国民栄養調査の再構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800760A
報告書区分
総括
研究課題名
国民栄養調査の再構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉池 信男(国立健康・栄養研究所成人健康・栄養部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学医学部公衆衛生学教室)
  • 能勢隆之(鳥取大学医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
29,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の国民栄養調査は、歴史的には第二次世界大戦後の食料政策のために創設されたもので、世帯単位の食物消費調査を中心として50年余にわたって実施されてきた。また、栄養改善法の下では、国民の低栄養状態の改善を主たる目的としてきた。1990年以降は、各種血液検査項目、飲酒・喫煙、運動習慣等の質問項目、歩数調査等が追加され、個人別食物摂取調査も開始されたが、生活習慣病の一次予防の観点から、国民の生活習慣および栄養・健康状態を総合的にとらえるためには、今なお十分とは言えない。この点に関して、(1)“行政の調査"という枠組みの中でより良い調査手法および運用方法を検討すること、(2)“行政の調査"ではカバーしきれない部分を、補完的な調査研究(多施設共同研究による定点観測=“ライフスタイルモニタリング")によってデータを収集し、疫学的に記述・分析を行うこと、の2点を本研究の目的とする。
研究方法
(1)食事調査のためのデータベースならびにコンピュータプログラムの開発:現行の「栄養摂取状況調査」、すなわち世帯単位の1日間の秤量記録法+個人摂取に関する“比例案分法"による食事調査データを処理し栄養素計算を行うためのコンピュータプログラムを開発した。そして、それをK県民栄養調査において試用し、評価を行った。また、食事調査に必要な各種データベースの開発ならびに再構築を行った。
(2)国民栄養調査における標本抽出方法等に関する統計学的事項の検討:過去の国民栄養調査のデータファイルを再解析し、サブグループ(地域ブロック別、都道府県別、性・年齢階級別)における平均値に対する標本誤差等を検討した。調査への協力者率の低下による“選択バイアス"を検討するために、国民生活基礎調査と国民栄養調査データのレコードリンケージによる解析を行った。
(3)食事、身体活動などの生活習慣に関する多施設共同疫学調査(“ライフスタイルモニタリング"):北海道、東北、北関東、首都圏、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州の各ブロックから1ないし2集団を選択し、無作為抽出により得られた40-59歳の男女を対象として、24時間思い出し法による食事調査、余暇・労働の身体活動調査、各種保健行動、循環器疾患危険因子等に関する断面調査を行った。
結果と考察
(1)食事調査のためのデータベースならびにコンピュータプログラムの開発:今回開発したWindows95/98用のコンピュータプログラムは、ユーザーインターフェースに関しては比較的良好であると考えられた。しかし、全国の保健所等の地域保健現場で広く活用されるためには、コンピュータ操作に関するより一般的な技能の向上がまず必要であり、その上で講習会・実習、個別的な対応などのエンドユーザーに対するサポート体制を確立することが必要なのではないかと思われた。データベースの整備・開発については、既存のデータ(『食品番号表』、『目安量・廃棄量換算表』)も含めて、コンピュータシステム内に格納するためには、データ構造を理論的に整理する必要がある。例えば、“料理"と“食品"に関する概念整理であり、また、目安量-重量換算についても、より理論的な再構築が不可欠であった。今回は、現行の国民栄養調査で用いられているデータベースはそのままとし、システム開発・使用上、最低限必要なデータを新たに加えることとした。しかし、今後、以下のデータベースについては、大幅なデータの追加ないしは再構築が必要であると考える。① 現行の国民栄養調査の『食品番号』では、カバーされない食品については、第5次改定の食品成分表への切り替えと同時に、大幅に収載項目を増やす必要があろう。② 外食、加工食品・市販食品については、新規の調査による系統的なデータ収集およびデータベース構築が不可欠であろう。③ 目安量-重量換算についても、既存のデータの見直しを行うとともに、流通、農林水産省などのデータベース等も加え、系統的かつ総合的なデータベース化をはかる必要があろう。④ 国際的には、“生の食材料"ではなく、“実際に口にする食べ物(料理)"として調査を行うことが標準となっている。特に、外食、調理済み食品の使用頻度が高まっている今日の状況を考えると、国民栄養調査についても、“料理レシピ"のデータベースを整えていく必要があろう。
(2) 国民栄養調査における標本抽出方法等に関する統計学的事項の検討:エネルギーや主栄養素摂取量の平均値に関しては、経年変化や性・年齢階級別の特性を、全国レベルで記述する目的においては、現行のサンプルサイズでも標本誤差は十分に小さいと考えられた。しかし、地域ブロック別等、より細かな属性別の分析を行うためには、サンプルサイズを大きくする、あるいは特定のサブグループに対して過剰抽出を行う必要も出てくると思われた。また、調査協力率に関しては、地誌・社会的条件による影響が大きいことが示され、協力率が大幅に低下すると、“選択バイアス"により調査データの代表性が担保できない可能性もあると考えられた。さらに、従来の世帯単位の調査データでは、調査対象となった者の性・年齢の構成の違いを考慮(例:年齢調整など)することが出来なかった。統計モデルを用いて解析した結果、最近20年間に調査対象の高齢化が進んでいるので、それを調整すると、脂肪の摂取量の増加幅は単純平均データよりも大きい可能性が示唆された。
(3)食事、身体活動などの生活習慣に関する多施設共同疫学調査:厚生科学健康増進調査研究「健康運動習慣等の生活習慣が健康に与える影響についての疫学的研究」(主任研究者:田中平三、平成3年~9年度)における“ライフスタイルモニタリング"を継続し、“後期"断面調査(C-3)を開始した。また、“前期"および“中期"断面調査(C-1、C-2)に関しては、それぞれ約2000名の調査データをデータベース化し、疫学的解析作業を継続中である。
結論
21世紀の生活習慣病予防対策のために、国民栄養調査をより有効に活用するためには、調査設計の見直しおよび運用方法等の再検討が必要である。すなわち、標本抽出方法、食事調査方法、身体活動調査方法、行動科学的な視点からの生活習慣評価方法等に関して、学問的、技術的な検討を行うことが必須である。また、実際の運用に関しては、調査協力率、各種調査手法の標準化および調査者の訓練、食事調査データの処理、血液検査等の精度管理等について、具体的な解決方法を得るための検討が必要である。
特に、食事調査については、食事調査方法そのものの見直し、食品成分表をはじめとした各種データベースの再構築、データ処理の効率化、調査者への教育・訓練などに関する重点的な研究が必要であり、本年度の当研究では、各種データベースの再検討・開発、データ処理のためのコンピュータプログラムの開発およびその評価を行った。その結果、コンピュータプログラムは食事調査のデータを処理するためには有効であり、十分な研修、サポート体制の下に保健所等に導入するべきであると考えられた。

公開日・更新日

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