糖尿病発症高危険群におけるインスリン抵抗性とその生活習慣基盤に関する多施設共同追跡調査-介入対象としての内臓肥満の意義の確立-

文献情報

文献番号
199800767A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病発症高危険群におけるインスリン抵抗性とその生活習慣基盤に関する多施設共同追跡調査-介入対象としての内臓肥満の意義の確立-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松澤 佑次(大阪大学分子制御内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 柏木厚典(滋賀医科大学第三内科)
  • 永井正規(埼玉医科大学公衆衛生学)
  • 及川眞一(東北大学医学部第三内科)
  • 河盛隆造(順天堂大学医学部内科)
  • 青木矩彦(近畿大学医学部第二内科)
  • 石川勝憲(国立呉病院)
  • 梅田文夫(九州大学医学部第三内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前班で明らかにした如くIGTの範疇に入る病態には大きく分けて前糖尿病ともいえ
る群と耐糖能は軽度異常を保つが多彩な病態(高脂血症・高血圧等)を併せ持ついわゆるマ
ルチプルリスクファクター症候群の病態とも言える群が存在することを明らかにしてきた。
本研究は、これらをさらに明確にするため、マルチプルリスクファクターの基盤としてのイ
ンスリン抵抗性さらには、その上流に存在すると考えられる内臓脂肪蓄積の意義及びその判
定法を確立するとともにそれらを引き起こす生活習慣を明らかにすることを目的とするもの
である。本研究は、(1)~(6)の各研究を並行して推進しており、各研究別に目的・方
法・結果考察を記載する。(1)多施設共同研究:CTにて脂肪分布を評価したIGTを対象と
した生活習慣調査及び糖尿病発症・動脈硬化性疾患発症に関する追跡調査研究の目的=IGTを
内臓脂肪の蓄積の有無で、生活習慣上の差異を検討し内臓脂肪蓄積群の特徴を明らかにする。
さらに、糖代謝や他の因子を経年的に比較観察し、糖尿病発症、動脈硬化性疾患発症の観点
から、内臓脂肪蓄積の有無によるIGTの転帰を明らかにする。
研究方法
対象:経口糖負荷試験及び腹部CTを施行された例で出来れば追跡可能な例。コン
トロール群としてNGT、DMも調査対象とするが、IGTを中心に登録する。調査項目:身体計測
:身長、体重、ウエスト径、ヒップ径、血圧。生活習慣アンケート調査:食行動調査、身体
活動調査、休養・ストレス度・既往・家族歴調査、QOL調査。血液化学検査:75 g 経口糖負
荷試験、HbA1c、血清脂質、インスリン抵抗性、膵B細胞機能の測定:空腹時血糖、IRI値を
測定しHOMA指数にて評価。経口糖負荷試験にて高インスリン血症、インスリン分泌指数 IR
I (0-30)/PG (0-30) (insulinogenic index) の計測。腹部脂肪分布:臍レベルCT断面像に
より、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積を測定。動脈硬化指標:運動負荷心電図を行い判定。追
跡中のイベント発生:追跡調査中の糖尿病、心筋梗塞、狭心症、ASO、脳梗塞、脳出血の有無
を調査。調査方法:初回登録時に生活習慣アンケート調査を行い、フォローアップは2年毎に
行う。
結果と考察
前班の生活習慣調査では、食事や身体活動、ストレス度等でIGTの特徴を明確に
指摘することが出来なかったため、生活習慣の質問票を大幅に改訂し、各調査施設への配布
を完了した。研究実施計画を検討し調査項目を確定した。対象者全例に腹部CT法による内臓
脂肪蓄積の評価、経口糖負荷試験時のインスリン分泌パターンの評価及び運動負荷心電図検
査を行い、内臓脂肪蓄積、インスリン抵抗性、動脈硬化の程度を確実に評価できる調査を行
うことに決定した。調査実施機関として、現在、33施設が登録されており、平成11年3月より
調査が開始された。(2)腹部CT法による標準的脂肪分布計測ソフトウエアの開発。研究の
目的=本追跡調査をスムーズに推進するため、簡便で正確な普及型の脂肪分布計測ソフトウ
エアの開発を行う。研究の方法=箕面市立病院と大阪大学との共同研究により、標準的CT計測
法の開発を行っており、その計測方法をもとに、CTのアナログフィルム画像をパソコンに取
り込んだ画像を用い脂肪面積を計測するソフトウエアを作成する。平成11年2月には基本ソフ
トウエアが完成し、現在ソフトウエアの計測値の精度及び利便性を研究協力施設にて検討し
ている。今後、精度及び利便性をより改善させたソフトウエアを開発し協力施設に配布する
ことにより、調査研究が進展することが考えられる。(3)内臓脂肪蓄積の基準値の確立研
究の目的=肥満、非肥満を含めた対象において、内臓脂肪量と危険因子との関連を検討し、
統一した内臓脂肪蓄積の基準値を設定する。研究方法=対象は、検診や人間ドックの受診者
で腹部CT法による脂肪分布の評価に同意した例とする。検討項目は、内臓脂肪量(VFA)、
危険因子合併の集積状況(高脂血症、高血圧、高血糖)。解析方法:VFA別に各因子の合併率
を検討する。現在414例を解析した結果、危険因子の平均合併率が内臓脂肪面積80cm2及び15
0cm2でステップアップすることが明らかとなった。今後、危険因子の詳細な評価とともにさ
らに例数を増やして検討する必要がある。(4)簡易な身体計測法を用いた内臓脂肪蓄積基
準値の設定。内臓脂肪の蓄積量を推定するための簡易な身体計測指標を検討し、その指標を
用いて内臓脂肪蓄積の基準値を設定する。研究方法=対象は人間ドック受診者でCT検査と共
に身体計測を行った例。検討項目は、VFA、身長、体重、ウエスト径(臍レベル周囲径)、
ヒップ径(臀部最大径)。解析方法は男女別にVFAと最も相関の強い指標を見出し、その指標
とVFAとの回帰式から内臓脂肪の基準値に対応する指標の基準値を設定する。前班で登録され
た152例について、ウエスト/ヒップ比、ウエスト径、ウエスト/身長比と内臓及び皮下脂肪
面積との相関を検討。男性ではウエスト径が内臓脂肪面積と、女性ではウエスト径あるいはウ
エスト/身長比と皮下脂肪面積が最も良好な相関を示した。この結果は、内臓脂肪量を推定す
る簡易な身体計測指標として、汎用されているウエスト/ヒップ比よりは、ウエスト径やウエ
スト/身長比がより適切であることが示唆された。基準値は例数を増やして検討する必要があ
る。(5)インスリン抵抗性指標の設定、研究の目的=前班の研究成果により、IGT症例の特徴
としてインスリン抵抗性の存在が重要であることが明らかとなっている。今後追跡調査を行う
にあたり、インスリン感受性の変化がIGTの病態変化に密接に関連する可能性が考えられる。
そこで、本研究班の追跡調査におけるインスリン抵抗性評価に適した指標を設定する。研究方
法=前班で用いたインスリン抵抗性の指標は、HOMAモデルのIR値であったことから、HOMA-IR値
の妥当性を検討するため、種々の程度の糖代謝異常を有する集団で、正常血糖クランプ法を施
行した例を対象に、インスリン抵抗性の指標としてのHOMA-IR値の整合性を検討した。結果と考
察=IGTや軽症糖尿病では、インスリン抵抗性の指標としてHOMA-IR値の信頼性が明らかとなった
。したがって、本追跡調査の対象がIGTであることから、インスリン抵抗性の指標としてHOMAモ
デルを用いた検討が妥当であることが示唆された。(6)前班にて登録されたIGT症例の臨床的
特徴と生活習慣についての再調査及び追跡調査。研究の目的=前調査で登録されたIGTで追跡可
能な症例に対し、インスリン抵抗性や他の因子の変化を検討し、ハイリスクな集団を同定し、
その臨床的特徴を明らかにする。また、同時に、新たな生活習慣調査を実施し、同ハイリスク
群における生活習慣上の特徴を見出す。研究方法=対象は前班で多数の登録があった協力施設に
て登録された、4365例(DM 309例、IGT 936例、 NGT 3120例)のうち追跡可能な例とする。調
査内容については研究(1)に準じる。調査方法は、追跡可能例について、生活習慣アンケー
ト及び臨床的調査を行う(脂肪分布以外の項目)。フォローアップは二年に一回行う。結果と
考察=現在、調査の準備段階であるが、追跡可能例として、NGT 1600名、IGT 450名、DM 150名
、計2200名程度が予想され、この調査の結果により、IGTにおけるインスリン抵抗性の程度と生
活習慣の特徴、糖尿病移行や動脈硬化易発症集団の同定が可能と考えられる。総括=多施設共同
追跡調査の実施にあたり、まず、調査実施計画の作成を行い、調査プロトコールや調査項目を確
定した。また、生活習慣調査票は、食行動、身体活動、休養・ストレス度、QOL等に焦点を当て
た内容に決定し、平成11年3月より前向き調査を開始した。内臓脂肪分析の一般化に向けた脂肪
分布計測ソフトウエアの開発に着手、基本的ソフトウエアが完成し、現在、精度や利便性の検討
を行っている。さらに、内臓脂肪蓄積の判定法の基準値の設定については、現在約400例を解析
し、合併率が内臓脂肪面積80cm2と150cm2でステップアップすることが明らかとなった。また、
内臓脂肪蓄積量を簡単に把握できる指標としてウエスト/ヒップ比よりもウエスト径やウエスト
/身長比が有用である可能性が示さた。一方、インスリン抵抗性の指標として、軽症糖尿病や
IGT患者ではHOMA-IR値が有用であることが確認された。また、前班で登録され追跡可能な例を対
象に、インスリン抵抗性やマルチプルリスクの合併の程度により、生活習慣上の特徴や危険因子
の変化を検討し、糖尿病や動脈硬化発症のハイリスク群を同定する追跡調査も開始した。


結論

公開日・更新日

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