性が確認できた。一か月後の転帰良好(mRS 0-2)についてROC解析を行ったところ、尿中L-FABPは多種の検査値と同等のAUCを示した。
結論
本研究による最新のエビデンスに基づく熱中症診療ガイドラインの改訂と、全国の救急医療機関による症例登録から得られる疫学・病態に関する知見、新たなバイオマーカーの有用性の把握が、今後の熱中症の予防と発生数の減少、重症化、死亡者数の減少に寄与すると考えている。2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、マスク装着や外出自粛要請等の感染拡大防止策が実施されているなかでの熱中症の予防や感染症との鑑別等について、本研究の成果をふまえて診療指針が作成される予定である。
公開日・更新日
公開日
2024-08-30
更新日
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