献体による効果的医療技術教育システムの普及促進に関する研究

文献情報

文献番号
201922036A
報告書区分
総括
研究課題名
献体による効果的医療技術教育システムの普及促進に関する研究
課題番号
H30-医療-指定-016
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
伊達 洋至(一般社団法人日本外科学会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
2,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の高度化・複雑化に対応し、安全な医療を広く提供するには、効率的な手術手技教育が求められている。主な教育手法にはOJT、シミュレーション、動物を用いた修練などがある。従来からの手術手技教育の基本はOJTであるが、生命の危機に直結する高度な手術手技など、「失敗しながら」学ぶことのできない医療技術の習得には、“on the job”を補完する教育手法が必要である。シミュレーションは研修医などの基本手技の習得には有効性な教育手法であるが、各専門領域で広く普及するには至っていない。Cadaver surgical training(CST:献体を使用した手術手技研修)は、諸外国では手術手技教育の手法の一つとして確立しているが、我が国においても2012年6月に「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が公表され、関係法令との一定の整理が図られたことで、ガイドラインに沿った実施する体制が整備されつつある。
研究方法
献体を使用した医学教育と医療機器開発等の臨床研究についての実態調査を行い、これらを円滑に実施するためのルールについてワーキンググループで素案をまとめ、本研究班の全体会議で検討し、提言としてまとめた。
海外における実施例の調査では、ドイツにおける本件の第一人者である、アーヘン工科大学 Tolba教授を招聘し、ワーキンググループでディスカッションを重ねた。Tolba教授には、日本外科学会CST推進委員会と本研究班の共催企画として、第72回日本胸部外科学会定期学術集会において、海外の産学連携で運営するカダバーセンターの現状の講演を行い、我が国の外科医に海外の実情を周知させた。また、近隣の韓国等の状況に関しては、公開された資料を検索し、その内容を基に、我が国との比較検討を行い、報告書にまとめた。
CSTに対する企業やNPOとの関わりや、ご献体の写真を含む成果物の公表・出版のルール、学会・研究会等でのCSTの中継の手続きや、医療機器開発における献体を用いた臨床研究の進め方など、ガイドラインで可能としているものの実施に際して慎重な判断が必要な事例に関して検討すべく産学連携における献体使用に関するワーキンググループを立ち上げて、献体制度の無償の精神性を保ちつつ、医工連携を推進するための要件を整理した。
結果と考察
CSTに関する諸問題への回答はQ&A形式とし、ワーキンググループでの議論を通じて、医療機器開発における献体使用は臨床研究であり、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施すべきとの見解が厚生労働省、文部科学省から得られ、本見解に基づいて、「遺体を用いた医療機器研究開発(R&D)の実施におけるリコメンデーション(勧告)」が作成された。これらは「臨床医学研究における遺体使用に関する提言(案)」としてまとめられ、今後、日本外科学会と日本解剖学会にてさらなる検討を加えた後に、公表される予定である。
CST、アニマルトレーニングなどの手術手技実習では手術手技を習得するために、実臨床に準じた内視鏡や手術顕微鏡などの医療機器やインプラントなどの手術材料を使用した模擬手術を実施する。実際の手術においては高額な医療機器や手術材料の費用は診療報酬として請求することができるが、手術手技実習では医療機器や手術材料を企業から貸与するなどのマネジメントが必要になる。また、献体の登録、保存、管理等の業務にも新たな運営経費と人的資源が必要となる。そのため、手術手技実習を受講する医師からの参加費のみでそれらの必要な経費を賄うことは不可能であり、大学内の新たな予算に加えて、厚生労働省の「実践的な手術手技向上研修事業」などの補助金や、医療機器メーカー等からの医療機器の貸与などがなくてはCSTの実施ができない現状があり、今後、CSTの普及を進める上での大きな課題であった。一方で、大学と企業間の医療機器開発では、共同研究・受託研究契約を締結することで、企業からの研究費を学内の臨床研究の担当部署の運営経費、設備費、人件費などに充てることが可能であるが、献体を使用した医療機器開発については国内での実施例がほとんどなく、実施基準は示されていない状況であった。
本研究において「臨床医学研究における遺体使用に関する提言(案)」を作成したことにより、手術手技実習と医療機器開発を両輪とした臨床医学の教育研究における献体使用を継続して実施可能とするための運営形態(エコシステム)の確立に向けて、一定の方向性を示すことができた。
結論
国民に対して、高度な医療を安全に提供するためには、カダバートレーニングの実施体制の充実が必須である。今後は、実践的な手術手技向上研修事業」の補助金の増額を有効に利用して、社会にサポートされるカダバートレーニングの実施体制の確立を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2020-10-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201922036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 0円
旅費 2,102,669円
その他 925,766円
間接経費 525,000円
合計 3,553,435円

備考

備考
Tolba教授の通訳兼同行者の旅費が増えたため、約5万円の差額が発生した。

公開日・更新日

公開日
2020-10-16
更新日
-