口腔保健診断法の国際標準化に関する研究

文献情報

文献番号
199800773A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔保健診断法の国際標準化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 博(東北大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮武光吉(東京歯科大学)
  • 雫石聰(大阪大学歯学部)
  • 田上順次(東京医科歯科大学)
  • 花田晃治(新潟大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHOが1997年に発表した口腔診査法第4版は、従来の方法と比べて、大きな改訂がなされている。従って、今後、国内で口腔に関する調査等を実施する場合、国際比較の観点に立った場合、導入することを検討する必要がある。このとき、日本における齲蝕、歯周疾患、咬合異常の状態や、場合によっては医療制度や医療供給量等を考慮し、診査基準を設定する必要があると考えられる。しかし、従来行っていた診査法を変更することは、以前データとの比較ができなくなるおそれがある。そこで、現在、国内で実施されている診査方法が、国際比較を考慮して変更する必要性と、従来との継続的な口腔保健状況の比較が可能である変更法を、検討することを目的として本研究を実施した。
研究方法
(1)齲蝕の診査基準について、まず、時代による検出法の違い、探針の使用・未使用別の検出力の問題、探針による歯面への影響について、キーワードを設定し、文献を収集し、Evidence Based Medicineの考え方に基づいて、研究協力者に分担し、評価後、検討を行った。(2)集団歯科検診を想定し、口腔内においてWHOと歯科疾患実態調査の齲蝕診査基準を用いて、臨床経験の異なる歯科医師が診査を行い、その違いを評価、検討した。(3)さらに、ヒト抜去歯を用い、視診あるいはCPIプローブ、探針を用いた触診により齲蝕を判定し、その違いを検討した。また、臨床経験の違いによる齲蝕診査基準の違いを、診査に用いたのち病理切片を作成し齲窩の有無と比較した。(4)歯周疾患においては、10年以上にわたって国際的に用いられているCPI(Community Periodontal Index)法で用いられるCPIプローブによる歯肉縁下歯石の検出を、探針およびポケット探針と模型上で使用し、比較、検討を行った。(5) 咬合異常については、DAI(Dental Aesthetic Index)による診査法が、国内の状況に合っているかどうかを考慮し、また、国際比較が可能かどうかについても検討した。
結果と考察
(1)抽出された110の文献を検討したところ、診断の目的によって診断法が異なるため一つで万能な診断法はないこと、近年の動向としては初期齲蝕の診断基準が細分化されており、むしろ明らかな齲窩が認められるものを齲蝕とし、鋭利な探針を用いて診査しないか、CPIプローブのように先端が鋭利でないものを用いている状況であった。(2)口腔内においてWHOと歯科疾患実態調査の齲蝕診査基準を比較すると、WHOの基準に臨床経験上、齲蝕に進行することが強く疑われる歯をC0として導入することにより、実態調査におけるC1と歯数がほぼ一致した。この場合、臨床経験のが長い検診者は、2つの診査基準の一致度が高くなっていた。(3)抜去歯を用いた、診査法の違いでは、視診および探針を用い歯科疾患実態調査の4段階の診査を行った場合、病理診断との一致率は約50%、齲蝕の有無の2段階では両者とも80%弱であった。WHOの方法では、70%の一致率であった。(4)CPIプローブを用いた場合の正答率は68.5%であり、擬陽性率19.6%、擬陰性率11.9%に対し、ポケット探針では、それぞれ、60.7%、29.5%、9.8%であり、探針ではそれぞれ、53.3%、33.9%、12.8%であった。また、検査者での探索のしやすさ感は、正答率とは逆に、探針、ポケット探針、CPIプローブの順であった。(5)日本における咬合異常の特性を踏まえ、DAIの評価法が適合するための方法を検討した結果、変更を伴わない項目もあったが、欠損歯数、切歯部の叢生の評価部位、上下顎前歯部のオーバージェット、オーバーバイト、前歯部の開咬では、変更した方が、よりよい評価が得られると考えられた。 以上のことから、診査・診断を
行う場合には、目的によって用いる方法を変更する必要も考えられる。その目的には、①研究目的の調査における診査、②臨床上の診断、③集団を対象とした保健管理における診査が考えられるが、今回の場合、①の調査を中心に、②の臨床診断を場合によって考慮し、検討した。(1)今後、調査を行う場合、目的に応じて齲蝕の診査法を設定する必要がある。研究などを目的とする疫学調査等では、探針を使用しないことが国際的な標準となってきている。これは、探針を用いた場合も、視診によった場合も、歯面の清掃、乾燥、および十分な証明などの条件が整っていると齲蝕の検出に差がないことなどの結果が示されているためと考えられる。(2)および(3)口腔内診査を行った研究においても、抜去歯をもちいた研究においても、いずれも、WHOの方法によりCPIプローブを用いた場合の齲蝕は、従来国内で行われてきた、歯科疾患実態調査等の基準におけるC2以上の齲蝕とほぼ、一致していた。この様な評価を行うと、従来の調査結果との比較ができなくなると考えられるが、視診を含めて、要観察歯を評価し、齲歯と要観察歯を合計することにより、比較可能であることが示唆された。この場合、臨床経験がある程度以上になると、視診あるいはCPIを用いることで、要観察歯の検出が、一定となることが予想された。また、齲蝕を4段階に分けるより、むしろ、齲蝕の有無および、この様な齲蝕疑いを検出することが、調査における齲蝕の診査に重要であることが推察される。(4)臨床上なじみのある探針やポケット探針の方が探索しやすく感じたものの、実際の歯肉縁下歯石の有無については、CPIプローブの方が正しく判定できた。このことから、歯石の判定にCPIプローブを用いることが有効であることが評価できるが、検査者により、正答検出率にばらつきが大きいことから、トレーニング法が重要であり、また、多数の診査者でCPIを評価する場合には、特に、評価部位の統一、たとえば、臼歯部においては第1大臼歯の頬側近心から中央部までとするなどの評価法の変更が必要と思われた。(5)国内で用いられている評価法とDAIを比較したところ、DAIの方が評価項目が多く、DAIあるいはその変法を用いないと、国際比較の項目に合致しないことが考えられた。しかし、国内の咬合異常の状態を考え、一部に修正を加えて、我が国における咬合異常をよりよく評価できる方法を検討した。その結果、合計点数が得られるように考案したが、この点については、国際比較可能かどうかは、DAIとその変法を用いて評価する必要があると考えられる。
結論
歯科疾患実態調査などの疫学調査では、目的に応じた診査法を用いる必要があり、その場合、従来の結果と比較でき、また、国際比較ができることも重要な目的となる。齲蝕については、従来の齲蝕を4段階に評価するより、齲蝕の有無と要観察歯を検出することが、両方の目的を満たす可能性が示唆された。歯周疾患については、CPIプローブを用いる有効性が示されたが、多数の検査者が実施する場合には、対象部位の絞り込みなどが必要と思われた。また、咬合異常の評価は、国内の従来の方法では、DAIの項目より少ないため、日本人にあった評価法に変更した上でDAIを用いる方法を応用することが考えられた。

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