医療テクノロジ-・アセスメントに関する研究

文献情報

文献番号
199800775A
報告書区分
総括
研究課題名
医療テクノロジ-・アセスメントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
久繁 哲徳(徳島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,125,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進国においては,高齢化および疾病構造変化,医療技術の高度化,医療費の高騰化に対して,保健医療改革が進められている。国際的には,こうした多様な医療政策的な課題に対して,医療テクノロジ-・アセスメント(healthcare technology assessment, HTA),根拠に基づく医療(evidence-based medicine)により,医療の総合的な評価を行い,効果的で効率的な医療の最適な戦略を検討することが試みられている。そこで,今回,わが国におけるHTAについて,標準的な評価方法の開発,組織体制の確立など総合的な検討を行いたいと考えた。また,そうした戦略の下で,個別の医療技術の事例評価を行い,わが国におけるHTAの評価結果の情報を蓄積することとした。
研究方法
わが国におけるHTAの系統的な研究を,つぎの方法および計画にしたがって実施した。
1.標準的方法の開発
わが国の状況に対応したテクノロジ-・アセスメントの評価方法の開発を,同定,検証,統合,伝達の項目に従って行った。また,あわせて組織体制のあり方についても検討した。 1) 同定(HTAの優先順位):わが国で実施すべきHTAの優先順位について,優先順位評点を算出し,優先順位リストの作成を試みた。 2) 検証(非-無作為化比較試験(RCT)の活用可能性):わが国で医療技術の有効性を評価する場合,RCT以外の方法の利用可能性について批判的吟味を行った。 3) 統合(臨床診療ガイドラインの開発方法):HTAにより作成された根拠を政策に実現するために,診療ガイドラインの開発方法について検討を行った。 4) 伝達(健康サ-ビス研究への投資の見返り):健康サ-ビス研究への投資について,その利益を系統的に評価する方法について検討を行った。 5) 組織体制(HTAの組織化):わが国におけるHTAの医療政策への組み込みに必要な組織体制のあり方を検討するために,国際的に最も進んだ取り組みを行っている英国のR&D政策の評価を行った。
2.個別医療技術の評価
HTAの方法論的検討の成果に基づき,わが国におけるHTAの枠組みを設定し,個別の医療技術に適用を試みた。事例検討としては,つぎの5つの医療技術を用いた。 1) C型肝硬変のインタ-フェロン療法の経済的評価,2) 冠動脈疾患予防の経済的評価,3) 心臓移植による健康改善とその経済的効率,4) 癌検診のHTA(インフォ-ムド・コンセント),5) 心臓・整形外科手術における輸血削減(国際比較)。
結果と考察
わが国におけるHTAについて,標準的な評価方法の開発および組織体制の検討,個別医療技術評価など,総合的な検討を行った。
HTAの第一の段階である同定では,今回,優先順位リストを作成した。優先順位の決定については,国際的に標準的な方法に準じて,明確な優先評点を利用して行った。その意味では,今回の方法はわが国でも適用可能と考えられる。ただし,最終的な優先順位の決定は,さらに専門家を含めた合意形成会議などを実施する必要があるものと考えられる。
次ぎの段階の検証では,非RCTによる評価の可能性を検討した。その結果,今後,包括的な検討をすることに重要な意味があることが示唆された。とくに,わが国では,RCTの実施が極めて困難なため,諸外国のRCTを利用することが求められる。したがって,非RCTを積極的に行い,そうした根拠を調整することは,今後の根拠に基づく医療(EBM)では不可欠と考えられる。
統合の段階では,診療ガイドラインの開発方法について検討を行った。国際的には,ガイドラインの開発は,現在,その質の検討の段階に入っている。わが国では,根拠に基づくガイドラインの開発はほとんど実施されていないため,標準的な方法を導入することが必要となる。ただし,上記に述べたように,わが国で実施されたRCTの情報は,極めて限定されているため,根拠を統合するための方法を慎重に検討することが求められる。
伝達の段階では,健康サ-ビス研究の投資の評価について検討を行った。こうした評価は,健康以外の領域でも重要な課題となっているが,わが国ではほとんど検討されていない。実際の評価は,国際的に困難であることが認められているが,問題を克服するさまざまな試みが取り組まれている。その意味では,わが国でも積極的な検討が望まれる。
こうしたHTAの評価活動を積極的に,政策に組み込むことが重要な意味を持つが,英国のR&D戦略を参照する中で,わが国での取り組みの方向性を明らかにした。今後は,わが国でもHTAに関する独立機関を設置し,組織化を行うことが重要であることが示唆された。
個別医療技術へのHTAの適用により,わが国での評価の実施可能性とともに,評価結果の政策への利用可能性も示された。したがって,わが国のHTAは,上にも述べたように,優先順位の高い医療技術の評価を系統的に進め,その成果を多様な利害関係者に伝達するとともに,具体的な政策に利用する段階に移行したものと考えられる。
結論
わが国におけるHTAの系統的な研究を,1.標準的な方法の開発,2.個別の医療技術に対するHTAの適用の2つの側面から実施した。その結果,HTAを進めるための方法論的な問題とその解決法が明かとなった。また,個別医療技術へのHTAの適用により,わが国での評価の実施可能性とともに,評価結果の政策への利用可能性も示された。
したがって,わが国のHTAは,上にも述べたように,優先順位の高い医療技術の評価を系統的に進め,その成果を多様な利害関係者に伝達するとともに,具体的な政策に利用する段階に移行したものと考えられる。こうした課題に対応するためには,英国のR&D戦略のような総合的な政策を立案するとともに,わが国でもHTAに関する独立機関を設置し,組織化を行うことが重要であることが示唆された。

公開日・更新日

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