宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査

文献情報

文献番号
201927022A
報告書区分
総括
研究課題名
宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査
課題番号
H25-健危-指定(復興)-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 永富 良一(東北大学 大学院医工学研究科)
  • 井樋 栄二(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 富田 博秋(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災から9年余りが経過した現在、被災者では、復興公営住宅や防災集団移転など恒久住宅への転居が完了したことから、移転後の健康問題が懸念されている。本研究の第1の目的は、長期にわたり被災者の健康状態や生活環境を調査して、その推移を把握し、被災者と被災自治体の健康管理のために必要な対応を図ることである。第2の目的は、コホート研究として、被災者における生活環境(居住の場・仕事や収入・地域の絆など)や健康状態(健康診査結果、メンタルヘルス、生活不活発など)と予後(生存死亡、医療受診、介護保険認定など)を長期追跡して、震災後の生活環境などの変化が被災者の健康状態や予後に及ぼす影響を検討することである。
これらにより、今後このような大規模災害が発生した際にどのような被災者支援を行うべきであるかを明らかにし、マニュアルや指針として示すものである。
研究方法
 石巻市沿岸部、仙台市若林区および七ヶ浜町で被災した者を対象に、被災者健康調査(アンケート調査)を実施した。18歳以上の者を対象に、健康状態、食事、睡眠、心理的苦痛、震災の記憶、職業・収入、周囲への信頼感などを調査した。18歳未満の者には、医療の状況、睡眠、保育・学校や友人に関する状況、こころと行動の変化、保護者のストレスなどを調査した。65歳以上には基本チェックリストと生活不活発病チェックリストを追加した。
 被災者健康調査の結果をもとに、メンタルヘルスに影響がみられる者、こころや行動の変化に注意が必要な児童およびストレスを抱えた保護者について、自治体に情報を提供し、支援につなげた。高齢者では、基本チェックリストに基づく要介護発生リスクを評価し、自治体に情報を提供した。また、被災者健康調査の結果説明や健康講話を行うとともに運動指導を実施し、地域住民の健康づくりに向けた支援を実施した。さらに、本研究事業では、対象者の同意に基づいて、予後(生存死亡、医療受療状況と介護保険認定など)と特定健診成績に関する情報を入手した。これらのデータをもとに、心身の健康状態や医療費、健診成績、介護保険認定率の推移を検討するとともに、被災後の生活環境の変化(転居後の居住形態、地域のつながりなど)と健康状態との関連について解析を行った。
 本調査研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており、東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会の承認を受けている。
結果と考察
 震災9年目の被災地域住民の健康状態や生活環境の推移などを把握した。今年度は、石巻市(雄勝・牡鹿・網地島)で2,389人、仙台市若林区(プレハブ仮設住宅に入居した者)で511人、七ヶ浜町で1,310人、合計4,210人から回答が得られた。調査結果の概要を述べる。第1に、国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者の1人当たりの年間医療費は増加していたが、入院による費用の増加の影響が大きいと考えられた。第2に、就業状況は安定していたが、働き盛り世代で「大変苦しい」「苦しい」と答えた割合が増加した。第3に、未成年の健康状態は良好であったが、集中力、やる気の低下といった不安定な情動が継続していた。小、中学生の児童を持つ保護者では、緊張状態の持続、過労、ストレスなどにより不眠や体調不良を有する者が多かった。第4に、被災地域の65歳以上高齢者の介護保険認定割合は震災からの時間経過とともに増加していた。第5に、被災地域住民の筋骨格系自覚症状の有訴率は、依然として一般集団より高い傾向がみられた。第6に、震災後のメンタルヘルスには、震災からの経年変化に加えて、地域の復興状況、生活環境の変化、コミュニティにおける他者との交流の活性化などの環境要因で変動することが示唆された。第7に、震災後3、4年目に筋骨格系疼痛を有する者では、新規の運動機能障害の割合が有意に増加した。第8に、被災後の恒久住宅への転居は、BMI、収縮期血圧、γ-GTP、中性脂肪の平均値および特定保健指導の該当割合の推移に影響することが示唆された。
結論
 本年度も被災者健康調査(アンケート調査)により、生活環境などの変化による健康影響を調査した。震災後9年目となり、被災者では復興公営住宅や防災集団移転など恒久住宅への移転が完了したことから、生活環境に応じて、さまざまな健康問題が懸念されている。本調査結果は、被災地域住民の健康管理を支援する基礎情報として有効に活用された。また、調査後に自治体とともに健診結果説明会、健康講話を実施するなど、地域住民の健康維持・増進にも寄与することができた。今後、被災者の生活環境の変化とそれに伴う健康影響を検討し、被災者のニーズに応じた健康支援を継続するとともに、災害時および災害後の健康支援活動の指針となる提言を策定する所存である。

公開日・更新日

公開日
2020-12-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-12-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201927022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,640,000円
(2)補助金確定額
3,640,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,788,549円
人件費・謝金 7,815,613円
旅費 234,150円
その他 14,164,196円
間接経費 8,400,000円
合計 36,402,508円

備考

備考
自己資金 2,508円

公開日・更新日

公開日
2021-01-26
更新日
-