文献情報
文献番号
201920012A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてMSMのHIV感染・薬物使用を予防する支援策の研究
課題番号
H30-エイズ-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門)
研究分担者(所属機関)
- 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門 )
- 大木 幸子(杏林大学 保健学部)
- 若林 チヒロ(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、HIV感染と薬物使用の予防およびHIV陽性者の支援を促進することを目的に、陽性者を対象とした生活の実情の調査、薬物使用者を支援する精神保健福祉センターとダルクにおけるMSMと陽性者への対応の現状と課題の調査、MSMへの予防啓発の検討を、4つの分担研究により遂行する。本年度は3年計画の2年目である。
(1)HIV陽性者の生活と社会参加に関する研究(若林)
(2)精神保健福祉センターにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(大木)
(3)ダルクにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(樽井)
(4)MSMにおける薬物使用に対処する啓発・支援方策に関する研究(生島)
(1)HIV陽性者の生活と社会参加に関する研究(若林)
(2)精神保健福祉センターにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(大木)
(3)ダルクにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(樽井)
(4)MSMにおける薬物使用に対処する啓発・支援方策に関する研究(生島)
研究方法
(1)HIV陽性者を対象にブロック拠点8病院(A調査)および都内2診療所(B調査)で質問紙を配布、匿名で回収して分析する。質問には前3回調査の健康管理、社会活動、薬物使用等に、高齢化、HIV関連情報、受診行動に関する項目を加えた。
(2)精神保健福祉センター全国50カ所を対象に、MSMであるHIV陽性者への対応(調査1)、相談経験と準備性(調査2)に関する質問紙を送付し匿名で回収、回答を分析した。
(3)全国のダルク54カ所を対象に、その運営、性的少数者とHIV陽性者の受入の現状と課題、HIVの現状認識に関する質問紙を送付、34カ所からの無記名回答を分析した。
(4)MSMに薬物使用含むメンタルヘルスとHIVの情報を発信するウエブサイト「Stay Healthy」を開設し、クラブイベントで啓発を行い、「ゲイ・ユースのためのピア・サポーター養成講座」を開催した。
(2)精神保健福祉センター全国50カ所を対象に、MSMであるHIV陽性者への対応(調査1)、相談経験と準備性(調査2)に関する質問紙を送付し匿名で回収、回答を分析した。
(3)全国のダルク54カ所を対象に、その運営、性的少数者とHIV陽性者の受入の現状と課題、HIVの現状認識に関する質問紙を送付、34カ所からの無記名回答を分析した。
(4)MSMに薬物使用含むメンタルヘルスとHIVの情報を発信するウエブサイト「Stay Healthy」を開設し、クラブイベントで啓発を行い、「ゲイ・ユースのためのピア・サポーター養成講座」を開催した。
結果と考察
(1)陽性者調査は実施中であり、A調査の中間集計では、①平均年齢48歳、65歳以上は9.4%で高齢化が認められた。②薬物使用経験は46%。③高齢期の生活への備えは76%が不十分と考え、介護サービス利用の費用、介護者のHIV理解、プライバシー等が心配と答えた。④HIV関連情報の認知は、U=Uは55%、PrEPは43%で、精神的負担の軽減、社会生活の向上に資する情報の普及が求められる。
(2)精神保健福祉センターの6割超が回復プログラムを実施し、2割が性的少数者から、14%がHIV陽性者からの薬物相談を経験しており、経験の有無とプログラム実施との間に関連が見られた。MSMと陽性者からの薬物相談における相談担当者の自己効力感に関わる要因として、MSMとHIV感染症に関する知識、セクシュアリティへの抵抗感が挙げられた。
(3)ダルクで性的少数者の受入経験をもつ施設は93%、その47%が偏見や差別の発生を心配したが、52%でセクシュアリティの勉強会開催等により、受入の円滑化がはかられていた。HIV陽性者の受入経験は73.5%、その34.7%が差別や偏見、個人情報の共有範囲等を懸念したが、61%が感染症の勉強会を開催し、77%が個人情報に関して本人の要望を確認していた。
(4)MSM向けウェブサイトへのクラブイベントからの誘導において、薬物使用に特化しない「あなたやあなたの大切な人に役立つ情報」というメッセージが、30-40代に対して有効であることが示唆された。10-20代への情報発信を担うピア・サポーターの養成講座では、COVID-19の影響で参加は少数だったが、インフルエンサーの協力により薬物問題への関心が高められた。
(2)精神保健福祉センターの6割超が回復プログラムを実施し、2割が性的少数者から、14%がHIV陽性者からの薬物相談を経験しており、経験の有無とプログラム実施との間に関連が見られた。MSMと陽性者からの薬物相談における相談担当者の自己効力感に関わる要因として、MSMとHIV感染症に関する知識、セクシュアリティへの抵抗感が挙げられた。
(3)ダルクで性的少数者の受入経験をもつ施設は93%、その47%が偏見や差別の発生を心配したが、52%でセクシュアリティの勉強会開催等により、受入の円滑化がはかられていた。HIV陽性者の受入経験は73.5%、その34.7%が差別や偏見、個人情報の共有範囲等を懸念したが、61%が感染症の勉強会を開催し、77%が個人情報に関して本人の要望を確認していた。
(4)MSM向けウェブサイトへのクラブイベントからの誘導において、薬物使用に特化しない「あなたやあなたの大切な人に役立つ情報」というメッセージが、30-40代に対して有効であることが示唆された。10-20代への情報発信を担うピア・サポーターの養成講座では、COVID-19の影響で参加は少数だったが、インフルエンサーの協力により薬物問題への関心が高められた。
結論
(1)高齢期の生活に備えているHIV陽性者は少なく、介護の費用、HIVへの理解、プライバシーへの不安が見られた。U=UやPrEP等のHIV関連情報の周知度が低いが、感染予防と陽性者の社会生活の質という観点から情報の普及が必須である。
(2)薬物問題をもつ性的少数者やHIV陽性者による精神保健福祉センターの利用には、回復プログラムが促進要因となる可能性が示唆された。相談担当者の自己効力感の向上に、陽性者、性的少数者に関する研修、陽性者支援団体との交流の必要が示唆された。
(3)ダルクでは、HIV陽性者支援に有用な治療への助成制度(68%)や治療継続による性感染の予防効果(53%)の周知は十分ではない。HIVと薬物使用に関する情報が、陽性者支援NGOとダルクとによって共有されることが求められる。
(4)薬物使用に関わる多様なソーシャル・サポート・ネットワークを構築していくには、若年MSMを広くワークショップに誘う工夫や、関係団体との協力体制により多様な予防の選択肢をコミュニティに提案し続けることが求められる。
HIVの治療と予防に取り組む拠点病院はじめ医療機関およびHIV陽性者支援NGOにとって、またMSMコミュニティにとっても、薬物使用への対応は不可避の課題である。陽性者の生活の一端を明らかにし、全国の精神保健福祉センターおよびダルクとの連携の端緒を拓く本研究は、この課題の推進に資するものと考える。
(2)薬物問題をもつ性的少数者やHIV陽性者による精神保健福祉センターの利用には、回復プログラムが促進要因となる可能性が示唆された。相談担当者の自己効力感の向上に、陽性者、性的少数者に関する研修、陽性者支援団体との交流の必要が示唆された。
(3)ダルクでは、HIV陽性者支援に有用な治療への助成制度(68%)や治療継続による性感染の予防効果(53%)の周知は十分ではない。HIVと薬物使用に関する情報が、陽性者支援NGOとダルクとによって共有されることが求められる。
(4)薬物使用に関わる多様なソーシャル・サポート・ネットワークを構築していくには、若年MSMを広くワークショップに誘う工夫や、関係団体との協力体制により多様な予防の選択肢をコミュニティに提案し続けることが求められる。
HIVの治療と予防に取り組む拠点病院はじめ医療機関およびHIV陽性者支援NGOにとって、またMSMコミュニティにとっても、薬物使用への対応は不可避の課題である。陽性者の生活の一端を明らかにし、全国の精神保健福祉センターおよびダルクとの連携の端緒を拓く本研究は、この課題の推進に資するものと考える。
公開日・更新日
公開日
2021-06-01
更新日
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