糖尿病性腎症の診断指針・治療指針の作成

文献情報

文献番号
199800768A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性腎症の診断指針・治療指針の作成
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 隆一(滋賀医科大学第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 堺秀人(東海大学腎臓内科)
  • 富野康日己(順天堂大学腎臓内科)
  • 大橋康雄(東京大学生物統計学)
  • 山田研一(国立佐倉病院臨床研究部)
  • 羽田勝計(滋賀医科大学第三内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本透析医学会の統計によると、1996年に透析療法に導入された糖尿病性
腎症患者数は全導入患者数中33.1%を占め年々増加しており、医学的・社会的問題と
なってる。従って、糖尿病性腎症の早期診断指針を確立するとともに、血糖制御のみ
にては治療困難な顕性腎症以降の症例に対する治療法を確立することにより透析療法
に導入される糖尿病性腎症患者数を減少させることが本研究の目的である。
研究方法
1)糖尿病性腎症の治療指針の作成本研究遂行のため、「糖尿病性腎症に対する蛋白
制限食の効果」に関する多施設共同研究を行う。糖尿病罹病期間5年以上の70歳未満
の2型糖尿病症例、ただし、65歳以上70歳未満の症例は、糖尿病発症年齢が60歳未満
の2型糖尿病患者で、かつ顕性腎症を有し、血清クレアチニン値(Cr) 2.0 mg/dl未満
の症例を対象とし、通常蛋白食群(蛋白摂取量1.2 g/kg/day以上)と蛋白制限食群
(蛋白摂取量0.8 g/kg/day)にランダム化により2群に分ける。文書で同意を得た後、
前観察期(3ヶ月)、続いて5年間の観察期に以下の項目に関して解析する。主要解
析項目は、1) Ccrの低下速度および1/Crの傾き、2) 血清Crが前値の倍になる症例の
頻度とし、副解析項目を、1) GFRの低下速度、および2) AERあるいは尿蛋白量およ
びCcrの絶対値あるいは変化率とする。また、群間比較のみでなく、達成された平均
蛋白摂取量を4段階に分け、蛋白摂取量に基づく解析を各項目毎に行う。食事指導は
、献立の雛形および献立例を各症例に呈示して行うこととする。蛋白摂取量は、食
事記録および尿中尿素窒素排泄量から算出するが、データ・センター内の管理栄養
士および主任・分担研究者間で検討し、適切な指導が行われるよう適宜注意を喚起
する。さらに、可能な限りDEXAを用いたlean body massの測定を行い、栄養状態を
評価すると共に、各症例のQOLをSF-36を用い経年的に評価する。なお、毎年中間解
析を行い試験の続行・中止に関して検討する。2) 糖尿病性腎症の診断指針の作成
糖尿病性腎症の早期診断指針を作成するために、まず尿中アルブミン測定法の統一
化を行う。標準尿検体(3濃度のアルブミンを有する患者尿)を全国86施設に配布し
、施設間の測定結果のばらつきを検討する。尿中アルブミンの測定は免疫法、尿中
クレアチニンの測定は酵素法とし、標準尿の採取に関しては、あらかじめ患者本人
の了解を得る。結果は統計処理を行い、日本臨床衛生検査技師会と協議の上、今後
の測定法に関する標準化の参考とする。3)糖尿病性腎症の発症・進展に関する遺
伝子解析に関する研究1171例の2型糖尿病症例の末梢血より抽出したDNAよりPCR方
を用いアンジオテンシン変換酵素(ACE)、アンジオテンシノーゲン(AGT)、アンジオ
テンシン受容体タイプ1(AT1R)の遺伝子多型を決定した。
結果と考察
1.糖尿病性腎症の治療指針。平成11年3月17日現在、選択基準を満たす
71症例(男;39名、女;32名)が前観察期に仮登録されており、前観察期-2ヶ月に
58症例が、-1ヶ月に52症例が登録されている。それら症例の内50名を、データ・セ
ンターにて、通常蛋白食群(1.2g/kg/day)と蛋白制限食群(0.8g/kg/day)の2群に振り
分けた。本年度は、観察期間が0、1,2,3,6,9ヶ月と1年未満であり、主要解析項
目・副解析項目に関する解析、そしてIndependent Study Monitoring Committeeに
よる中間解析は行わなかった。登録症例数が71例と目標登録症例数200例に達してお
らず、推進委員の協力を得て、さらに登録を推進する予定である。観察期における
問題点は、尿中UNから算出した蛋白摂取量および食事調査から算出した蛋白摂取量
に差が認められたことである。しかし、食事調査から算出した蛋白摂取量は、観察
期3ヶ月を除くと、1~6ヶ月の各観察期で両群に有意な差が認められ、蛋白制限群
(0.8g/kg/day)と通常蛋白群(1.2g/kg/day)の2群に振り分けらていた。尿中UNから算
出する蛋白摂取量に関しては、24時間蓄尿であるため、その不正確さが存在するこ
とも考えられる。また、食事調査から算出する蛋白摂取量は、3日間の聞き取り調査
を基に算出されるが、聞き取り時に十分調査できたか等の疑問がある。いずれにせ
よ、本研究の目的である食事蛋白摂取量を蛋白制限群(0.8g/kg/day)と通常蛋白群(1
.2g/kg/day)の2群に分けるためには、これら問題点を解決する必要がある。そこで、
栄養士による食事指導を少なくとも1ヶ月に1回のペースで継続していくのが望まし
いと考えられる。また、24時間蓄尿に関しては、1日の蓄尿ではばらつきがあるため
蓄尿方法の徹底化が望ましいと考えられた。2.糖尿病性腎症の診断指針86施設中77
施設より回答が得られ、測定結果は統計処理を行った。アルブミン測定は免疫法が、
クレアチニン測定は酵素法が安定していた。尿アルブミンのCV値は22.5+16.5%、尿
クレアチニンは6.7+6.8%、尿アルブミン/クレアチニン比は24.0+18.0%であり、ク
レアチニンのCV値が最も小であった。今後、尿アルブミン測定法の統一化と精度管
理を行い、随時尿による早期診断基準の作成を全国規模で展開していく。3.糖尿病
性腎症の発症・進展に関する遺伝子解析に関する研究 ACEのDD genotypeを有する
症例は、経過中に血清Crが2.0mg/dlを越える、あるいは透析に至ったprimary endp
ointに達する時間がIDないしIIを有する症例に比し有意に短かく、Dアレルを有す
症例は腎症が短期間で進行する可能性がある。
結論
糖尿病性腎症の治療指針に関する研究は、「糖尿病性腎症に対する蛋白制限食
の効果」に関する多施設共同研究を開始し、円滑に推移しているが、食事指導の徹
底化を行うとともに、目標症例数へ向けて登録を推進する。糖尿病性腎症の診断指
針の作成に関する研究は、全国規模で尿アルブミン/クレアチニン値の早期診断にお
ける基準値を各年齢別で設定していく。

公開日・更新日

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