文献情報
文献番号
201920013A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 吉野 直人(岩手医科大学 医学部 微生物学講座 感染症学・免疫学分野)
- 杉浦 敦(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 産婦人科)
- 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 小児科)
- 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
- 定月 みゆき(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 産婦人科)
- 桃原 祥人(東京都立大塚病院 産婦人科)
- 大津 洋(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 臨床研究センターデータサイエンス部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
31,671,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染の妊娠・出産・予後に関して全国調査し、コホート研究により抗HIV治療の母児への長期的影響を検討する。HIV等の性感染症と妊娠に関する情報を掲載した国民向けリーフレットや小冊子を作成し、妊婦に配布することで教育啓発効果を期待する。エイズ治療拠点病院等への実態調査により、既刊の「HIV母子感染予防対策マニュアル」や「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」をより実用的なものに改訂し、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備する。
研究方法
1) HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIV感染に関する認識度の実態調査、2) HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査、3) HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析およびデータベースの更新、4) HIV感染女性と出生児の臨床情報の集積と解析およびウェブ登録によるコホートシステムの全国展開、5) 「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂と「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂、6) HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備と均てん化、7) HIVをはじめとする性感染症と妊娠に関する情報の普及啓発法の開発。8) HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベース管理のIT化とコホートシステムの支援
結果と考察
1)研究方法8)を追加することで、全国調査やデータベースの管理をIT化してデータの共有化とコスト削減を目指すこととした。定点6施設(大学病院1、公的病院2、市中病院1、有床診療所2)の妊婦に対し、HIV感染に関するアンケート調査を実施した。スクリーニング検査の偽陽性を理解するものは6.6%にとどまり、アンケート調査に関わる説明文の提供により、93.8%で知識の向上があったことから、HIVスクリーニング検査に関する妊婦の知識レベルは著しく低いままであると考えられた。その上で教育啓発の介入効果が期待された。2)HIV感染妊娠発生の全国1次調査を産科小児科で実施し、産科病院から42例、小児科病院から26例が報告された。3)産科2次調査を行い、平成31年妊娠転帰26例の報告を得た。データベースには母子感染59例(エイズ動向委員会報告では62例)を含む1070例のHIV感染妊娠が蓄積された。妊娠初期スクリーニング検査が陰性例での母子感染の報告が相次ぎ、妊娠中や授乳中の感染が推測された。ハイリスク例での再検査の必要性を提案したい。4)小児科2次調査を行い、1例の母子感染を含む30例の報告を得た。投薬された母子の長期予後を観察するコホート研究には国立国際医療研究センターから28例が登録され、定期調査の精度は向上している。他3施設(全4施設で全国症例数の50%以上を占める)を加えた多施設コホート研究のシステム開発が進行している。5) 平成30年3月に「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」初版を、平成31年3月に「HIV母子感染予防対策マニュアル」第8版を刊行し、エイズ治療拠点病院や周産期センターなどの関連施設、産科小児科医療従事者などに配布した。これらは既に臨床現場で十分応用されている。6)1次調査でHIV感染妊娠の経腟分娩を可能とする109施設に2次調査を行った。医師と看護師がともに自然分娩あるいは計画分娩が実際に可能と回答したのは1施設のみであった。医療保険制度、高額療養費制度、出産育児一時金などのわが国の医療経済事情、医療レベル、国民性、産科医不足などの周産期医療体制の問題等を考慮すると、24時間体制で経腟分娩を可能とするためのハードルは高い。7)エイズ文化フォーラムや大学祭へ出展し、市民公開講座を開催したが、参加者は少なく、市民の関心度の低さが検討課題として残った。さらにTwitter(https://twitter.com/HIVboshi)ではHIVをはじめとする性感染症全般に関する情報を発信し、コンテンツやフォロワーの増加は順調である。本研究班のホームページの運営とともに、情報の普及啓発法として有効であると考える。さらに令和2年3月刊行のリーフレット「クイズでわかる性と感染症の新ジョーシキ―君はどこまで理解しているかI?」や令和2年度内発刊予定の「HIVや梅毒をはじめとする性感染症に関する小冊子(案)」は、若者や妊婦アンケート調査における教育啓発グッズとして期待されている。
結論
HIV感染妊娠の報告数が減少しないこと、妊娠初期スクリーニングが陰性の母子感染が散発していること、妊娠初期スクリーニング検査を含む母子感染予防対策では不十分であること、経腟分娩を可能とする施設はきわめて少ないことなどから、今後はHIV感染妊娠への診療体制整備と教育啓発法の開発に重点を置くべきと考えた。
公開日・更新日
公開日
2021-06-01
更新日
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