我が国における冠動脈インターベンション治療の実態調査とガイドライン作成

文献情報

文献番号
199800761A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における冠動脈インターベンション治療の実態調査とガイドライン作成
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
竹下 彰(九州大学医学部循環器内科教授)
研究分担者(所属機関)
  • 山口徹(東邦大学大橋病院第三内科教授)
  • 吉川純一(大阪市立大学第一内科教授)
  • 上松瀬勝男(日本大学第二内科教授)
  • 藤原久義(岐阜大学第二内科教授)
  • 山口洋(順天堂大循環器内科教授)
  • 古瀬彰(JR東京総合病院長)
  • 小柳仁(東京女子医大循環器外科教授)
  • 飯村攻(札幌鉄道病院顧問)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虚血性心臓病に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)は、手技の確立と用具の改良のため比較的安全に施行できるようになり我が国においても非常な勢いで普及している。同様に、冠動脈バイパス手術(CABG)もセンター病院以外の施設でも実施される傾向にある。しかし、PTCA・CABGが今日我が国において、どのような施設で、どのような適応の下に実施されているか、治療成績や予後はどうか、についての全国規模の調査は未だない。PTCA・CABGは心筋虚血の改善にきわめて有効な治療法であるが、安全に実施されるためには高度の医療技術が要求されかつ高額の治療費を要する。従って、これらの治療が適切に選択され実施されることが福祉の向上に不可欠であり、かつ医療費の抑制につながると考えられる。本研究は、PTCA・CABGが今日我が国においてどのように実施されているかを初めて全国規模で調査し、それに基づいて我が国の実状に則した実効性のあるガイドラインを作成しようとするものである。本研究は虚血性心臓病に対する厚生行政のための重要なデータベースを提供するものであり、患者の福祉の向上や厚生行政に大きく貢献しうるものである。
研究方法
本研究は大規模な調査研究であり、主任研究者および分担研究者が共同で実施することとした。これまでに個々の主要な施設におけるPTCA・CABGの適応や治療成績の報告は数多くなされており、またインターベンション学会や日本胸部外科学会による治療件数や治療成績の調査も行われているが、いずれも多様な施設や異なる見解を包含する全国的な調査にはなり得ておらず、学会に所属しない施設は調査対象外となっている。本研究は、全国のPTCA・CABG治療を実施している全施設の中からランダムに調査対象施設を抽出し、今日の我が国におけるPTCA・CABGの実態、予後への影響を調査するものである。
1. PTCA・CABG治療実施施設の実態調査
全国のPTCA・CABG実施施設を対象として以下の項目を調査する。1) PTCA・CABGの治療の年間件数、2) PTCA・ CABG治療に関与する医師数、3) 心臓外科の有無
2. PTCA・CABG受療患者の患者背景と急性期治療成績の調査
全てのPTCA・CABG治療実施施設の中からランダムに抽出した調査対象施設において、患者のプライバシー保護に配慮し、以下の項目を調査する。1)性別・年齢、2)患者の主要な病態:狭心症、急性心筋梗塞、心不全、重篤な不整脈の有無、3)PTCA治療について:施行枝数と対象とした病変の狭窄度・手技、CABG治療について:バイパス血管数と使用血管の種類、4) 急性期成績(PTCAについては開通の有無)と合併症(死亡、急性心筋梗塞など)、5) 受療患者に存在するリスク因子(高脂血症、糖尿病、高血圧、喫煙など)。
3. PTCA・CABG受療患者の予後調査
全ての登録患者について1年(~以上)後に追跡調査を実施し、死亡(その原因)、急性心筋梗塞発症、狭心症、再PTCA・CABG施行の有無を調査する。冠動脈造影検査を再検した症例について、PTCA後再狭窄率、バイパス血管閉塞率を調査する。2.3. の調査を基に急性期治療成績および予後の規定因子を解析する。
4. 内科的治療患者の患者背景と予後調査
PTCA・CABG治療の実態調査を施行する施設の中から一部の施設を抽出し、同施設で冠動脈造影検査を受けた後内科的治療が選択された患者の患者背景と予後を調査する。同じ施設で同じ期間中に治療を受けた患者間で、内科的治療とPTCA・CABG治療患者間の患者背景・予後を比較解析する。
5. PTCA・CABG治療の選択・実施についてのガイドライン作成
PTCA・CABG治療に関連する7つの学会の代表者により構成するガイドライン作成委員会を設ける。本調査成績に基づいて、治療法の選択・実施および実施施設に関するガイドラインを関連学会が共同で作成する。
6. 実態調査の方策
調査の回答率を上げるために以下の方策をとる。1)ランダムに抽出した施設にあらかじめ調査用紙を配布し、協力の同意が得られた施設を本調査対象施設とする。2)調査実施のための中央機関を設置し、数人の専門スタッフを配置する。さらに、全国各地域に調査実施のための拠点施設を設け、調査の徹底を計る。3)実際の調査は患者背景、急性期成績および予後調査を行う。4)調査項目を簡潔、最小限にして電話での聞き取り調査を可能にする。
7. 倫理面への配慮
本研究では、患者のプライバシー保護に十分に配慮して、施設独自のID番号(例えばPTCAあるいはCABG施行順番位など)と患者イニシャルで登録する。また調査票の管理は厳重にする。さらにデータベースへの入力時には研究班で新たに割り当てたID番号を用いることとした。このため、第三者がデータベースから病院や患者を同定することは不可能であり、万が一調査票を第三者が入手した場合でも患者個人を同定するためには、各病院の医師の協力を得なければ不可能であり、プライバシー侵害の可能性はきわめて少ない。
結果と考察
研究結果=平成10年度に実施した内容としては、まず全国のPTCA・CABG治療実施施設を調査した。全国の内科・循環器科を標榜する病院(8,269施設)を対象に調査用紙を送付し、86%の施設から回答を得た。ただし、日本循環器学会認定循環器専門医研修施設および日本心血管インターベンション学会登録施設からは100%の回答を得た。その結果、平成 9年には、全国 1005施設で PTCA 108,584例、465施設で CABG 17,036例が施行されたことが明らかとなった。さらに、PTCA年間施行件数をもとに全施設を1-50、51-150、151-350、351-750、750件以上の5群に分けて解析した。各群の施設の全施設にしめる割合は 43、35、17、4、0.5%であったが、各群の総施行件数の全施行件数にしめる割合は、10、29、37、19、6%であった。すなわち、我が国では、年間 PTCA件数が50件以下の施設が、43%をしめているが、PTCA件数としては全体の10%にすぎず、残り約 600 施設で年間約 90000 例の PTCA を施行したことが明らかになった。これらの施設の循環器内科医師数は 1 施設あたり平均 5-12 人であった。心臓外科を有する施設は、全 PTCA 施行施設の48.7%であり、特に、年間PTCA 件数 50件以下では 27%、51-150件では 52%であった。150件以上の施設では 83-100%が心臓外科を有していた。
次に、PTCA受療患者の患者背景・治療成績・予後を明らかにすることを目的に、全 PTCA件数の約10%にあたる10,852件の PTCAを調査することとし、ランダムに 148施設を抽出した。施設の抽出に当たっては、PTCA年間施行件数をもとに分けた上記の5群において、調査対象が各群の総件数の 10%となるように、各群毎に乱数表を用いてランダムサンプリングを行った。ただし、年間 150件以上の群では、1施設につき100件に限って調査することとした。これらの施設で行われたPTCA症例の詳細な調査を遂行中である。
考察=平成10年度には、全国施設調査を行った。調査対象には、内科および循環器科を標榜するほぼすべての病院が含まれている。従って、調査対象が全国の8,269施設という大規模アンケート調査であり、回収にはかなりの時間と労力・経費を必要とした。その結果、平成 9年には全国 1005施設で PTCA 108,584例、465施設で CABG 17,036例が施行されたことが明らかとなった。現在までこのような調査研究はなされておらず、本研究によって日本の冠動脈インターベンション治療実施施設の実態が初めて明らかとなった。今回の調査結果において、PTCAとCABGの年間件数の比率はPTCA:CABG=6.4:1であった。これは、アメリカ合衆国の1.1:1(1996年)や、ヨーロッパの1.3:1(1994年)などの報告と比べ、PTCAの比重が大きかった。次に、PTCA受療患者の患者背景、急性期治療成績および予後調査について、平成10年12月末から九州および東海地区で開始し、今年度中に約2600例については調査を完了している。これは、抽出施設の調査対象となるPTCAのうち、約24%に当たる。さらに平成11年度にはPTCAの残り76%の調査と、CABG受療患者の調査を並行して進めるため、前年度以上の労力と経費を必要とする予定である。
虚血性心臓病の罹患患者数は、高齢化や食生活の欧米化に伴い我が国でも増加の一途をたどり、それに対するPTCA・CABG治療件数も急増している。これらの治療が安全に実施されるためには高度の医療技術が要求され、かつ高額の治療費が必要である。本研究は、PTCA・CABGの我が国における実施状況を、初めて全国規模で調査するものであり、虚血性心臓病に対する厚生行政のための重要なデータベースを提供するものである。
結論
冠動脈インターベンション治療の実施施設や実施の状況等、我が国の現状が初めて明らかとなった。PTCA・CABG受療患者の患者背景と急性期治療成績および予後調査についての調査を遂行中である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-