既存添加物の品質確保のための評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
201924006A
報告書区分
総括
研究課題名
既存添加物の品質確保のための評価手法に関する研究
課題番号
H29-食品-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 直樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
  • 増本 直子(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部 )
  • 井之上 浩一(立命館大学 薬学部)
  • 永津 明人(金城学院大学 薬学部)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 天倉 吉章(松山大学 薬学部)
  • 大槻 崇(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
9,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存添加物365品目(枝番込み382品目,但し,香辛料抽出物を1品目(74基原)とする)の内,第9版食品添加物公定書には217品目の成分規格が収載される.しかし,残り164品目と香辛料抽出物1品目の成分規格が未設定であり,全品目の内,国の成分規格が設定されるものは実質的に未だ半数以下に過ぎない.また,自主規格が設定されている品目についても,検証試験が不十分で信頼性が低い,有効性と有効成分が解明できていないもの等もあり,基原同定及び成分分析等を継続し,更に新しい概念に基づく評価・分析手法の導入を行う以外に,成分規格試験の設定,既存添加物の品質確保は困難な状況にある.このような背景から,本研究は,自主規格等の調査,評価手法の基礎検討及び応用研究を通じて既存添加物の成分規格設定に資する情報を収集することを目的とした.
研究方法
(1) 成分規格が未設定である164 品目及び香辛料抽出物(1 品目74 基原)について,流通実態や自主規格の有無を調査する.(2) 基原が明確でないものについては基原種の調査を行う.また,含有成分や有効成分の解析を行い,成分規格試験法の設定に必要な指標成分を明らかとする.(3) 従来の分析化学の手法では含量規格の設定が困難なものについては,指標成分と同一の若しくは代替物質の定性用又は定量用標準品の全合成ルートを確立すると共に新規分析法の開発を行い,簡便且つ精確な規格試験法の設定を具現化する.(4) 分子生物学的手法を応用した酵素等の基原種の同定法を検討する.等,調査,基礎研究及びその応用による評価手法を確立する.
結果と考察
既存添加物の成分規格の整備のため,基原の和名及び学名を調査した.酵素の基原微生物の同定手法,定義設定に関する考え方をまとめた.レイシ抽出物のTLC分析における指標成分について検討した.香辛料抽出物の内,フェネグリーク種子及びコショウを原材料とした品目の規格試験法のため,1H-qNMRを用いた指標成分の直接定量法を検討した.アナトー色素のHPLCによる分析法の基礎情報を収集した.チャ抽出物及びシタン色素について,シングルリファレンスHPLC定量法を用いた定量法を検討した.酵素処理ナリンジンについて,相対モル感度(RMS)を用いた定量法の適用を検討した.含量規格の設定が困難な添加物について,代替物質の定性用又は定量用標準品の安定供給を目的として,サフランなどに含まれるクロシンを含めた,カロテノイド化合物について,化学合成ルートの確立について検討した.
結論
既存添加物の品質確保のため,基礎研究,その応用による評価手法を検討した.酵素品目については,基原の呼称変更等への対応及び留意点等を策定していく上で,最新の科学技術による基原同定情報の考慮すべき点をまとめた.レイシ抽出物の確認試験にTLC分析よる指標成分の確認が有効であると考えられた.香辛料抽出物の規格作成にむけて,学名と標準和名の検討,海外規格の調査とその基原生物との比較,天然香料の基原生物との比較を行い,香辛料抽出物の定義の設定のため,収集した情報を元に基原の記載案を作成した.また,香辛料抽出物については,1H-qNMRを用いた指標成分の直接定量が可能であり,得られた情報は規格試験法の作成のための情報となると考えられた. 有効成分の定量用標品が存在しないため,正確な定量法が設定できなかった既存添加物の内,アナトー色素,チャ抽出物,シタン色素及び酵素処理ナリンジンについて相対モル感度(RMS)を利用したシングルリファレンス定量法を検討した.その結果,本手法が定量用標品を用いない簡便かつ再現性の高い定量法として機能することを見出した.また,本手法に今後必要な代替物質の定量用標品の化学合成ルートを確立した.これらの研究成果は,既存添加物の品質確保のため成分規格試験法設定の基礎情報として利用される予定である.

公開日・更新日

公開日
2020-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-06-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201924006B
報告書区分
総合
研究課題名
既存添加物の品質確保のための評価手法に関する研究
課題番号
H29-食品-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 直樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
  • 増本 直子(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
  • 西崎 雄三(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
  • 井之上 浩一(立命館大学 薬学部)
  • 永津 明人(金城学院大学 薬学部)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 天倉吉章(松山大学 薬学部)
  • 大槻 崇(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存添加物365品目(枝番込み382品目,但し,香辛料抽出物を1品目(74基原)とする)の内,第9版食品添加物公定書(以下,公定書)には217品目の成分規格が収載される.しかし,残り164品目と香辛料抽出物1品目の成分規格が未設定であり,全品目の内,国の成分規格が設定されるものは実質的に未だ半数以下に過ぎない.また,自主規格が設定されている品目についても,検証試験が不十分で信頼性が低い,有効性と有効成分が解明できていないもの等もあり,基原同定及び成分分析等を継続し,新しい評価・分析手法の導入を行う以外に,成分規格試験の設定,品質確保は困難な状況にある.本研究は,基原生物の調査,自主規格の調査,評価手法の基礎研究,実用化研究及び応用研究を通じて既存添加物の成分規格設定に資する情報を収集することを目的とした.
研究方法
(1) 成分規格が未設定である164品目及び香辛料抽出物(1品目74基原)について,流通実態や自主規格の有無を調査する.(2) 基原が明確でないものについては基原種の調査を行う.また,含有成分の解析を行い,成分規格試験法の設定に必要な指標成分を明らかとする.(3) 従来の分析化学の手法では規格設定が困難なものについては,指標成分と同一の若しくは代替物質の定性用又は定量用標準品の全合成ルートを確立すると共に新規分析法の開発を行い,簡便且つ精確な規格試験法を具現化する.(4) 分子生物学的手法を応用した酵素等の基原種の同定法を検討する.等,調査,基礎研究及びその応用による評価手法を確立する.
結果と考察
公定書未収載品目について,検証用規格及び自主規格等の整備状況,安全性試験実施状況,国内外規格の有無,基原・製法・本質に記載されている基原種の標準和名及び学名等を調査した.酵素品目の基原種について,同定技術の進歩により生じる呼称変更,酵素の定義への基原の追加あるいは変更等の考え方をまとめた.定量用標品を得ることができない既存添加物について,1H-qNMRの応用,13C-qNMRの実用化のための技術的基礎検討,相対モル感度(RMS: relative molar sensitivity)を応用した計量トレーサビリティを確保した定量法を検討した.また,代替物質の定性用又は定量用標品の化学合成ルートの確立について検討した.
結論
本研究では,既存添加物の基原生物の調査,自主規格の調査,評価手法の基礎研究,実用化研究及び応用研究を通じ,既存添加物の成分規格設定に資する情報を収集した.総合的な調査として,①自主規格(案)及び第10版公定書成分規格(案)の作成状況,②試験法に関する第3者及び自社検証実施状況,③国内外の規格,④安全性評価の実施状況,等について調査結果をまとめた.また,酵素品目については,分類学及び同定の技術・手法の進歩により,基原の学術的呼称が改正/変更され,食品添加物公定書の各品目の定義の記載と齟齬が生じた場合を想定し,最新技術による基原同定情報の考慮すべき点をまとめた.基礎研究として,従来法では試験法が設定できない,あるいは従来法ではその品質を確保するには十分ではない品目の分析手法について検討した.1H-NMR及びクロマトグラフィーに関する知見を生かし,13C-qNMRの技術的開発及びRMSを利用した定量法の基礎検討を行った.13C-qNMRの基礎的検討では,5%程度のばらつきを伴った定量値を算出可能とし,精度向上は今後の課題ではあるが,既存添加物の有効成分の直接定量に応用可能と考えられる結果を得た.RMSを用いた方法では,従来の絶対検量線法と同等の定量結果が得られることを確認した.RMSを利用することによって,測定対象成分以外の安価な定量用標品を一つだけ設定することであらゆる測定対象成分を定量可能とするシングルリファレンス定量法が実現できることがわかった.実用化研究及び応用研究として,香辛料抽出物については,1H-qNMRを用いた指標成分の直接定量を行い,規格試験法の作成のための情報を得た.また,有効成分の定量用標品が存在しないため,正確な定量法が設定できなかった既存添加物の内,アナトー色素,チャ抽出物,シタン色素及び酵素処理ナリンジンについてRMSを利用したシングルリファレンス定量を適用し,本手法が定量用標品を用いない簡便かつ再現性の高い定量法として機能することを見出した.また,本手法に今後必要な代替物質の定量用標品の化学合成ルートを確立した.また,有効成分または指標成分が明らかとされていない品目について成分分析を行い,成分規格の確認試験の設定に必要な情報を得ることができた.以上,本研究では,既存添加物の品質確保のため,公的な成分規格設定の基礎資料を集積すると同時に,我が国の天然物化学分野の発展,厚生労働行政の推進に資する成果を得た.

公開日・更新日

公開日
2020-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-06-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201924006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
定量用標品が入手・設定できないため定量分析が困難であったものについて,相対モル感度(RMS)を利用した方法を確立し,この問題を解決した.我々が開発した本法は,食品添加物ジャマイカカッシア抽出物,コチニール色素の定量法の原案とされるだけでなく,日本薬局方ソヨウ,その他機能性表示食品,標準物質校正などに応用が開始されている.
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
本研究において得られた情報は,第10版食品添加物公定書作成検討会において資料として用いられている.H30-H31の同検討会において33品目の新規成分規格の設定,15品目の改正の基礎資料として利用された.

その他のインパクト
1.食品衛生学雑誌第59巻論文賞受賞:西﨑雄三,佐藤(増本)直子,中西章仁,橋爪雄志, タンジャマハマドゥ,山﨑太一,黒江美穂,沼田雅彦,井原俊英,杉本直樹,佐藤恭子:定量NMRに基づく相対モル感度を利用した加工食品中のヘスペリジンおよひ&モノグルコシルヘスペリジンの定量.59(1), 1-10( 2019).
1.ISO/TC34/WG24にqNMRの手法を提案.

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
1件
総説
その他論文(英文等)
1件
総説
学会発表(国内学会)
53件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
西﨑雄三,佐藤(増本)直子,中西章仁,他
定量NMRに基づく相対モル感度を利用した加工食品中のヘスペリジン及びモノグルコシルへスペリジンの定量
食衛誌 , 59 , 1-10  (2018)
原著論文2
佐藤(増本)直子,西﨑雄三,斎藤直樹,他
佐藤(増本)直子,西﨑雄三,斎藤直樹,
日食化誌 , 24 , 75-81  (2017)
原著論文3
Ito Y, Harikai N, Ishizuki K, Shinomiya K, et al.
Spiroketalcarminic Acid, a Novel Minor Anthraquinone Pigment in Cochineal Extract Used in Food Additives
Chem. Pharm. Bull. , 65 , 883-887  (2017)
原著論文4
Tanaka R, Inagaki R, Sugimoto N, et al.
Application of a quantitative 1H-NMR (1H-qNMR) method for the determination of geniposidic acid and acteoside in Plantaginis semen
J. Nat. Med. , 71 , 315-320  (2017)
原著論文5
島村智子,伊藤裕才,久保勇人,他
既存添加物チャ抽出物中のカテキン類含量と抗酸化力価の関係
日食化誌 , 24 , 10-15  (2017)
原著論文6
Zaima K, Fukamachi A, Yagi R, et al.
Kinetic Study of the Equilibration between Carminic Acid and Its Two Isomers Isolated from Cochineal Dye
Chem. Pharm. Bull. , 65 , 306-310  (2017)
原著論文7
Takahashi, M, Nishizaki, Y, Morimoto, K, et al.
Design of synthetic single reference standards for the simultaneous determination of sesamin, sesamolin, episesamin, and sesamol by HPLC using relative molar sensitivity
Sep. Sci. Plus , 1 , 498-505  (2018)
原著論文8
Takahashi M, Nishizaki Y, Sugimoto N, et al.
Single reference quantitative analysis of xanthomonasin A and B in Monascus yellow colorant using high-performance liquid chromatography with relative molar sensitivity based on high-speed countercurrent chromatography
J. Chromatogr. A , 1555 , 45-52  (2018)
原著論文9
Masumoto N, Nishizaki Y, Sugimoto N, et al
Phytochemical profiling of rosemary extract products distributed as food additives in the Japanese market
Jpn. J. Food Chem. Safety , 25 , 105-113  (2018)
原著論文10
Nishizaki Y, Sato-Masumoto N, Yokota A, et al.
HPLC/PDA determination of carminic acid and 4-aminocarminic acid using relative molar sensitivities with respect to caffeine
Food Addit. Contam. A , 35 , 838-847  (2018)
原著論文11
Nishizaki Y, Masumoto N, Nakajima K, et al.
Relative molar sensitivities of carnosol and carnosic acid with respect to diphenylamine allow accurate quantification of antioxidants in rosemary extract
Food Addit. Contam. A , 36 , 203-211  (2019)
原著論文12
Masumoto N, Nishizaki Y, Maruyama T, et al.
Determination of perillaldehyde in perilla herbs using relative molar sensitivity to single‐reference diphenyl sulfone
J. Nat. Med. , 73 , 566-576  (2019)
原著論文13
増本直子,西﨑雄三,石附京子,他
香料2,4-ジメチル-4-フェニルテトラヒドロフランの異性体存在比の決定
日食化誌 , 26 , 63-67  (2019)

公開日・更新日

公開日
2020-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201924006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,900,000円
(2)補助金確定額
9,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,019,669円
人件費・謝金 93,600円
旅費 518,342円
その他 1,748,390円
間接経費 520,000円
合計 9,900,001円

備考

備考
研究費不足のため自己負担 1円

公開日・更新日

公開日
2021-10-12
更新日
-