水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究

文献情報

文献番号
201927008A
報告書区分
総括
研究課題名
水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究
課題番号
H30-健危-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 修(東北大学 大学院工学研究科)
  • 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
  • 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学 学術研究院理工学域工学系)
  • 越後 信哉(京都大学 大学院工学研究科)
  • 清水 和哉(筑波大学 生命環境系)
  • 浅田 安廣(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,185,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では「水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化」 に資する成果を得ることを目指し,流域での障害生物の発生状況やそのメカニズムの把握,流 域スケールでの生物障害発生の広域モニタリングシステムの開発,流域連携による水供給シス テムの生物障害適応性の強化方策の例示に関連する研究を実施した。
研究方法
 質データ,気象データ,及び状態空間モデルを用いることで,ダム湖における藻類異常発生予測モデルを構築することを試みた。中国において実施されている導水事業による水質改善や環境影響に関する報告内容を整理した。カビ臭が発生した全国水源から単藻培養した藍藻類株に対して,形態情報,16S rRNA 遺伝子解析,カビ臭物質合成酵素遺伝子解析,カビ臭原因物質産生の有無について調査を行い,カビ臭原因物質産生藍藻類ライブラリーを構築した。溶存有機物(DOM)の精密質量分析において必要な前処理プロセスである濃縮操作について検討を行った。腐植物質(フミン酸,フルボ酸),アミノ酸,糖類の標準試料を用いて粉炭処理による2-MIB非平衡吸着試験を行い,競合吸着物質を推定した。高分解能LC-MS,およびにおい嗅ぎ機能を付与した高分解能GC-O-MSを併用することで,生ぐさ臭原因物質を探索することを試みた。昨年度に開発した簡易なカビ臭物質産生藍藻類のwhole-cell PCR法を用いた判定量技術と細胞密度との比較を実施した。
結果と考察
 奈良県宇陀市に位置する室生ダムを対象に,藻類バイオマス量との相関の高いクロロフィルa濃度を目的変数とした予測モデルを構築し検証を行った結果,大きく予測が外れた2点を除くことで予測精度が向上した。導水事業に係る研究は様々な観点から実施されており,事業の成果としては太湖,金銀湖,テン池では概ね水質改善効果があったが,南水北調東線の途中の東興澤湖では改善されておらず,個々の条件により結果が左右されることが確認された。カビ臭原因物質産生藍藻類のライブラリーを構築でき,カビ臭が発生した場合の産生種を絞り込む際に有益であることが指摘できた。また本研究で蓄積したカビ臭原因物質合成酵素遺伝子の配列情報より,水源試料を用いた遺伝子解析により早期に産生種の属レベルでの存在把握が可能であることが示唆された。水中のDOMの組成やその変化をOrbitrap質量分析計を用いて精密質量分析する場合に,感度(シグナル強度)と平等性(親水性と考えられる物質回収状況)の観点からは固相抽出よりも乾燥濃縮が優れていることを示した。粉末活性炭による2-MIB吸着除去においてフルボ酸の1 kDa未満の低分子物質が強い競合作用を示し,2-MIB除去率を著しく低下させることが明らかとなった。生ぐさ臭原因物質の候補物質は2,4-dinitrophenylhydrazine (DNPH)と反応可能なカルボニル部位を2 か所有していることが示唆された。カビ臭原因物質産生と非産生の表現型が形態観察では不明なジェオスミン産生Anabaena属(Dolichospermum属)を対象としたジェオスミン合成酵素遺伝子geoAホモログの半定量法および2-メチルイソボルネオール産生Phormidium属(Pseudanabaena属)を対象としてMIB合成酵素遺伝子ホモログの半定量法による個体群数の半定量法を確立した。
結論
 状態空間モデルを用いたダム湖内におけるクロロフィルa濃度の予測モデルの構築ができ,予測精度の向上を取り組んだ。中国の導水事業に関する成果では太湖,金銀湖,テン池では概ね水質改善効果があったが,南水北調東線の途中の東興澤湖では改善されておらず,個々の条件により結果が左右されることが見て取れた。カビ臭原因物質産生藍藻類ライブラリーを構築しその有用性を指摘した。またカビ臭原因物質合成酵素遺伝子の塩基配列情報のデータベースを構築し,水源試料を用いた遺伝子解析による産生種の存在把握が可能であることを示した。水中のDOMの挙動をOrbitrap質量分析計を用いて精密質量分析する場合に,乾燥濃縮はPPLカートリッジを用いた濃縮よりも平等かつ高感度で濃縮できる方法であることが示された。標準試料を用いた粉末活性炭による2-MIB除去実験より,フルボ酸低分子物質(1 kDa以下)が強い吸着競合作用を示すことが示された。LC-HRMSによる試料水の分析により,生ぐさ臭候補物質は,DNPHと反応可能なアルデヒド部位またはケトン部位を2か所保有することが示唆された。水源におけるカビ臭物質産生藍藻類のモニタリングのために,形態観察では困難なカビ臭物質産生藍藻類の識別に有効と期待できるwhole-cell PCR法を開発した。

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
2022-06-17

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201927008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,185,000円
(2)補助金確定額
10,181,000円
差引額 [(1)-(2)]
4,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,353,083円
人件費・謝金 0円
旅費 2,346,387円
その他 482,401円
間接経費 0円
合計 10,181,871円

備考

備考
自己資金:871円

公開日・更新日

公開日
2021-05-07
更新日
-