第三者による病院機能評価活動における評価者機能の確保とその向上に関する研究

文献情報

文献番号
199800779A
報告書区分
総括
研究課題名
第三者による病院機能評価活動における評価者機能の確保とその向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊賀 六一(日本医療機能評価機構)
研究分担者(所属機関)
  • 大道久(日本大学)
  • 橋本廸生(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国でも、平成7年に医療機能の第三者評価機構が設立され、社会システムとしての病院の評価活動が始められた。第三者による評価活動では、評価を行う評価者が必須であり、現在進められている事業においては、既に420余名の評価者が養成され、その職務に就いている。評価活動においては、病院の状態について検討する際に、評価者による評価報告が重要な情報源となる。従って、評価者による現場での情報収集が不十分、不適切であったり、判断の基準が不適切である場合には、最終的な評価結果にも大きく影響し、評価者機能を質的に維持、向上することは、評価事業の適切な機能と発展のために重要な課題である。しかし、その一方で、わが国では、当該活動における評価者のあり方やその能力向上について、十分な検討実績がないのが現状である。そこで、本研究では、(1)第三者評価活動において評価者が適切に機能するための組織的基盤のあり方、および、(2)評価者に必要とされる評価その他の役割と能力、(3)評価者の評価能力を継続的に向上するシステムのあり方について、実際の評価活動を通じて検証することを目的とする。
研究方法
まず、第三者による病院の評価活動を行っている各国について、評価者機能の確保、評価者の組織的位置づけ等の現状を、文献等によりとりまとめた。また、それらと比較して、わが国の現状を評価し、その課題を明らかにした。次に、現行の病院機能評価事業における現任の評価調査者約420名を対象にアンケート調査を実施し、現状についての意見を収集し、特に、評価者機能の確保の観点から問題点の整理を行った。調査の内容は、評価活動における評価の内容、審査の方法、チームワークの確保、報告書の取り扱い、評価者としての資質、その他である。調査結果は、KJ法により分析し、その結果をもとに、審査業務におけるさまざまな問題や課題について評価者約150人による集談会の場を設け、討論し、とりまとめた。以上の検討にもとづき、現状において実現可能性が高く、また、有効と考えられる評価方法を検討し、現行の評価活動において、任期を終了し再任対象となる評価者約380名を対象に試行した。
結果と考察
各国の病院評価事業では、評価調査者への教育を様々な方法で行っている。各国の評価調査者の養成とサーベイ派遣を、比較検討した。雇用形態についてみると米国のJCAHOでは常勤のサーベイヤーを擁しているが、カナダのCCHSAでは非常勤である。また、オーストラリアのACHSやイギリスのKFOA・HAPではボランティアによるサーベイヤーがほとんどである。非常勤のサーベイヤーの場合には評価者の標準化という点では困難な面があるが、日頃医療現場で活動している人であり、現場の感覚を持ち、また他の病院の評価を行うことで、自分の病院の改善にも役立ていることができるという副次的な効果もある。日本医療機能評価機構の行う現行の評価活動では、非常勤のサーベイヤーが約420名(平成10年度)おり、人数的には諸外国と比較しても最も多い。しかし、一般にはサーベイヤーの資質を確保するために、年間に最低数回のサーベイに参加することとされているが、日本の場合には現在のところ年間の平均参加回数が少なく、一度も参加していないサーベイヤーも存在する。サーベイヤーは医師、看護、管理の専門家による構成で、評価対象病院の規模やサービス内容によって人数が変化する。通常2~5名程度で評価を行う場合が多い。サーベイヤーの要件としては、それぞれの専門領域での管理経験を持つことが求められ、これ以外にJCAHOでは看護および事務管理者は修士以上の学歴、CCHSAでは認定をされた病院
の職員であることが求められる。サーベイヤーのトレーニングはどの国でも初任時に数日かけて行い、その後、継続研修を行うようになっている。初任時研修はJCAHOでは常勤職員となるため15日と長期間であるが、他の団体では2~4日で、JCQHCでは5日間である。サーベイヤーの質を維持するためには継続研修が必要であるが、JCQHCでは病院の評価活動を開始したばかりであり、継続研修は一部のサーベイヤーにしか行われていない。今後は継続研修が必要であろう。評価者の能力について、CCHSAでは、①管理能力(Administrative Capacity)、②評価者間、評価者-病院間での協調・調整能力(Human Relations Capacity)、③信用性(Credibility)、④態度(Personal Attributes)、⑤認定活動に関わる知識の獲得状況および積極的な姿勢(Accreditation-related Knowledge and Commitment)、⑥分析能力(Analytical Capacity)、⑦コミュニケーションと相談的姿勢(Communication and Consulting)、の7つの視点から整理し、評価者のあり方を規定している。わが国の現行の評価活動の中では、評価者としての①見識、②態度、③質問の仕方、④時間管理の4点について、断片的に問うているのが現状であり、評価者の能力の構成要素について検討し、体系的に整理するにあたって、カナダの事例は参考になる。わが国において実際に評価活動に関わる評価者への調査の結果からは、評価者機能が適切に確保され、また、発揮されることへの阻害要因として、評価の方法論上の問題と個々の評価者あるいは評価者チームの問題が挙げられた。その改善策としては、 (1)チームワーク確保およびチームの効率的業務のためのリーダーの役割・業務の明確化、(2)評価結果のとりまとめに係る問題(評価者間の価値観の相違)の整理、(3)評価者の適性の評価と確保、(4)評価者の連携体制の強化の4点が挙げられた。以上より、評価者の機能を評価し、その適切な維持や向上に役立てる方法論を検討した。まず、評価者機能を規定する内容として、①評価内容の理解、審査の場面での情報収集、評価判定の適切性、報告書の作成等の「評価能力」、②役割・業務内容の理解、時間・スケジュール管理、資料の管理・取扱い等の「行動管理」、③病院に対する態度、言葉遣い、評価者チームにおける協調性等の「態度・行動」の3つの視点から整理を行った。評価の実施方法については、病院による評価、評価者チームのリーダーによる評価、チーム内での相互評価、評価者自身による自己評価等の方法が提案され、それぞれの方法について、その長所や実施上の問題、限界について整理した。その結果、まず、評価者自身による自己評価を行うことが必須であることが確認された。今後は、さらに、自己評価結果の効果的フィードバックのシステム、他者評価の方法論の確立が課題となる。
結論
わが国の現行の評価事業において、評価者機能は、同様の活動を行う各国と比べ、量的には充足されているが、質の維持・向上システムは十分確立されていない。評価者機能の質を規定する要素を検討し、それに沿って、質の測定、評価を行い、また、継続的に向上するためのシステムを構築することが課題である。また、評価者自身により、評価者間の業務遂行状況および評価能力には差があり、業務の適切な遂行のためには、評価者チームの体制、評価結果を導く合議のプロセス、評価者の能力の確保、連携体制の確立等が充実することが必要であると認識されていることも明らかとなった。今後は、上述の検討結果を踏まえて、評価者の能力の向上システムのあり方を検討および社会が期待している評価者機能を明確にし、現状との比較検討を行うことについて、その方策を具体的に検討するとともに、求められる評価者機能をより明確にすることを行う。

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