芳香族アミンの膀胱に対する傷害性および発がん性における構造特性の影響

文献情報

文献番号
201923014A
報告書区分
総括
研究課題名
芳香族アミンの膀胱に対する傷害性および発がん性における構造特性の影響
課題番号
H30-労働-一般-010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 久美子( 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,389,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
芳香族アミンは染料・顔料の製造原料として汎用されるが、発がん性への懸念から各国で規制が進められている。我々は先行研究として、互いに類似した構造を持つ5種の芳香族アミンをラットに28日間経口投与し、膀胱粘膜における細胞・遺伝子動態への影響を検索した。その結果、膀胱発がん性が報告されているオルト-トルイジンおよびオルト-アニシジンの2種のみが、DNA損傷マーカーであるγ-H2AX形成の増加を誘導し、膀胱粘膜にDNA損傷を引き起こすことが示唆された。遺伝子発現解析では、両物質はともに細胞周期・DNA損傷・分化関連遺伝子を特徴的に変動させることが明らかとなり、短期間の投与によって膀胱への傷害性および発がん性を検出し得る可能性が示された。5種の投与物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、包括的リスク評価における基礎データとして活用し得ると考えられる。本研究では、オルト-トルイジンと類似構造を有する複数の芳香族アミンをラットに投与し、膀胱における細胞・遺伝子動態に及ぼす影響を、病理組織学的解析およびγ-H2AXをはじめとするDNA損傷・分化関連因子等の発現解析を通じて明らかにし、当該解析手法による包括的評価への応用について検討することを目的とする。
研究方法
6週齢の雄F344ラット(各群5匹)に、オルト-トルイジン類似構造を持つ芳香族アミン6種:0.4% 3,3’-ジメトキシベンジジン(DXB)、0.5% 2,4-ジアミノアニソール、0.1% 2,4-ジアミノトルエン、0.5% 2-アミノ-m-クレゾール、0.3% 4-アミノ-m-クレゾール、0.5% N-アセチルアントラニル酸を4週間混餌投与した。投与開始後2日、1週、2週および4週時点で解剖し、膀胱を採材した。ホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製し、膀胱粘膜の病理組織学的検索および免疫組織化学的手法によるγ-H2AX形成の定量解析を実施した。また、前年度の解析で膀胱傷害性を示した4物質:0.5%または1% 4-クロロ-オルト-トルイジン(4-CT)、0.25%オルト-アミノアゾトルエン(AAT)、0.5% 2-アミノベンジルアルコール(ABA)、1%オルト-アセトトルイジン(o-AT)を同様に4週間混餌投与し、膀胱がんとの関連が指摘される遺伝子群について、PCRアレイによる発現解析を行った。
結果と考察
本研究で検討した6種の芳香族アミンのうち、DXBは過形成等の膀胱病変およびγ-H2AX陽性細胞の有意な増加を誘導することが明らかになった。一方で、他の投与群の膀胱には、明らかな病理組織学的所見およびγ-H2AX形成の変化は認められなかった。DXB投与群の膀胱には出血・壊死等の急性病変は認められず、一部の個体に上皮細胞の空胞化および過形成がみられるなど、オルト-アニシジンに近い病変を呈した。γ-H2AX陽性率についても、急性傷害期における一過性の増加が特徴であるオルト-トルイジンとは異なり、投与2日目以降経時的に増加するオルト-アニシジンと同様のパターンを示した。遺伝子発現解析を実施した4物質の中で、4-CTとo-AT、AATとABAはそれぞれ類似した発現動態を示した。前年度に実施した病理組織学的検索により、4-CT・o-ATはオルト-トルイジン型、AAT・ABAはオルト-アニシジン型の病理所見を惹起することが明らかとなっている。4-CTとo-AT、AATとABAにみられた遺伝子発現パターンの類似は、膀胱傷害機序の特徴と一致しており、28日間反復投与試験の膀胱を用いた本解析手法の有効性を裏付ける結果と考えられる。
結論
本研究の結果から、検索した6種の芳香族アミンのうち、膀胱発がん性が報告されているDXB(3,3’-ジメトキシベンジジン)のみが、ラットに対して膀胱傷害性およびγ-H2AX形成の増加を示すことが明らかとなった。今後、新たな被験物質を追加し、本解析手法の包括的評価としての応用について検討するとともに、芳香族アミンによる膀胱傷害性と構造特性の関連について考察を加える予定である。

公開日・更新日

公開日
2020-05-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201923014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,389,000円
(2)補助金確定額
3,389,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,210,582円
人件費・謝金 0円
旅費 107,544円
その他 71,266円
間接経費 0円
合計 3,389,392円

備考

備考
差額の392円は自己資金

公開日・更新日

公開日
2022-03-14
更新日
-