文献情報
文献番号
201926011A
報告書区分
総括
研究課題名
バイタルサインの統合的評価をエンドポイントとした新規急性経口投与毒性試験方法の開発-統計学による半数致死量から診断学による概略の致死量への転換-
課題番号
19KD1002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部 )
- 種村 健太郎(東北大学大学院農学研究科・動物生殖科学分野)
- 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
21,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、Reductionと Refinementによりヒトの安全性確保に主眼を置いた新規急性経口投与毒性試験方法の開発である。急性毒性試験は時代と共に簡便化され、使用する動物数が削減された。しかし、試験のエンドポイントは動物の「死亡」のままであり、死因、標的臓器等その内容は一切考慮されていない。そのため、ヒトの中毒治療に有用ではないとの批判がある。一方、動物福祉の観点から「死亡」をエンドポイントとすることに強い批判がある。そのため、代替法(Replacement)として、細胞毒性を指標として急性毒性を評価する方法が提案されているが、難溶性物質、代謝活性化による毒性発現物質、心臓や神経系など臓器特異的な毒性評価を代替するに至っていない。本研究では、急性毒性のエンドポイントを「死亡」からより精緻な「複数のバイタルサイン」に置き換え、化学物質の毒性強度の指標を「統計学」を背景とした「半数致死量(LD50)」から「診断学」を基盤にした「概略の致死量」へ転換を図る。
研究方法
1匹の実験動物から多項目に亘るVSを取得することにより毒性徴候を精緻に解析・定量化し、計算科学によって化学物質の急性毒性の強度と毒性標的の合理的判定基準を作成し、ヒトが急性曝露された際の危険度をより正確に予測する事を可能とする。これにより、毒劇法の指定に関して、中毒事象を含むより現実に想定される事故等に即した規制が可能となる。言い換えると、ヒトの急性中毒患者が救急外来で受ける諸検査に該当する所見を1匹の実験動物から取得する試験法を開発する。
具体的には、一般状態、心電、心拍、血圧、体温、呼吸、脳波などのバイタルサインを指標とし、動物数の削減とヒトの安全性確保の向上を目指す。バイタルサインの測定には、近年、著しい技術革新により小型化された簡便な無線装置を含むITデバイス、新素材センサーを利用する。本研究は、(A)今までの情報や経験から選択したバイタルサインの諸項目の、急性毒性指標としての妥当性、再現性、信頼性、を確認する研究、(B)選択したバイタルサインの諸項目を正確に、実験動物から測定するためのデバイスの改良の二つの柱からなる。(A)として(1)急性毒性発現における遺伝子発現変動解析、(2)急性毒性試験における行動解析、(B)として、(3)バイタルサインセンサーの開発、(4)バイタルサインの統合的解析方法の開発、の4課題を分担研究として設定した。
具体的には、一般状態、心電、心拍、血圧、体温、呼吸、脳波などのバイタルサインを指標とし、動物数の削減とヒトの安全性確保の向上を目指す。バイタルサインの測定には、近年、著しい技術革新により小型化された簡便な無線装置を含むITデバイス、新素材センサーを利用する。本研究は、(A)今までの情報や経験から選択したバイタルサインの諸項目の、急性毒性指標としての妥当性、再現性、信頼性、を確認する研究、(B)選択したバイタルサインの諸項目を正確に、実験動物から測定するためのデバイスの改良の二つの柱からなる。(A)として(1)急性毒性発現における遺伝子発現変動解析、(2)急性毒性試験における行動解析、(B)として、(3)バイタルサインセンサーの開発、(4)バイタルサインの統合的解析方法の開発、の4課題を分担研究として設定した。
結果と考察
初年度となるH31/R1年度は、(1)神経毒性物質であるテトロドトキシン(TTX)のマウス海馬における遺伝子発現変動解析を行い、ストレス関連遺伝子の発現が高い一方で、Na+チャネルなどTTXが直接関与することが示唆されるシグナルネットワーク関連遺伝子の発現変動は認められないことを明らかとした。(2)マウス及びラットを用いて本研究の基盤となる行動、体温、心拍、血圧等のバイタルサイン測定装置のセットアップを行い、先行研究においてデータが豊富であるモデル化学物質を使用して基礎データの取得に成功した。(3)新規素材であるカーボンナノチューブ(CNT)センサーの実装に向けたセンサーの加工及び装着方法を検討し心電波形の取得に成功した。(4)従来の目視観察による記述式の一般状態観察による毒性発現をバイタルサイン計測データ取得によりスコア化することによって標準化に資する基礎データを取得した。
結論
TTXのように作用部位が極めて限定的な物質であっても、その生体影響はTTXが直接関与するシグナルネットワークとは異なる事が示唆されたことから、急性毒性指標としての妥当性の確認に遺伝子発現変動解析は極めて有効であることが示された。バイタルサイン測定には、現在は商業的に入手可能なバイタルサイン測定装置と新規開発のCNTセンサーを並行して使用し研究を進めており、一定の成果がみられたが、新規経口投与毒性試験の実用化のためには、これらの機器を統合して実験者の利便性を高め、かつ、廉価な装置として開発する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2020-12-14
更新日
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