文献情報
文献番号
201924007A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の食中毒細菌の制御法の確立のための研究
課題番号
H30-食品-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
- 大岡 唯祐(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
- 大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
14,460,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新たな食中毒細菌(流行株などを含む)が流行し、定着する場合があるが、流行前に対策をとり制御することが重要である。近年、国内外でEscherichia albertiiの病原性、特に下痢原性が周知され、海外では食中毒発生リスクが懸念されているが、既に日本では2003年以降に食中毒が発生し、患者数200人以上の事例も報告されている。また、Arcobacter属菌は胃腸炎患者の便からしばしば分離されており、食中毒との関連性が示唆されている。特に、Arcobacter butzleriは、食中毒原因菌としての可能性が示唆されている。これら2菌種に着目し、食品中の食中毒細菌の制御法の確立のための研究を行うこととした。
研究方法
(1)E. albertiiの制御法の確立では、増菌培養液からのスクリーニングのためのリアルタイムPCR法を検討した。細胞付着タンパク質をコードする遺伝子上にプライマーおよびプローブを設計し、反応条件、特異性等を検討した。また、E. albertii検査法のプロトコルを示し、食品でのE. albertii様菌株の分離・同定、鶏肉や環境検体でのE. albertii汚染実態調査など地方自治体と実施した。(2)E. albertiiの感染性・病原因子の解明では、E. albertiiの感染性や病原機構を解明するために、病原関連候補遺伝子の遺伝子破壊株を作製し、表現型の変化を解析した。また、本菌の同定・疫学ツールとして、O抗原合成遺伝子群(OAGC)構造を網羅的に解析し、O抗原遺伝子型の同定ツールを開発した。実際の分離株におけるO抗原型の分布を解析した。(3)A. butzleriの制御法の確立では、大西は、Campylobacter食中毒発生時のArcobacter属菌の関与を調査するために、Campylobacter食中毒(疑いを含む)発生時に患者便から本菌の分離を行った。また、Arcobacter属菌の汚染源を把握するために最確数法およびPCR法を用いて食品の汚染実態を調査した。
結果と考察
(1)E. albertiiの制御法の確立では、E. albertiiのリアルタイムPCR法の検討において、設計したプライマーおよびプローブ候補のうち、1組が特異性に優れており、良好な試薬濃度や反応条件を決定した。今後、感度等を評価する。また、食品の汚染実態調査を実施し、190検体のうち6検体の培養液から本菌遺伝子を検出し、一部検体ではE. albertiiが分離された。さらに、環境7検体、糞便2検体からも本菌が分離された。今後、汚染の多い食品群について増殖性を検討する。(2)E. albertiiの感染性・病原因子の解明では、E. albertiiの病原関連候補遺伝子のうち、候補遺伝子Aが細胞内侵入性に、候補遺伝子Bが細胞内増殖に関与する結果を得ており、今後、詳細なメカニズムの解析を進める。また、O抗原合成関連遺伝子群の網羅的解析によって、本菌に40種類のO抗原型(EAO genotype)を同定し、効果的に検出できるPCR反応系を構築した。ドラフトゲノム配列収集を実施し、新規EAOg型の同定を実施する予定である。(3)A. butzleriの制御法の確立では、鶏肉(20検体)ではA. butzleri が100%、A. cryaerophilusが60%から検出された。102 MPN /100 g以上の検体は、A. butzleri が90%、A. cryaerophilusが15%であった。豚肉(20検体)では、A. butzleri が55%、A. cryaerophilusが60%から検出された。102 MPN /100 g以上の検体は、A. cryaerophilusが15%であった。牛肉(20検体)では10%からA. cryaerophilusが検出された。来年度は鶏肉中での増殖挙動および低温、冷凍条件下での生存性を検討する予定である。
結論
(1)E. albertiiの制御法の確立では、食品での検査法に有用なリアルタイムPCR法を開発し、食品・環境検体等での汚染を明らかにした。また、(2)E. albertiiの感染性・病原因子の解明では、E. albertiiの病原関連候補遺伝子の候補が示され、EAO genotypeによる同定系の確立を行った。(3)A. butzleriの制御法の確立では、鶏肉等でのArcobacter属菌の汚染状況が明らかになった。今後さらに、E. albertii およびA. butzleriの制御のために必要な食品での検査法確立を行い、重要な汚染食品群の解明、食品中での制御法確立、食中毒発生時の原因食品探索および感染菌量の解明につなげる研究を進める。
公開日・更新日
公開日
2020-06-26
更新日
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