文献情報
文献番号
201921002A
報告書区分
総括
研究課題名
地域に応じた肝炎ウイルス診療連携体制構築の立案に資する研究
課題番号
H30-肝政-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
金子 周一(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
- 鳥村 拓司(久留米大学 医学部 内科学講座消化器内科部門)
- 伊藤 義人(京都府立医科大学 大学院医学研究科 消化器内科学)
- 日浅 陽一(愛媛大学 大学院医学系研究科 消化器・内分泌・代謝内科学)
- 江口 有一郎(佐賀大学 医学部附属病院 肝疾患センター)
- 田中 純子(広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学)
- 考藤 達哉(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
今回、肝炎ウイルス陽性者が適切に肝臓専門医へ紹介される仕組みを構築することを目的に研究を行った。
研究方法
肝炎ウイルス陽性者の専門への紹介の実情や問題点を明らかにする目的で、石川県、佐賀県、福岡県、愛媛県、京都府で医療機関を対象に共通のアンケート調査を行った。また各班員が以下の独自の取り組みを行った。妊婦検診の肝炎ウイルス陽性者を専門医へ受診勧奨するシステムを構築。肝炎ウイルス陽性者の診療情報を、ICTを用いて拠点病院-専門医療機関間で共有するシステムを構築。外部の検査会社における肝炎ウイルス検査の現状を解析。高齢者を診療する機会の多い医療機関における肝炎ウイルス陽性者の臨床背景、予後、専門医への紹介状況を調査(以上石川県)。府内の2次医療圏毎の肝炎治療の偏在を解析(京都府)。大学病院における肝炎ウイルス陽性者の院内紹介の現状を解析(愛媛県)。さらに疫学班(研究代表者 田中純子)、指標班(研究代表者 考藤達哉)と連携し共同研究を行った。
結果と考察
アンケートの調査の結果、肝炎ウイルスに感染しているにもかかわらず専門医へ紹介しない理由として、患者の紹介拒否が最多であった。紹介拒否の理由として、高齢、多忙、無症状、交通の手段がないことなど挙げられた。担当医が肝炎ウイルスに感染しているにもかかわらず治療が不要と判断する理由は、高齢、認知症・難治性疾患の存在、肝機能正常、施設入所などが挙げられた。認知症患者や高齢者の対応に関するコンセンサスの作成、ALT基準値の周知が重要と考えられた。石川県では平成30年度から全県下で妊婦健診における肝炎ウイルス検査陽性者に対して、妊娠中から出産後も継続的に専門医への受診状況確認、未受診者への受診勧奨を行うシステムを開始した。金沢市のフォローアップデータから、妊娠中の支援のみでは対象者8名中6名しか支援ができなかったが、出産後に乳幼児検診時に支援を行うことで、全例の支援が可能であった。このことは、妊婦健診陽性者のフォローアップにおける乳幼児検診の有用性を強く示唆している。また石川県では、令和2年3月末までに16の専門医療機関と拠点病院間で、125名の肝炎ウイルス陽性者に関してICTを用いた診療情報共有を開始した。従来の紙ベースの調査では、59%しか専門医療機関の受診を確認できなかったが、ICTを用いることで、全例で専門医療機関の受診確認ができた。石川県では1年間で3つの外部の検査会社でHCV抗体、HBs抗原それぞれ約75000件の肝炎ウイルス検査が実施されていた。これらの検査は、術前検査や施設入所前のルーチン検査として実施されている場合が多く、検査結果の十分な説明がなされてない可能性が考えられた。そこで、患者自らが肝炎ウイルス検査結果に注目し、専門医受診につながるようなリーフレットを作成し、外部の検査会社が肝炎ウイルス検査を受注先に返送時に作成したリーフレットを添付する取り組みを開始した。高齢者を診療する機会が多い3つの医療機関において、肝炎ウイルス陽性者の専門医への紹介状況、臨床背景、社会背景、予後などを調査した。いずれの医療機関でも、ほぼ全ての入院患者において、肝炎ウイルス検査が実施されていた。急性期病院の肝炎ウイルス検査は、手術前検査一つとして実施さており、精密検査や専門医への紹介につながりやすいと思われた。一方、慢性期病院、老人保健施設では、肝炎ウイルス検査は、職員への感染予防の為に実施される場合が多く、精密検査や専門医療機関への紹介につながりにくいと思われた。今回の調査では、肝疾患が予後規定因子と考えられた症例はごく少数であった。高齢者の肝炎ウイルス陽性者の専門医への紹介は、認知症や麻痺の程度、併存症の有無、介護保険の状況などを総合的に判断する必要があると考えられた。また京都府内の2次医療圏毎の肝炎治療の偏在を人口当たりの肝炎治療受給者証交付件数と健康増進事業の肝炎ウイルス検査の受検率から推測したところ、2医療圏において、低値であり、今後の重点的な対策が必要と考えられた。愛媛大学病院内で実施された肝炎ウイルス検査陽性者の解析から、消化器内科への紹介には、診療科による違いもあり、院内連携の改善に向けて、診療科に個別のアプローチやトップダウンによる周知が必要と考えられた。疫学班と共同で8府県(京都、広島、愛媛、福岡、神奈川、佐賀、岩手、石川)の肝炎対策の取り組みをスコア化し、レーダーチャートで示すことで「みえる化」した。また指標班と共同で病診連携指標を作成し今年度から運用を開始した。
結論
次年度は、アンケート調査で明らかになった専門医への患者紹介における問題点の改善を図る。また府県毎に開始した肝炎対策の継続、効果検証を図る。これらの対策を、好事例として紹介し全国展開を図る。
公開日・更新日
公開日
2021-02-26
更新日
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