糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究

文献情報

文献番号
199800763A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
赤沼 安夫(朝日生命糖尿病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 矢島義忠(北里大学)
  • 阿部隆三(太田西の内病院)
  • 井藤英喜(東京都老人医療センター)
  • 山崎義光(大阪大学)
  • 難波光義(大阪大学)
  • 松岡健平(東京都済生会中央病院)
  • 山田信博(東京大学)
  • 菊池方利(朝日生命成人病研究所)
  • 齋藤康(千葉大学)
  • 村勢敏郎(虎の門病院)
  • 岸川秀樹(熊本大学)
  • 笈田耕治(福井医科大学)
  • 大橋靖雄(東京大学)
  • 山下英俊(東京大学)
  • 河原玲子(東京女子医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では糖尿病医療の進歩にもかかわらず慢性合併症を持った糖尿病患者数の増加が著しい。 糖尿病医療に課せられた問題は、これら合併症の発症の抑制,進展の阻止をいかにして成し遂げるかということである。合併症の成因に関する基礎的研究は勿論重要であるが、実地医療への応用を考慮すると大規模の無作為割付け前向き試験が必要である。 米国ではIDDMに対して既にDCCTが完了し、多くの重要なインフォーメイションが提供され、 世界の糖尿病患者の治療に多大な貢献をなしてきた。NIDDMに関しては英国においてUKPDSの成果が報告され、血糖管理とともに、血圧管理の重要性が指摘された。 平成7年度の報告書にJDCStudyの調査実施計画の詳細が記載されているが、そのプロトコールに基づいて平成8年4月より介入に入った。 本年度は2年次における電話介入の成果を解析し、介入の成果を評価することである。
研究方法
昨年に引き続き強力に患者介入を続ける。 平成8年度に中央事務局を東京都文京区本郷4-1-17三愛地所ビル内に求め、電話機5台、ファックス1台、 コンピューターを設置し、 5人の保健婦を採用して糖尿病の良好なコントロールの指導を続けている。 即ち、登録症例は全て中央管理し、患者には糖尿病手帳を渡し、HbA1c値、食事量、体重、運動量などを記録させ中央から2週間に一度、保健婦が一回に約15分間電話をかけ患者を指導する。 生活習慣を積極的に管理する試験群と通常の外来管理の対照群で、血管合併症の発症進展にいかに影響があったかを検討する。いずれの群でも設定された治療目標値を達成すべく努力することである。
(A) 治療目標値の設定
1. 糖代謝の管理; stable HbA1c 6.0%以下  2. 肥満の解消;BMI 22 kg/m2以下  3. 高脂血症の管理;コレステロール220mg/dl未満、TG 150 mg/dl未満、 HDLコレステロール40mg/dl以上  4. 血圧の管理;140/85mmHg未満、5. 喫煙の制限;禁煙 6. アルコール摂取の制限;基本的には禁酒、7.ウエストヒップ比の低下;男0.9以下、女0.8以下 
(B) エンドポイント
網膜症についてはその発症(1次予防)および単純性網膜症の進展(2次予防)、腎症については尿蛋白(300mg/24hr)の出現、大血管症については虚血性心疾患あるいは脳血管障害の発症とし、別途診断基準を設定している。
(C) 調査項目
1. HbA1c、血圧、体重は来院の都度測定する。 2. 75gGTTはできるだけ登録時に行う。この時空腹時インスリン値は必須とする。 3. 空腹時血糖値、血中CPRは登録時及び少なくとも6ヶ月に1回測定する。 4. 総コレステロール、空腹時トリグリセリド、HDL-コレステロール、 Lp(a)を少なくとも年1回測定する。 5. ウエスト/ヒップは最低年1回測定する。 6. 血清 尿素窒素、 血清クレアチニンは最低年2回測定する。 7. 尿中アルブミン、尿蛋白は最低年2回測定する。8. ECG,胸部X線写真は最低年1回検査する。 9. アキレス腱反射、膝蓋腱反射の両方を少なくとも年1回検査する。10. 低血糖の頻度と重症度を確認する。 11. 網膜症の評価、眼底写真における判定について:登録時に必ず両眼の眼底写真を提出し、 経過観察時に網膜症が発症・進展した場合、根拠となる写真を提出する。データは東大大型コンピュータに入力して、統計解析を行なう。
結果と考察
本studyは厚生科学特別研究事業の一環として、糖尿病の 治療に関する研究班として実施されている。過去における予備研究より糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する調査研究の実施方法を確立した。全国の60施設の積極的参加を得て、 平成8年4月1日より積極的に糖尿病の管理を行う群と通常治療群とに分けて介入が進行している。 登録症例数は平成11年2月26日現在で2049症例であり、 コンピューターへのデータ入力を終了した。
介入2年次の成績について報告する。2548名について現在追跡調査が行われている。 2年間における脱落例は全体の5.1%であった。2年後までで現在集計されている調査項目について概略を報告すると、介入群のHbA1cの平均値は7.6%であり、対照群の7.8%より僅かではあるが有意に低値であった。2年次において検査項目の相関解析を行うと、罹病期間と関係するものは網膜症、神経障害であり、血清コレステロールなど脂質とは負の相関であった。血糖値やHbA1cは網膜症、腎症と正の相関であった。次に経次的にみると、2年次のものを初年度のものと比べると、両群ともにHbA1cと中性脂肪は僅かではあるが、減少した。HbA1cについては介入群の減少の方が明らかに著明であった。介入担当者の評価得点の高低で比較すると、評価得点の高かった者はHbA1c、血清総コレステロール、中性脂肪が有意に減少し、HDLコレステロールは2年次の変化としては有意に増加した。評価得点の低い者では有意の変化をみなかった。
長期に亘る本研究において、脱落症例を出来るだけ防ぎ、介入効果を標準化して効果を上げるために、毎月本部よりJDCStudy Newsを送付している。Newsには順番に班員と班協力者が一人づつ投稿しており、平成11年3月で第33号まで発行した。
大規模介入試験ではいくつかの困難な点があげられる。特に本研究のように長期に亘るものでは、主治医が当該施設から他に移動することがままある。このような場合症例のドロップアウトが増加する危険性が高い。主治医の交代の際スタディが継続できるよう中央より研究の意義、重要性などを説明し、種々努力した。毎月のJDCStudy News発行などはそのための工夫の一つである。
結論
わが国におけるこれまでの糖尿病に関する無作為前向き臨床試験のなかでは最も大規模なJapan Diabetes Complications Studyを進行させている. 保健婦には統一された具体的な指導用ガイダンスが必要であるので、本年度作製したガイダンスに従って作業を進めた. この度の2年目の追跡では対照群と試験群の間にはHbA1cの推移で介入群において僅かではあるが、有意な低下を認めた。そして、特に介入担当者の評価得点の高いものではHbA1cのみならず、脂質代謝の面でも有意な改善がみられた。今後は介入担当者の評価得点を高める工夫も必要である。血管合併症のエンドポイントに達した症例はまだ少ないが、今後は各合併症ともに増加してくるものと思われるので、代謝コントロールとの関係の解析が期待される。

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