じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究

文献情報

文献番号
201923004A
報告書区分
総括
研究課題名
じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究
課題番号
H29-労働-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
芦澤 和人(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 臨床腫瘍学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本 卓巳(労働者健康安全機構 アスベスト疾患研究・研修センター)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学 放射線医学講座)
  • 大塚 義紀(労働者健康安全機構 北海道中央労災病院 呼吸器内科)
  • 加藤 勝也(川崎医科大学 総合放射線医学)
  • 高橋 雅士(医療法人友人会 友人山崎病院 放射線科)
  • 仁木 登(徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 理工学域)
  • 野間 恵之(天理よろづ相談所病院 放射線部診断部門 放射線診断学)
  • 本田 純久(長崎大学 大学院 医師薬学総合研究科 地域リハビリテーション学)
  • 五十嵐 中(公立大学法人 横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
  • 林 秀行(地域医療機能推進機構 諫早総合病院 放射線科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「じん肺標準エックス線写真集(以下、写真集)」(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版には、症例の偏り、CTとCXRの病型の整合性、モニター診断の普及、等の課題がある。また、CT活用を求める意見がある。他方、じん肺法におけるじん肺健康診断等に関する検討会の報告書(平成22年5月13日)の中で、CTの課題(①放射線被曝、②事業者負担、③読影技術普及)が示された。そこで、平成26~28年度の厚生労働科研究費芦澤班「じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究」で、課題①について、じん肺の存在診断における低線量CTの通常線量に対する非劣性と、じん肺の鑑別診断におけるCTのCXRに対する優位性を明らかにした。同時に、新たなじん肺発生がゼロではない現状に鑑み、一次予防の重要性を再検討する必要がある。
 本研究では、現在じん肺診査の画像診断に用いられている写真集に新たな症例を追加する事で標準写真の取りまとめを行う事とする。また、芦澤班に引き続き、じん肺健診における胸部CT検査の課題を整理し、診断精度向上のための読影技術を示すと共に、施策検討上の資料を提示する。他方、粉じん患者の新規発生を抑えるため、粉じん労働者の防じんマスク効率を調査・検討する。
研究方法
 写真集電子媒体版作成時の基本的合意事項・課題を検討した。医療用モニターを用い、電子媒体版の全症例を見直し、それぞれの症例をそのまま採用するか差し替えが望ましいか、参加者の合議により判定を行った。追加が必要な病型に対して、芦澤班で岡山ろうさい病院から収集した98例と、新芦澤班で北海道中央労災病院から収集した62例から、事務局で13例を抽出し、芦澤班で収集した溶接工肺11例、さらに研究分担者の施設(天理よろづ相談所病院、獨協医科大学、岡山ろうさい病院、及び関連病院)から、計42例を追加し、研究分担者・協力者計10名の合議で症例を選択した。
 珪肺と異なる画像所見を呈する溶接工肺に関しては、CXRについて文献的考察を行った。
 低線量CT画像を岡山ろうさい病院から12例(0/1-8例,1/0-3例,1/1-1例)、北海道中央労災病院から44例(0/1-22例,1/0-15例,1/1-7例)収集した。合計56例に対し、じん肺の存在診断に関して、CTにおける粒状影の定量化とCAD(コンピューター支援診断)の応用を試み、読影技術の普及方策を検討した。
 一次予防に関して、粉じん作業者を対象に全ての作業者の研究同意を得て、電動ファン付き防じんマスク(PAPR)と従来型マスクのマスク効率や作業現場における呼吸用保護具の装着感に関して比較調査した。また費用対効果について解析を行った。
結果と考察
 議事録検証で、電子媒体版の必要要件や画像掲載の基本方針、残された課題や新たな症例収集の必要性に言及されている事を再確認した。合議の結果、写真集の改訂において、①CT(特にHRCT)が撮影されており、CXRとCTの所見が揃っている症例の追加が望ましい、②不整型陰影・その他の陰影について、新たな症例追加が望ましい事で一致した。症例の差し替えは行わない事とした。最終的に14例の候補が抽出された。これを基礎に、今後、本症における検討会で更に議論を重ね、電子媒体版の改定が行われる事を期待する。
 珪肺とは異なる画像所見を呈する溶接工肺の文献的考察では、CTをゴールドスタンダードとしてCXRでは5-6割程度しか粒状影を描出しない事が明らかとなり、CXRはスクリーニングツールとしては不十分である。
 CADに関して、じん肺の重症度を粒状影の個数、大きさとCT値、分布型によって評価したところ、CXRの診断結果と一致しない症例があった。CT画像におけるCADを用いた評価は、じん肺の病型の判断に有用であり、今後、更に症例を追加して粒状影を統計解析し、高度じん肺診断支援システムの開発を目指す。
 電動ファン付き防じんマスクの従来型マスクを比較対照としたコストベネフィット評価に関して、PAPRの使用感及びQOL・生産性損失について、4週間の調査では有意な差は見られなかった。このデータのみからは、PAPRは、従来型に比べて「追加的有用性がなく、費用がかかる」点で費用対効果に劣ることになるが、調査期間が短いため、PAPRの追加的有用性を、より長期の装着感調査などで明らかにした上で再評価する必要がある。
結論
 1)地方じん肺診査医アンケート結果等も考慮しつつ、電子媒体版の症例を再検討し、最終的に14例の候補を抽出した。2)CXRは溶接工肺のスクリーニングツールとしては不十分である。3)珪肺の粒状影を高精度に検出し、じん肺の診断を支援するシステムを開発した。4)PAPRの有用性をより長期の装着感調査などで明らかにした上での再評価が必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-07-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201923004B
報告書区分
総合
研究課題名
じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究
課題番号
H29-労働-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
芦澤 和人(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 臨床腫瘍学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本 卓巳(労働者健康安全機構 アスベスト疾患研究・研修センター)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学 放射線医学講座)
  • 大塚 義紀(労働者健康安全機構 北海道中央労災病院 呼吸器内科)
  • 加藤 勝也(川崎医科大学 総合放射線医学)
  • 高橋 雅士(医療法人友人会 友人山崎病院 放射線科)
  • 仁木 登(徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 理工学域)
  • 野間 恵之(天理よろづ相談所病院 放射線部診断部門 放射線診断学)
  • 本田 純久(長崎大学 大学院 医師薬学総合研究科 地域リハビリテーション学)
  • 五十嵐 中(公立大学法人 横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
  • 林 秀行(地域医療機能推進機構 諫早総合病院 放射線科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「じん肺標準エックス線写真集(以下、写真集)」フィルム版及び電子媒体版には、症例の偏り、病型の整合性、モニター診断の普及等の課題がある。CT活用の意見があるが、じん肺健康診断等に関する検討会報告書で、CTの課題(①放射線被曝、②費用負担、③読影技術普及)が示された。平成26~28年度の厚労科研芦澤班「じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究」で、課題①について、低線量CTの通常線量に対する非劣性とCTのCXRに対する優位性を明らかにした。
 本研究では、写真集に症例を追加し標準写真の取り纏めを行う。また、CTの新たな読影技術を示すと共に、施策検討上の資料を提示する。同時に、粉じん労働者の防じんマスク効率を調査する。
研究方法
 写真集作成時の議事録を検証した。モニターで全例を見直し追加が必要な病型に対し、芦澤班98例と本研究62例から13例を抽出し、芦澤班での溶接工肺11例と分担者から42例を追加し、10名の合議で症例を選択した。溶接工肺は文献的考察を行った。
 症例追加やモニター導入の参考に、現状把握アンケート(2018年1~2月)を行った。2社×2種(1M、3M)のモニターを使用して、読影者4名がじん肺45例の型分類の読影実験を行った。
 海外動向を、欧米6カ国の粉じん職場におけるスクリーニングのガイドラインで調査した。
 CT56症例を前向きに収集し、データベース作成と粒状影の定量的評価を行いCADの応用による読影技術を検討した。
 粉じん作業者104名を対象に、電動ファン付き防じんマスク(PAPR)と従来型のマスク効率や装着感の比較調査と費用対効果解析を行った。
結果と考察
 議事録検証で、電子媒体版の必要要件や画像掲載の方針、残された課題や新たな症例収集の必要性を確認した。モニターを用いた症例見直しの結果、差替せず、①CXRとCT所見が揃う症例、②不整形陰影・その他の陰影、について追加で一致し、合議により追加14症例を抽出した。今後、検討会でこれを基礎に写真集の改定が行われる事を期待する。溶接工肺の文献的考察で、CTに比しCXRは5-6割しか粒状影を描出しない事を確認した。
 アンケートで、デジタル版とアナログ版の整合性は、95%が十分或いは凡そ担保としたが、デジタル版で、石綿肺の画像不足、軽度不整形陰影の画像不足、その他陰影の病型カバー不足等が指摘された。これは改訂で改善され得る。2018年調査で、モニター導入率19%、検討中34%、予定無し66%であった。導入率は低く機種や機能のバラツキが大きい。多施設でハードコピー作成環境が激減し、ソフトコピー環境整備が急務である。モニター診断では、メーカー及びサイズの比較で両者の読影結果は中等度一致し、読影者内一致の検討で1Mと3Mモニター間で中等度一致した。以上より、メーカー、サイズ、モニターの種類は読影結果に影響しない。先行研究では適切なモニターは3M以上だが、1Mモニターでフィルムを代替し得る。モニター審査を想定し、単一アプリケーション内で、標準画像と受診者画像の比較読影システムを開発した。写真集の取扱いに準拠しており、モニター読影の推進に資する。
 海外では、CTスクリーニング実施国はなくCXRが推奨されていた。検診間隔の指定がない国もあった。但し、対象が粉じん職場での健康維持ガイドラインであり、じん肺診査でない事が留意点である。
 CADにより、じん肺の重症度を粒状影の個数、大きさとCT値、分布型によって評価したところ、CXRと一致しない症例があった。CADは、じん肺の病型の判断に有用であり、更に多症例を解析し、高度じん肺診断支援システムの開発を目指す。
 マスク比較で、平均もれ率は従来型23.96%、PAPR0.45%だった。アンケートで呼吸が楽で粉じん吸入量が少ない点で、68.1%がPAPRを使用したいという結果を得た。PAPRはマスク効率と作業者のアンケート結果から有用である。コストベネフィット評価では、PAPRの使用感及びQOL・生産性損失について、4週間の調査で従来型との有意差はなかった。これのみではPAPRは費用対効果に劣る事になるが、期間が短く長期の調査による再評価を要する。
結論
 1)写真集を検討し14例の候補症例を抽出した。2)溶接工肺スクリーニングにCXRは不十分である。3)モニター審査の環境整備は急務である。4)じん肺のモニター診断において1Mは3Mモニターに対し非劣性である。5)簡便に利用できる比較読影システムはモニター読影推進に資する。6)欧米6カ国ではCXRが粉じん職場のスクリーニングに用いられ、CTを用いる国はなかった。7)珪肺の粒状影を高精度に検出するじん肺診断支援システムを開発した。8)PAPRはマスク効率と使用感が良く、新たなじん肺防止に活用する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-07-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201923004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
じん肺の存在診断に関して、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試みた。 具体的には、(1)じん肺CT画像データベースの作成、(2)粒状影の定量的評価を行い、CADを用いた粒状影の個数、大きさとCT値、分布型による評価が、じん肺の病型の判断に有用であることが示された。今後、さらに症例を追加し、PR0/1、 PR1/ 0症例を含めた多数例の粒状影を統計解析し、高度じん肺診断支援システムの開発を目指す。
臨床的観点からの成果
じん肺の単純X線デジタル画像を種々のビューワで読影し、モニター診断の最適化を行った。2社x2種(1M、3M)のモニターを使用して、4名の読影者が、じん肺の型分類の読影実験を行ったが、メーカー間およびモニターサイズの比較において、両者の読影結果に有意差は認められず、1Mモニターは3Mモニターに対して非劣性であった。従って、日本医学放射線学会電子情報委 員会のデジタル画像の取り扱いに関するガイドラインと同様に、1Mモニターもフィルムの代替えとして使用できると考えられる。
ガイドライン等の開発
平成30年度、「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版の症例の偏りや不足に関する指摘を受けていることから、令和元年度に、「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版作成当時の基本的合意事項・課題を検討し、症例の偏りなどを把握するために全症例を見直した。最終的に、症例の差し替えは行わず症例追加を行うこととし、14例の候補症例が抽出された。今後、本省における検討会で更に議論を重ね、「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体の改定が行われる予定である。
その他行政的観点からの成果
じん肺の一次予防に関し、粉じん作業者を対象として電動ファン付防じんマスク(PAPR)と従来型マスクの比較調査研究を行い、マスク効率や労働者の装着感等を解析した。 従来型の平均漏れ率は23.96%、PAPRのマスクの漏れ率は0.45±0.42(0.08~3.59)% であり、PAPRは従来型に比し有意に粉じん吸入量の減少効果があった。また呼吸のしやすさ等の利点が大きいことから着用したいと望む作業者が約70%を占めた為、今後の新たなじん肺防止に活用して行くことが望まれる。
その他のインパクト
中央や地方のじん肺診査におけるモニター診断を想定して、「じん肺標準エックス線写真DICOM画像」と「じん肺健康診断受診者の胸部エックス線写真DICOM画像」を比較読影できるシステムを検討した。結果、1台のPC端末にインストールされた単一アプリケーションソフト内で、両者のDICOM画像を、2 面の医療用モニターに同時に表示できるシステムを開発した。じん肺診査におけるにじん肺 X線画像のモニター診断の推進に資するシステムである。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masashi Takahashi, Norihisa Nitta, Takumi Kishimoto, et al
Computed tomography findings of arc-welders' pneumoconiosis: Comparison with silicosis
Eur J Radiol. , 107 , 98-104  (2018)
doi: 10.1016/j.ejrad.2018.08.020.
原著論文2
Hideyuki Hayashi, Kazuto Ashizawa, Masashi Takahashi, et al.
The diagnosis of early pneumoconiosis in dust-exposed workers: comparison of chest radiography and computed tomography
Acta Radiol . , 63 (7) , 909-913  (2022)
doi: 10.1177/02841851211022501. Epub 2021 Jun 7.

公開日・更新日

公開日
2022-05-30
更新日
2024-06-06

収支報告書

文献番号
201923004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,863,000円
(2)補助金確定額
6,408,000円
差引額 [(1)-(2)]
455,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,827,490円
人件費・謝金 913,357円
旅費 2,113,242円
その他 931,379円
間接経費 623,000円
合計 6,408,468円

備考

備考
執行額に1,000円未満の端数がある場合については、厚労省への精算請求額から切り捨てをしなければならないため、端数分の468円分については自己負担としたため

公開日・更新日

公開日
2020-07-16
更新日
-