室内環境中の化学物質リストに基づく優先取組物質の検索とリスク評価

文献情報

文献番号
201926004A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境中の化学物質リストに基づく優先取組物質の検索とリスク評価
課題番号
H29-化学-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
雨谷 敬史(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 小林 剛(横浜国立大学 環境情報研究院)
  • 久米 一成(東京都市大学 環境学部)
  • 三宅 祐一(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
8,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
室内汚染の問題は、室内空気質ガイドラインの作成によりその一部が解決されたが、室内環境中に存在する化学物質は多種多様であり、建材や家具等から発生する未規制の化学物質の問題が残されている。  
本研究班では、以前、室内に存在する可能性がある化学物質1698種の名称、性状、用途、毒性情報、感作性情報を網羅的に収集した「室内環境中の化学物質リスト1698」を開発した。しかし、このリストには空白があり、懸念が高い物質から空白を埋めていく必要がある。この中でも、難燃剤や殺虫剤はWHOの室内空気質ガイドラインに挙げられている優先度が高い物質である。難燃剤では、これまでの3年間の研究により臭素系難燃剤のリスクより、有機リン系の難燃剤のリスクがより高いことや、新規化合物が続々と使用されていることが判った。そこで、以下の4つのサブテーマa)~d)を連携して進めることにより、リストに基づく優先取組物質の検索と、予備的リスク評価を行うこととした。
研究方法
a-1) ハウスダスト中有機リン系難燃剤の調査と曝露評価・簡易リスク評価
 5年間に亘り29戸で捕集したハウスダスト中の有機リン系難燃剤濃度をLC-MS/MSで分析した。ハウスダストの摂取量の推定値から曝露評価を行い、さらに毒性値が入手できた化合物について曝露マージン法で簡易リスク評価を行った。
a-2) 室内空気中のグリオキサール・グルタルアルデヒドなどのアルデヒド、ケトンの調査
パッシブサンプラーを用い、一般住宅4戸で24時間捕集した。捕集後、溶媒抽出してLC-MS/MSで分析した。
b) 新規有機リン系難燃剤のハザード評価
6週齢の雄性CD1マウス各群5匹にPMMMPを100、300または1000 mg/kg体重/日の用量で1日1回4週間強制経口投与した。投与終了後、大腿骨より骨髄を採取し骨髄小核試験を実施した。
c)室内化学物質のライブラリの情報更新及びスクリーニング評価ツールの作成
 「室内環境中の化学物質リスト1698」の情報の拡充のため、特に外の作業環境基準の情報を追加・更新を行った。さらに、事業者らが任意の物質について、情報を入力してスクリーニング評価できるツールのプロトタイプを作成した。
d)室内・発生源調査
戸建・アパート等9家庭の居室等室内で、室内ハウスダスト調査と、QEESI 問診票による自己診断調査を実施した。ハウスダストは、市販のハンディー掃除機を用いて、室内のダストを夏期、冬期に採取した。また、1 家庭ではエミッションセルをフローリングやカーペット等に設置し、放散する物質の調査を夏期に実施した。
結果と考察
a)最もリスクが懸念される可能性のある物質はTris(butoxyethyl)phosphate (TBOEP)であり、ハウスダストを介したTBOEPの経口・経皮曝露に伴うリスクは成人、児童ともに懸念されるレベルであることが明らかとなった。一方、TBOEP以外の有機リン系難燃剤の経口・経皮曝露に伴うリスクは懸念されるレベルではなかった。
b)骨髄小核試験の結果、何れの用量においてもPMMMP投与群の小核出現頻度に有意な変化は認められなかったことから、PMMMPは小核誘発性は示さないと考えられた。
c) 室内化学物質ライブラリの構築では、上記リストの情報の拡充を検討した。特に、多様な製品中の化学物質情報を収集・整理し、QSAR情報も活用するなどして評価できる対象物質を増した。さらに、高懸念物質のスクリーニング手法の改良や、事業者らが任意の物質について、情報を入力してスクリーニング評価が出来る簡易なツールのプロトタイプを作成した。
d)今回の調査では、QEESIスコア値とハウスダスト中の有機リン系難燃剤濃度値との間に明確な関連性は見られなかった。
結論
研究3年目の令和元年度は、室内環境中の化学物質リストの拡充に努めると共に、新たな有機リン系難燃剤の曝露評価やハザード評価を行い、ハウスダストを介した簡易リスク評価へとつなげた。このように、本研究では、各グループの研究を連携して進め、成果を活用することにより、優先的検討対象化合物の選定やその簡易リスク評価を達成した。

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
2023-07-28

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
2023-08-25

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201926004B
報告書区分
総合
研究課題名
室内環境中の化学物質リストに基づく優先取組物質の検索とリスク評価
課題番号
H29-化学-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
雨谷 敬史(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 小林 剛(横浜国立大学 大学院環境情報研究院)
  • 久米 一成(東京都市大学 環境学部)
  • 三宅 祐一(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
室内汚染の問題は、室内空気質ガイドラインの作成によりその一部が解決されたが、室内環境中に存在する化学物質は多種多様であり、建材や家具等から発生する未規制の化学物質の問題が残されている。
本研究班では、以前、室内化学物質1698種の名称、性状、用途、毒性・感作性情報を網羅的に収集した「室内環境中の化学物質リスト1698」を開発した。しかし、このリストには空白があり、懸念が高い物質から空白を埋めていく必要がある。この中でも、難燃剤等はWHOの室内空気質ガイドラインに挙げられている優先度が高い物質である。難燃剤では、これまでの研究により臭素系より有機リン系の難燃剤のリスクが高いことや、新規化合物が続々と使用されていることが判った。そこで、以下の4つのサブテーマa)~d)を連携して進めることにより、リストに基づく優先取組物質の検索と、予備的リスク評価を行った。
研究方法
a)曝露評価・簡易リスク評価グループでは、有機リン系及び臭素系難燃剤の主要な曝露媒体と考えられるハウスダストから難燃剤を抽出し、LC-MS/MSを用いて一斉分析する手法を開発した。ハウスダストの摂取量の推定値から曝露評価を行い、さらに、曝露マージン法で簡易リスク評価を行った。カーテンからハウスダストへの移行メカニズムは、カーテンにハウスダストを接触させる手法で行った。また、グルタルアルデヒドなどの一般家庭での調査は、パッシブサンプラーで捕集、HPLCで分析する手法で行った。
b)ハザード評価グループでは、被験物質として(5-ethyl-2-methyl-2-oxido-1,3,2-dioxaphosphorinan-5-yl)methyl methyl methylphosphonate (PMMMP)を選び、げっ歯類を用いた反復投与毒性試験を行った。用量の設定を行った後、6週齢の雄性CD1マウス各群5匹に生理食塩水に溶解したPMMMPを0、100、300又は1000 mg/kg/dayの用量で4週間強制経口投与し、臓器重量、血清生化学的検査などを行った。また、病理組織学的変化を観察した。さらに骨髄小核試験を行った。
c)ライブラリ構築グループでは、「室内環境中の化学物質リスト1698」の情報の拡充のため、特に外の作業環境基準の情報を追加・更新を行った。さらに、事業者らが任意の物質について、情報を入力してスクリーニング評価できるツールのプロトタイプを作成した。
d)エミッション評価グループでは、戸建・アパート等の居室等室内で、室内ハウスダスト調査と、QEESI 問診票による自己診断調査を実施した。ハウスダストは、市販のハンディー掃除機を用いて、室内のダストを夏期、冬期に採取した。また、エミッションセルをフローリングやカーペット等に設置し、放散する物質の調査を夏期に実施した。
結果と考察
a)ハウスダスト曝露による有機リン系難燃剤の簡易リスク評価を行ったところ、最もリスクが懸念される可能性のある物質はリン酸トリスブトキシエチル (TBOEP)であり、経口・経皮曝露に伴うリスクは成人、児童ともに懸念されるレベルであることが明らかとなった。一方、TBOEP以外は懸念されるレベルではなかった。有機リン系難燃剤のカーテンからハウスダストへの移行は、両者の接触に伴う直接移行が主であることが明らかとなった。グリオキサールとグルタルアルデヒドの一般家庭内の汚染度は低かった。
b)6週齢の雄性CD1マウスを用いたPMMMPの4週間強制経口投与した結果、投与期間中の死亡動物はみられず、一般状態の変化も認められなかった。器官重量を測定した結果、副腎重量の有意な高値が認められたが、毒性学的意義の乏しい変化であると考えた。骨髄小核試験の結果、何れの用量においてもPMMMP投与群の小核出現頻度に有意な変化は認められなかったことから、PMMMPは小核誘発性は示さないと考えられた。
c) 室内化学物質ライブラリの構築では、多様な製品中の化学物質情報を収集・整理し、QSAR情報も活用するなどして評価できる対象物質を増した。さらに、高懸念物質のスクリーニング手法の改良や、事業者らが任意の物質について、情報を入力してスクリーニング評価が出来る簡易なツールのプロトタイプを作成した。
d)今回の調査では、QEESIスコア値とハウスダスト中の有機リン系難燃剤濃度値との間に明確な関連性は見られなかった。
結論
本研究では、ライブラリを用いて曝露評価対象物質を選んだり、曝露評価やハザード評価結果を簡易リスク評価に生かしたりすることで、主として難燃剤を対象として、各グループの研究を連携して進め、成果を活用することにより、優先的検討対象化合物の選定やその簡易リスク評価を達成した。

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
2023-08-25

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
2023-08-25

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201926004C

収支報告書

文献番号
201926004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,600,000円
(2)補助金確定額
10,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,123,908円
人件費・謝金 0円
旅費 1,183,498円
その他 847,621円
間接経費 2,446,000円
合計 10,601,027円

備考

備考
自己資金1,027円

公開日・更新日

公開日
2020-11-25
更新日
-