文献情報
文献番号
201925002A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における包括的な輸血管理体制構築に関する研究
課題番号
H29-医薬-一般-010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田中 朝志(東京医科大学八王子医療センター 臨床検査医学分野)
研究分担者(所属機関)
- 奥田 誠(東邦大学医療センター大森病院 輸血部)
- 藤田 浩(東京都立墨東病院 輸血科)
- 長井 一浩(長崎大学病院 細胞療法部)
- 石田 明(埼玉医科大学国際医療センター 輸血・細胞移植科)
- 北澤 淳一(福島県立医科大学 輸血・移植免疫学)
- 高梨 一夫(日本赤十字社 血液事業本部 経営企画部)
- 長谷川 雄一(筑波大学 医学医療系 血液内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,847,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
研究の目的は、小規模施設や離島・僻地での輸血療法の実態をふまえ、地域の中核病院および日本赤十字社との連携強化や新たな血液製剤供給体制の検討などを通じて、安全かつ効率的な輸血医療の在り方を総合的に研究し、提言を作成することである。特に、上記の地域や小規模施設での輸血の安全性を高め、かつ適正使用・有効利用を推進するためのグランドデザインの構築を目標としており、小規模施設での輸血の実態調査による改善が必要な事項の抽出、RBC有効期限延長のシミュレーションによる廃棄率削減度の検証、離島でのブラッドローテーションのPilot Study、離島の医療機関見学による情報交換と医療従事者への教育などを通じて地域で望まれる輸血実施体制、供給体制への課題整理を行うものである。
研究方法
前年の実態調査をふまえ、令和元年度には新たな供給体制検討のための離島等でのブラッド・ローテーションのPilot Study、輸血検査支援のための実態調査、在宅輸血の実態調査、赤血球製剤期限延長のシミュレーションによる廃棄率への影響度の調査を行った。また、新たな運搬・管理体制の構築の必要性を検証するために離島病院(新潟県・佐渡島)の実地見学を行った。さらに、3年間の研究を総括し、地域で望まれる輸血実施体制、供給体制への課題整理と輸血医療支援に関するコスト調査を行い、提言をまとめた。
結果と考察
在宅輸血実態調査では、回答290施設中の在宅輸血実施率は17%(51施設)であった。症例数1例以下の施設が44%、20例以上が14%と2極化していた。RBCの専用保冷庫での保管は16%の施設のみで、副作用対応で特定の病院との連携をしていたのは72%だった。患者の年齢層は80歳代が最も多く、輸血前のHb値は6~7g/dLに収束した。患者付添人の患者宅への滞在は輸血終了時までが50%を占めたが、診療報酬の制約等により看護師が長く滞在できない問題点があった。在宅輸血は大都市圏で行われていることが多く、血液製剤管理等の適切な管理・実施体制、輸血検査や副作用対応などの適切な連携が課題であることが判明した。小規模施設での輸血検査体制の調査では、外部・内部精度管理とも実施率は低く、少数ながら、臨床検査技師以外の職種での検査実施もみられた。小規模の36施設でのシミュレーションでは、RBCの14日間の有効期限延長により、概ね半数以上の廃棄血削減が期待できるという結果が得られた。産科クリニックでのRBCの保管および車両搬送にはATR(Active Transfusion Refrigerator;可搬型血液保冷庫)が有用で、温度管理した発泡スチロールでの車両搬送はATRの代替手段になり得ると考えられた。離島の医療機関でのブラッドローテーションでは、RBCの廃棄率低下と再出庫先の医療機関での確実な使用により有効利用が可能となった。また、病院スタッフの安心感や患者の安全性向上にも寄与し、この取り組みの応用が離島・僻地の輸血管理体制の向上だけでなく、当該地域での輸血医療連携やニーズに見合う供給方法の確立にも役立つと考えられた。佐渡総合病院では、天候等の状況に応じた発注、夜間緊急時の運搬体制等、離島における血液製剤の輸血実施体制が整備されており、他の離島施設のモデルケースになると考えられた。
結論
在宅輸血実態調査から、1施設当たりの症例数は少なく、輸血管理体制、副作用監視体制に課題があることが判明した。小規模施設ではRBCの14日間の有効期限延長により、概ね半数以上の廃棄血削減が可能であった。離島でのブラッドローテーションは血液製剤の有効利用促進に有効で、病院スタッフの安心感や患者の安全性向上にも寄与した。以上より、地域での輸血医療の実態に基づいた新たな管理・供給体制の導入、地域での輸血医療連携の推進、および行政・合同輸血療法委員会・日本赤十字社等関係者間の情報共有と問題解決への共同の取り組みが重要と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2021-01-04
更新日
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