病院における薬剤師の働き方の実態を踏まえた生産性の向上と薬剤師業務のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201922003A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における薬剤師の働き方の実態を踏まえた生産性の向上と薬剤師業務のあり方に関する研究
課題番号
H29-医療-一般-011
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
武田 泰生(国立大学法人鹿児島大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 外山 聡(国立大学法人新潟大学 医歯学総合病院)
  • 宮崎 美子(昭和薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では病院薬剤師の勤務状況や業務実態の調査を通して、現状を分析し、今後の地域医療提供体制の中で病床機能別にチーム医療の一員としての薬剤師のあるべき姿や、地域との連携のあり方について明らかにし、適正かつ適切な薬物治療管理を行うにふさわしい薬剤師数と薬剤師職能について解析することを目的とした。3年プロジェクトの最終年度にあたり、本年度は、昨年度実施した「地域別・病院機能別病院薬剤業務の実態の把握」に関する全国調査結果を踏まえ、より適正に業務を展開するための施策の検討を目的に、「薬剤師の地域偏在の状況と勤務環境」について追加で調査を実施することとした。
研究方法
アンケート調査表を全国の病院(8380施設)、全国の薬科大学/薬学部(76施設)へ送付し、全国の病院薬剤師と薬学生(実習前の4年生、実習後の5年生)を対象にweb上での回答を依頼した。薬剤師に対する調査項目として、病院種別、所得、勤務地、勤務状況、仕事満足度、希望理由、奨学金貸与の有無、育休・復帰後対応状況、離職率などを挙げた。一方、薬学4、5年生を対象に、出身地、希望職種、勤務地、就職先選択理由、奨学金関連の質問を設定した。本調査では薬剤師および薬学生個々に対する調査であるが、地域情報のみであり個人を特定するものではなく、府省庁が規定する倫理指針等に抵触しないと考えられる。
結果と考察
回答数は病院薬剤師が6109件、薬学生が1599件(4年生933件、5年生661件、不明5件)であった。
薬剤師の勤務地は、回答者の70%が故郷の都道府県に就職しており、大学所在地に就職するケースは稀であることがわかった。全体として年休取得率は40%未満が半数以上を占めた。時間外勤務時間は80%が月30時間未満であった。さらに病院機能別に解析した結果、特定機能、DPC対象、DPC非対象一般、DPC非対象ケアミックス、療養型、精神科病院の順で年休取得率は低く、逆に、時間外勤務時間は長い傾向であった。一方、離職率は10%未満の施設が66%であり、地域別では東京、大阪など都市部で離職率が高く、岩手、富山、鳥取など地方で低い傾向がみられた。現在の就職先を決めた第1の理由は「働きがい」(35%)が最も多く、「認定・専門等の資格が取れる」(11%)「経営安定」(10%)が続いた。複数回答では、特定機能病院は「働きがい」が83%を占めたが、療養型、精神科病院は「夜勤・休日勤務がない」「有給休暇を取りやすい」が高かった。奨学金貸与者は回答者の33%であり、奨学金貸与と病院種別との間に関連性は認められなかった。
薬学生について、就職希望先は両学年共に病院が30%と最も高かったが、薬局希望のうち保険薬局が20→12%へ、一方でチェーン薬局が9→21%、ドラッグストアが4→16%へと4年から5年へ大きく変化した。就職先を決める上で学生が重視している要素は「働きがい」が24%の1位であり、「給料が高い」が17%で2位、「認定・専門資格の取得」「福利厚生が充実」がともに13%で3位であった。次に薬学生の約40%が奨学金を受けており、返済予定額は500万円前後、返済予定期間は20~25年間が最も多かった。返済予定額が1000万円を超える学生はドラッグストアへの就職希望が高かった。
以上、病院薬剤師については病院機能別、地域別で勤務環境に差があるが、いずれも多くが働きがいをもって勤務している。一方、薬学生が就職先を希望する上で、実習、奨学金返済の有無、給与・待遇などの要因があることが示唆された。
結論
病院薬剤師の働き方や勤務環境等について、病院薬剤師と薬学生(4,5年生)を対象に調査した。故郷のある同一都道府県内の病院に就職している薬剤師、または希望する薬学生が約7割であることがわかり、一概に都市圏を希望しているという結果ではなかった。6年制となり薬学生の約9割は私立大学生である。年間の学費は200万円を超える大学が多い。故郷を離れた大学への進学はさらに生活費がかかることを考慮すると、薬剤師偏在は薬学生の出身地の偏在に起因する可能性もある。今後、病院薬剤師不足や偏在を解消する施策の一つとして、地域の特性に合わせて再編される病院や薬局が効果的に機能するに相応しい薬剤師数を精査し、その数に見合う薬学部の再編や定数の改変が必要ではないか。都道府県ごとに地域に見合う薬学部を整備していくことが重要と結論した。一方、病院薬剤師の働き方については、ここ最近、勤務条件や福利厚生が整ってきていると思われるが、施設間で大きな格差があり、まだ十分に整備されている状況ではなく、勤務環境の良し悪しも病院薬剤師の不足や偏在に大きな影響を及ぼしていると考えられた。この問題は薬剤師の需給に限らず、医師や看護師など、すべての医療職種の需給においても検討すべき課題であろう。

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-12-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201922003B
報告書区分
総合
研究課題名
病院における薬剤師の働き方の実態を踏まえた生産性の向上と薬剤師業務のあり方に関する研究
課題番号
H29-医療-一般-011
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
武田 泰生(国立大学法人鹿児島大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 外山 聡(国立大学法人新潟大学 医歯学総合病院)
  • 宮崎 美子(昭和薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院の薬剤業務の中心が調剤業務から病棟業務を中心とした対人業務へとシフトしている現状において、薬剤師のより高い生産性と付加価値の向上が求められ、病院薬剤師をとりまく状況が大きく変化している。本研究では病院薬剤師の勤務状況や業務実態の調査を通して、現状を分析し、今後の病床機能別におけるチーム医療の一員としてのあるべき姿や、地域包括ケアを推進していく中での地域との連携のあり方について明らかにし、地域別・病院機能別に、適正かつ適切な薬物治療管理を行うにふさわしい薬剤業務、薬剤師数および薬剤師職能について解析することを目的とした。
研究方法
3年プロジェクトであり、初年度は研究期間が短いことから、全施設数の約1/10にあたる850施設を対象にパイロット調査を行い、解析結果を基に、2年目は全8380施設を対象に本格調査を行い、最終年度は、本格調査解析を受け、研究を補足するための追加調査を行うという3段階で効率的かつ効果的な調査を実施することとした。
結果と考察
回答率は全体で40.9%であり、特定機能病院、一般病院の回答率は高かったが、療養、精神、ケアミックス型病院の回答率が低く、特に病床数が少ない施設からの回答が低かった。薬剤師の各業務時間を病院機能別に分析した結果、調剤にかかる病床数あたりの時間に大差はなかったが、病棟業務は特定機能病院の82時間/100床/週から精神科病院の9.6時間/100床/週まで機能別に大きな差があった。DPC病院を対象に病棟業務実施加算算定の有無と薬剤師数の関係をROC・ロジスティック解析で調べた結果、そのカットオフ値が4.6人/100床であった。病棟薬剤業務の時間数の増大につれ、カルテからの情報収集、初回面談、面談による患者情報の把握などが顕著に増加した。一方、薬剤師外来の全国の実施施設は1,700施設であり、DPC対象病院と特定機能病院を除くと実施割合が高いとは言えなかった。地域連携室に薬剤師が配置されている施設は専従、専任共に3~6パーセントと少ない結果であったが、入退院に関わる業務には多岐に渡って関与していることがわかった。地域包括ケアの推進に関わる地域連携パスについて、薬剤師が薬物治療項目の作成に多く関与していた。同様に地域での薬物治療の情報共有におけるICTを活用した地域連携システムを用いた連携先に保険薬局があり、今後の地域における薬薬連携の情報共有ツールの一つとしてICTの利用が期待された。次に、より適正に業務を展開するための施策の検討を目的に、「薬剤師の地域偏在の状況と働き方」について追加で調査を実施した結果、まず薬剤師・薬学生ともに勤務地は故郷を希望していた。働きがいを就職希望の第一にあげる薬剤師・学生が多かったが、奨学金貸与との関係で、給与や処遇等も就職先に大きな影響を与える傾向が示唆された。
病院薬剤師の業務内容および働き方の現状について調査した今回の厚生労働科学研究において、病院機能別に業務内容に大きな差異があること、それの要因に100床当たりの薬剤師数の違いがあることが明白になった。やはり病棟薬剤業務を充実させ、チーム医療に携わるためには薬剤師数が必要であることが明白となった。現状では、病棟薬剤業務実施加算を算定している施設が2割にとどまっており、少なくとも算定の臨界となる薬剤師数(DPC対象病院で4.6人/100床)を確保することが生産性高い業務展開のためには必須であると結論した。一方、若手薬剤師や薬学生は病院への就職希望が高い(約3割)ものの、薬学6年制による就学期間の延長等による学費・生活費の圧迫を受け、実習後にはチェーン薬局希望へと転換する傾向が垣間見られた。今後、外来・入院・救急のすべての領域で業務の経験ができ、幅広い知識・技能・態度を身に着けた薬剤師としての職能の研鑽を積める、病院薬剤師のすばらしさを卒前卒後の実習・研修を通して教育をしていく重要性を実感した。
結論
病院機能の分化と連携、さらに地域の特性に合わせた地域包括ケアの構築において、病院機能別にどのような業務展開が効率的でかつ生産性が高いのかを検討するため、今回の調査で、病院薬剤業務の実態の把握と病院薬剤師の勤務状況の把握を行った。いずれの病院においても調剤業務はしっかりと行われているが、病棟業務は機能別に大きな差があった。特定機能病院、DPC対象病院の多くで実施されており、その実施の程度と病床当たりの薬剤師数に強い相関が認められ、実施・未実施の臨界はDPC病院で4.6人/100床であった。外来患者対応、地域連携を展開している施設は少なく、業務の内容も多彩であることが明らかとなった。本研究成果は、今後の地域医療連携の効果的な構築を目指す上で、機能別病院間、病院-薬局間の薬学的管理体制の連携について考える貴重な資料となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201922003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域別、病院機能別、病床数別に病院薬剤業務の内容とその実施度に関する実態調査を行った本研究結果は、地域の特性に合わせた地域医療構想のなかで、今後、病院機能別に必要な薬剤業務は何か、いかに効率的かつ生産性高く展開できるかを検討する上で、極めて重要な資料となり得る。
臨床的観点からの成果
今後、地域包括ケアシステムの構築に向けて病院間、薬局間のシームレスな薬学的管理体制を整備する上で、外来治療や地域医療連携への病院薬剤師の関わりについての実態調査を行った本研究成果は、より効果的な薬学的管理の連携構築のための重要な資料となり得る。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
令和元年5月29日の中央社会保険医療協議会総会(第415回)で、参考資料として、パイロット調査での「病院薬剤師の業務時間の分布状況」が取り上げられた(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00026.htmlのPDF 総-2-1の89ページ)。その他、令和2年度診療報酬改定で薬剤管理指導料の施設基準が緩和されたが、その参考資料に、常勤・非常勤薬剤師数のデータが使用された。
その他のインパクト
日本病院薬剤師会、日本薬学会などの学会や団体主催の学術大会等において、本研究成果が取り上げられ、薬剤師の働き方改革や病院薬剤業務のあり方に関する講演会やシンポジウムを開催した。令和元年度には講演会が5回、シンポジウムが3回開催された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
医療薬学関連の講演会を5回、シンポジウムを3回開催し、「薬剤業務の現状の把握とこれからの業務展開のあり方」について、さらに外来患者への関わりと多職種・地域連携の先駆事例も含め発表した。
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
令和2年度診療報酬改定で薬剤管理指導料の施設基準が緩和されたが、その参考資料に、常勤・非常勤薬剤師数のデータが使用された。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
寺薗英之、佐藤洸、武田泰生 et al.
九州地域の薬剤師偏在について.
日本病院薬剤師会雑誌 , 56 (8) , in press-  (2020)

公開日・更新日

公開日
2023-05-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201922003Z