新型毒性試験法とシステムバイオロジーとの融合による有害性予測体系の構築

文献情報

文献番号
201926014A
報告書区分
総括
研究課題名
新型毒性試験法とシステムバイオロジーとの融合による有害性予測体系の構築
課題番号
H30-化学-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 )
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 )
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所・バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
31,291,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質曝露が実験動物に惹起する遺伝子発現を網羅的にネットワークとして描出する技術と、バイオ・インフォマティクス技術とを実用的に統合し、従来の毒性試験に不確実係数(安全係数)を組み合わせる評価手法を補強するとともに、さらに迅速、高精度、省動物を具現化した新たな有害性評価システムとして従来法を代替することを目標とする。
研究方法
我々が開発したPercellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いて化学物質の反復曝露に対する生体の遺伝子発現の反応を解析した結果、毎回の曝露の度に①その都度の変化を示す「過渡反応」と、②回を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分から構成され、単回曝露影響を単純に積算した変化とは異なることが明らかとなった。そこで、過渡反応と基線反応の関連性が観測可能な新型反復曝露実験(4日間の反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)をクロルピリフォス及び、5-アザシチジンについて実施した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。また、先行研究で新型反復曝露実験を実施したクロフィブレートについて、ヒストン修飾解析を次世代シーケンサーを用いて行った。なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装の上、利用した。
結果と考察
『短期間「新型」反復曝露実験による反復曝露毒性予測技術の開発』については、クロルピリフォス及び、5-アザシチジンに対し「新型」反復曝露実験を実施した。クロルピリフォスは核内受容体系に作用し糖代謝に影響することが示唆され、先行研究で検討したアセフェートと類似性を有することが明らかになった。5-アザシチジンはミトコンドリア機能、EIF-2シグナル系(小胞体ストレス等)、蛋白ユビキチン化系の変化を誘導する点で5-フルオロウラシル、及び、五塩化フェノールに類似していた。ただし遺伝子発現の増減は逆であり、既知の毒性や薬効との関係を更に解析予定である。『毒性発現のエピジェネティクス機構解析』においては、クロフィブレートの14日間反復曝露のヒストン修飾解析を行った結果、DNAメチル化非依存的に遺伝子発現を抑制することが知られているH3K27me3のゲノムワイドな亢進を明らかにした。また再解析によりバルプロ酸においても、同様の変化が起こっていることを確認したため、PPARα作用によるH3K27me3のゲノムワイドな亢進が示唆された。『システム毒性解析の人工知能(AI)化』においては、Percellomeデータから有意に変動した遺伝子を、学習した専門的判断に基づき網羅的に抽出するAIシステムの開発を継続した。また解析パイプラインの中核として先行研究によるSHOEとその関連ツールを選定して開発を進めた。『Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良』では、網羅的比較解析ソフトウェアPercellomeExplorerの機能をオンラインサービスとして提供するために、内部データ構造を抜本的に再設計し高速化した。『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』では、構成しつつある解析パイプラインを実際に使用して、ペンタクロロフェノール曝露による肝のトランスクリプトーム解析を進めた結果、その急性症状(発汗・発熱)がRIG-1パスウェイ活性化を介した抗ウイルス応答の類似機構によって惹起されることを示した。
結論
先行研究の11化学物質に加え、本研究の2化学物質の新型反復曝露時の過渡反応と基線反応の関連性解析を進めると同時に、化学物質ごとの遺伝子発現変動情報も蓄積した。
反復曝露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析においては、3化学物質についてヒストン修飾データやDNAメチル化のデータを蓄積した。これらの情報を照合した結果、遺伝子発現変動情報とエピジェネティクス情報との関連性につき新規性の高い解析結果が得られている。
システム毒性解析の人工知能化については解析パイプラインの機能強化とともに、遺伝子発現データからの候補遺伝子抽出工程のAI化研究を進め一層の精度向上を実現した。
Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良では、Percellomeデータベースをフル活用する網羅的比較解析機能のオンラインサービス提供の目処が立った。
これら基盤データベースの拡充と解析ソフトウェアの開発・改良により、Percellomeデータベースを利用した実用的な解析パイプラインの構築が進み、性能も向上した。

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201926014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
34,494,000円
(2)補助金確定額
34,494,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,569,508円
人件費・謝金 0円
旅費 2,287,251円
その他 17,434,241円
間接経費 3,203,000円
合計 34,494,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-09-07
更新日
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