文献情報
文献番号
201920020A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病HIV感染者に対する癌スクリーニング法と非侵襲的治療法の確立に関する研究
課題番号
19HB1003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
岡 慎一(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
- 永田 尚義(東京医科大学・医学部消化器内視鏡学分野)
- 大野 達也(群馬大学大学院・医学系研究科)
- 石坂 幸人(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター・研究所難治性疾患研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV自体はコントロールできていても患者の高齢化に伴い癌患者が散見されるようになってきている。先行研究のFDG-PETを用いた癌スクリーニング研究で、2年間で68例中6例に腫瘍が見つかり(有病率5.9%)、罹患率は2.9/100PYと予想以上に高率であった。この結果は、血友病HIV感染者に対する癌スクリーニングの重要性を示唆した。一方、C型肝炎はほぼ全員治癒したものの、既に肝硬変に進行した患者は少なくなく、その中から今後肝臓癌の発生が危惧されている。特に、血友病患者においては、非観血的かつ非侵襲的は治療法を確立する必要性も高い。本研究では、従来の研究で明らかになってきたこれらの課題を克服する目的で、以下4つの研究を実施する。
分担1:血友病HIV感染者に対する癌スクリーニング法の確立に関する研究。
分担2:血友病HIV感染者に対する消化管の癌スクリーニングと治療に関する研究。
分担3:血友病/HIV/HCV重感染患者の肝細胞癌に対する重粒子線治療の安全性・有効性試験。
分担4:HIVに関連する液性因子による血友病HIV感染者の癌スクリーニングの研究。
分担1:血友病HIV感染者に対する癌スクリーニング法の確立に関する研究。
分担2:血友病HIV感染者に対する消化管の癌スクリーニングと治療に関する研究。
分担3:血友病/HIV/HCV重感染患者の肝細胞癌に対する重粒子線治療の安全性・有効性試験。
分担4:HIVに関連する液性因子による血友病HIV感染者の癌スクリーニングの研究。
研究方法
分担1/2:1年以上の間隔を置いて1-4の検査を2回実施する。
1. 甲状腺から前立腺をカバーする胸腹部造影CT検査。
2. 上部消化管内視鏡検査。
3. 便潜血検査(免疫法/2日法)。
4. 腫瘍マーカー(AFP, CEA, PSA)。
また、一般人口と比較したHIV感染者の死亡リスクを算出するため、人口動態統計データベースを使用し、年齢、性別を調整した標準化死亡比(Standardized Mortality Rate: SMR)を算出する。
分担3:重粒子線治療は、群馬大学重粒子線医学センターに設置された医用重粒子加速器および照射装置を用いて、1日1回、以下の線量分割で炭素イオン線照射を行う。
分担4:HIV感染者の血中Vprをモニターすることで、Vprのがん化リスク因子としての可能性を明らかにする。
1. 甲状腺から前立腺をカバーする胸腹部造影CT検査。
2. 上部消化管内視鏡検査。
3. 便潜血検査(免疫法/2日法)。
4. 腫瘍マーカー(AFP, CEA, PSA)。
また、一般人口と比較したHIV感染者の死亡リスクを算出するため、人口動態統計データベースを使用し、年齢、性別を調整した標準化死亡比(Standardized Mortality Rate: SMR)を算出する。
分担3:重粒子線治療は、群馬大学重粒子線医学センターに設置された医用重粒子加速器および照射装置を用いて、1日1回、以下の線量分割で炭素イオン線照射を行う。
分担4:HIV感染者の血中Vprをモニターすることで、Vprのがん化リスク因子としての可能性を明らかにする。
結果と考察
分担1/2:2020年3月末までに53名の登録を行い、CT28例、胃カメラ14名、便潜血23名、腫瘍マーカー25名の検査を終え、14名でスクリーニングの1回目をすべて終了した。現在までに癌が確定された例は無い。今回の検討では、全国どこでも実施可能な頚部から骨盤までをカバーしたCTと胃カメラを検査の柱とした。前回の研究と会わせより正確な癌のIncidenceが明らかとなり、一般と比較した考察が可能になると思われる。一方、日本人HIV感染者の長期follow-upデータからは、一般人口と比べ胃癌、大腸癌、肝臓癌、肺癌のリスクが高いことが判明した。
分担3:重粒子線治療のプロトコールに則り、現在まで、のべ4例の有効性と安全性を確認した。これまでに重篤な有害事象はなく、照射部位の腫瘍再発も認められていない。患者受け入れ前には放射線専門医、血液・感染症専門医、医事担当者、専門看護師を含む多職種カンファランスを行い、重粒子線治療中の凝固因子製剤および抗HIV治療(ART)の確実な継続・管理方法についても運用を確立することができた。
分担4:血友病HIV感染者におけるHIVウイルス蛋白質VprのELISA解析を行ったところ、55例中26例(47%)で陽性を認め、血友病以外のHIV感染者と比較(36%)して、高い割合でVprが検出された。これは潜伏感染細胞由来と考えられ、複製は抗ウイルス薬により阻害されているがウイルスタンパク質は産生可能な状態であることを示唆している。分泌されたVprは非感染細胞に対しても作用し、ゲノムDNA二重鎖切断や染色体異常、内在性レトロエレメントの活性化といったがん化形質を示すことから、血中に検出されるVprは、抗ウイルス療法下におけるがん化リスク因子の一つと考えられる。
分担3:重粒子線治療のプロトコールに則り、現在まで、のべ4例の有効性と安全性を確認した。これまでに重篤な有害事象はなく、照射部位の腫瘍再発も認められていない。患者受け入れ前には放射線専門医、血液・感染症専門医、医事担当者、専門看護師を含む多職種カンファランスを行い、重粒子線治療中の凝固因子製剤および抗HIV治療(ART)の確実な継続・管理方法についても運用を確立することができた。
分担4:血友病HIV感染者におけるHIVウイルス蛋白質VprのELISA解析を行ったところ、55例中26例(47%)で陽性を認め、血友病以外のHIV感染者と比較(36%)して、高い割合でVprが検出された。これは潜伏感染細胞由来と考えられ、複製は抗ウイルス薬により阻害されているがウイルスタンパク質は産生可能な状態であることを示唆している。分泌されたVprは非感染細胞に対しても作用し、ゲノムDNA二重鎖切断や染色体異常、内在性レトロエレメントの活性化といったがん化形質を示すことから、血中に検出されるVprは、抗ウイルス療法下におけるがん化リスク因子の一つと考えられる。
結論
血友病HIV感染者を対象とした癌スクリーニングと非侵襲的な治療法の確立に関する研究は順調に経過している。それらの成果を癌スクリーニングの指針としてまとめる予定である。HIVのウイルスタンパクVprも約半数から検出されたことより、癌化との関連をさらに検討する。
公開日・更新日
公開日
2021-06-01
更新日
-