厚生省多目的コホート班との共同による糖尿病実態及び発症要因の研究

文献情報

文献番号
199800765A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生省多目的コホート班との共同による糖尿病実態及び発症要因の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 野田光彦(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科)
  • 祖父江友孝(国立がんセンター研究所がん情報研究部がん発生情報研究室)
  • 大橋靖雄(東京大学医学系研究科健康科学・看護学専攻)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は虚血性心疾患や脳卒中(大血管合併症)の危険性を増大し、
腎症・網膜症・神経障害(細小血管症)によるQOLの低下は患者の生活に影響
を与えるのみならず、国民全体としての健康レベル、医療経済への影響も大き
く、生活習慣病の代表的疾患である。本研究では第一に、糖尿病の実態、とく
に発症率、有病率を、コホート調査に基づいて、生活習慣等との関係から分析
し、第二に、我が国において大血管合併症についての大規模前向き調査が乏し
い現状に鑑み、既存の大規模コホート(厚生省多目的コホート)での調査に糖
尿病実態調査を加えることにより、効率的に虚血性心疾患、脳卒中や癌に対す
る発症因子としての糖尿病の関与を知ることも目的とする。以上より、エンド
ポイントとエクスポージャとしての両面から、我が国における糖尿病の現状に
ついて明らかにしたい。
研究方法
従来厚生省がん研究助成金「多目的コホートによるがん・循環器疾
患の疫学研究」班(班長 津金昌一郎、以下「厚生省多目的コホート研究」班
と略す)が多年に亙り調査を行っている地域に、糖尿病の患者実態調査を加え
ることにより解析を行う。
対象:同コホートの対象者のうちの健診受診者。
調査方法:◆糖尿病の把握:老人保健法検診に含まれている血糖値(随時(
空腹時を含む))に加え、質問紙法及びHbA1c測定により、糖尿病を有する者
を把握する。◆生活習慣等の把握:従来「厚生省多目的コホート研究」班が
用いている質問紙に加え、糖尿病の病歴や家族歴、肥満歴や運動状況に関する
質問を加える。
解析方法:以上から把握したHbA1cおよびこれにより定義され
た糖尿病をエンドポイントおよびエクスポージャとして、従来の「厚生省多目
的コホート研究」班が行っている解析に付加する。研究は同班と本研究班との
共同研究として行う。
本研究は2つのスキームに分けられる。
◆スキーム1
(6コホート、対象予定者数21,100人):1998、1999年度に、質問紙及びHbA1c
の測定により糖尿病有病率を把握する。5年後(平成2003、2004年度)にも再度
同様の調査を行い、これにより糖尿病発症率を把握する。これらを用い、コホ
ート研究、断面研究により生活習慣等との関係も分析する。
◆スキーム2:ス
キーム1対象地域を含む全コホート(疾患登録と健診のシステムが変則的である
葛飾・吹田を除く)において糖尿病実態調査を行う。スキーム1の対象以外の地
域(対象約17,100人)では、2000年度にスキーム1対象地域と同様の調査(質問
紙、HbA1cの測定)を行う。これにより約38,200人となる総対象数に対し、HbA1
cおよびこれで定義された糖尿病をエクスポージャとして、虚血性心疾患、脳卒
中、癌等の危険因子か否について、「厚生 省多目的コホート研究」班の疾患登
録システムから得られた罹患データを用いて、前向きコホート研究にて検討する

HbA1cの標準化:糖尿病の判定にとって重要であるHbA1cの標準化(較正)は
、日本糖尿病学会の標準検体JDS-001を各地域の検査機関にて被験者検体と各測
定回ごとに同時測定することを依頼し、行う。
(1)前向きコホート研究◆発症
率(スキーム1):1998、1999年度と最終調査時(それらの5年後)における糖尿
病の有無から、糖尿病発症率を知る。◆糖尿病の有無、HbA1c値(エクスポージ
ャ)の、その後の合併症、とくに、虚血性心疾患や脳卒中、さらには癌等の発症
への関与(スキーム2)。◆1998、1999年度調査の生活習慣、家族歴、肥満度、
健診データ、HbA1c値等と、最終調査年のあらたな糖尿病発症との関係(スキーム
1)。
(2)断面研究◆調査時の糖尿病の(地域別)有病率(スキーム1、2)。
◆調査時の生活習慣、家族歴、肥満歴等と糖尿病との関係(スキーム1)。◆有病
者の通院実態(スキーム1)。
(3)後向きコホート研究(スキーム1、2)◆「厚
生省多目的コホート研究」班によるベースライン調査時の生活習慣、家族歴、肥満
歴、健診データ等と、今回調査時の有糖尿病との関係。
(4 )以上の地域差につ
いても分析する。
結果と考察
(1)本年度は、上記研究計画のスキーム1、2の双方の初年度調査とし
て計画した、1998年度調査予定地域(沖縄県宮古と高知県中央東の対象地域、 お
よび茨城県笠間の岩瀬町、コホート対象総受診予定者数約1万人)において、糖尿
病実態調査を予定通り終了、質問紙を集計し、データの受け渡された地域について
の血糖値、HbA1cの解析に着手した。各コホートにおける受診率には大きな差があっ
たが、いずれの地域においても女性の受診率が高かった。
(2)日本糖尿病学会の
新診断基準に準拠し、HbA1c6.1%以上、空腹時血糖126mg/dl以上、随時血糖200mg/
dl以上、医師または検査により糖尿病と診断された、のいずれかを満たすものを糖
尿病とした。解析の進んだ宮古保健所管内では、健診を受診した50歳代男性の10.9
%、女性の5.6%、60歳代男性の14.8%、女性の9.8%が糖尿病であった。また、未
診断(医師または検査により糖尿病と診断された者でない者)の糖尿病が、全糖尿病
の約40%存在した。この未診断率は、1997年度の国民栄養調査と併せてはじめて行
われた糖尿病実態調査の結果よりやや低かったが、ほぼ同程度の範囲内と考える。
これが地域差によるものかどうかについては今後の検討が必要であ る。
(3)HbA
1cの測定に関しては、ラテックス法の場合、同一の標準検体(HbA1c5.5%および10
.5%)の繰り返し測定による変動、および異なる測定日間の日差変動が、それぞれ
HPLC法の約2倍、約4倍ある施設もあり、標準化がより必要と考えられた。今回の調
査では、HPLC法がラテックス法に勝ると考えられた。
結論
本年度は、研究計画に述べたスキーム1、2の初年度調査を予定通り終了し、
発症率、合併症調査に関する基礎データが得られたと考える。今後、今年度調査を
行った他の地域についての集計を行うとともに、次年度以降、まず2000年度までの
調査に基づき生活習慣や有病率に関する断面研究、後ろ向きコホート研究を行う。
さらにそれ以降、前向きコホート研究により発症率調査および糖尿病のエクスポー
ジャとしての役割を検討する。本年度の調査結果をもとに、今後のHbA1cの測定は、
標準検体による較正を行いつつ、全て、より安定なHPLC法によって行うこととした。

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