文献情報
文献番号
201920015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山田 富秋(学校法人 松山大学 人文学部社会学科)
研究分担者(所属機関)
- 池田 学(大阪大学大学院 情報統合医学精神医学 )
- 大山 泰宏(放送大学 教養学部)
- 村井 俊哉(京都大学 医学部精神医学)
- 安尾 利彦(国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、HIV陽性者の精神・心理的実態を明らかにし、より効果的な精神・心理的支援策を開発し、精神科診療の連携体制を構築することを目的とする。上の目的を達成するため、研究1(池田学)研究2(大山泰宏)、研究3 (村井俊哉)、 研究4(安尾利彦) 、研究5(山田富秋)の5つの分担研究を実施する。以下分担毎に説明する。研究1(池田) 大阪府内のHIV陽性者の精神症状の実態および診療の課題を明らかにし、精神科医療機関の連携体制を構築する。研究2(大山) HIV陽性者に対する心理カウンセリングの効果を実証的に検証し、具体的提言を行う。研究3(村井) ADLやQOLに影響を与えるHIV関連神経認知障害(HAND)はHIV感染者の心理的ストレスの背景になっている。しかし、HANDの神経基盤は未だ明らかにされていない。よって、MRI画像と最新の画像解析技術によってこれを明らかにする。研究4(安尾) HIV陽性者の受診中断等の行動面の障害や、対人関係の心理的特性に関して、HIV陽性者と他の慢性疾患を比較することで、心理学的介入方法を明らかにする。研究5 (山田) 薬害被害者はHIV/AIDSのスティグマを抱えることによって、様々な「生きづらさ」に直面してきた。薬害被害者に対してどのような心理的支援が可能なのか、被害当事者のライフストーリーから読み解いていく。
研究方法
研究1(池田) 大阪府の精神科医療機関に対して質問紙調査を実施した。1年目(2018)は受診状況調査と研修会参加状況の調査を実施し、2年目(2019)は研修会へのニーズならびにHIV陽性者の精神症状・治療薬などについて調査を行なった。3年目(2020)は、HIV陽性者の精神科受診状況ならびに支援ニーズ等についてWeb調査を実施する。また、精神科医を対象とした講習会を実施する。研究2(大山)エイズ治療拠点病院と連携し、HIV陽性者に合計25回のカウンセリングを行い、心理学的アセスメントを行った。令和2年度は、カウンセリングを継続するとともに、3年間の総合的な分析を行う。研究3(村井) 疾患群対照群各約40名、合計約80名のデータを用い、患者群と対象群の脳灰白質体積、白質線維の障害の比較を行った。これら脳構造異常と認知機能検査等との相関等について画像統計解析を行った。研究4(安尾) HIV陽性者、ならびに高血圧症者と糖尿病患者を対象に、基本属性、受診中断等の行動、対象関係尺度などから構成される質問項目へ回答を求めた。H30年度は診療録から受診中断に関する要因を明らかにした。R1年度は受診中断等の行動や心理的特性について、他の慢性疾患患者と比較を行った。令和2年度は、受診中断・再開経験者と受診継続者を対象に、それぞれの心理的特徴を明らかにする。研究5 (山田) インタビューデータをもとにして、1960年代生まれの被害者と1970年代生まれの被害者とを比較した。被害者のコーホートを裁判の和解前後に分けて、生きなおしに向かう心理的困難の質の違いを解明した。
結果と考察
研究1(池田) 精神科受診中HIV陽性者はうつ病が半数を占めていた。研修ニーズは薬物相互作用、HAND、針刺し事故において高かった。研究2(大山) 今年度5例にカウンセリングを実施した。中断例もあったが、残りは安定して継続している。研究3(村井) 患者の免疫力を反映するnadir CD4と認知機能と脳白質神経線維の障害を比較した。低いnadir CD4患者群では、運動機能、遂行機能、感覚統合などの認知機能が有意に低下し、脳白質の平均拡散能等の上昇が認められた。研究4(安尾) HIV陽性者は他の慢性疾患の患者と比較して「自己中心的な他者操作」と「一体性の過剰希求」が低かった。研究5 (山田) 薬害被害者のアイデンティティが1960年代生まれと1970年代生まれとでは、相違があることがわかった。
結論
研究1(池田) HIV陽性者に対する精神科診療は通常診療と同様に実施できる。精神科医向けに特化した研修会の実施により、連携体制の構築が可能である。 研究2(大山) HIV陽性者にカウンセリングを行う上で、親密な他者との関係性のテーマに関する着眼点と配慮が重要である。研究3(村井) 日本の患者群の状態を海外に発信するとともに、患者の支援の助けとなる生物学的基盤情報を提示する。研究4(安尾) HIV陽性者を他の慢性疾患患者と比較した場合の心理的特性が明らかとなった。研究5 (山田) 薬害エイズ裁判の和解後において、特に1970年代生まれのコーホートに着目し、何が薬害被害者にとってポジティヴに生きなおすきっかけになったのかを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
2021-06-01
更新日
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