日本におけるHIV感染者・エイズ患者の発生動向に関する研究

文献情報

文献番号
201920004A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV感染者・エイズ患者の発生動向に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染拡大抑制に向け、WHOはカスケードケアに基づく90-90-90達成を目指すことを推奨している。これは、HIV陽性者が感染の状況について自らの診断を知っている率(診断率)、診断者の治療率、治療の成功率のいずれも90%以上を各国が目指すものである。本邦においても早期診断・早期治療に向け、これらの把握が必要である。特に本邦では感染症発生動向調査により毎年の新規HIV/AIDS発生報告件数が継続的に把握されているが、精度の高い累積HIV発生総数(HIV/AIDS報告総数+未診断HIV陽性者数)の推定をベースに、診断率、治療率、成功率を正しく分析することが喫緊の課題である。
研究方法
砂川グループでは、モデリングの専門家と共同して、ケンブリッジ法、ECDC法、スペクトラム法、US法等を用いた累積HIV感染者数の推計を行った。2017年末時点での累積感染者数の推計値(2020年1月時点暫定値)は30,498~37,236人(日本国籍のみ)、34,362~41,002人(外国籍を含む)であった。
松岡グループでは、行政検査を受検しHIV陽性が判明した血液検体を用いて、HIV時期を推定する目的でRecent Infection testing algorismに基づきスクリーニング検査、確定検査の判定結果を再解析すると共に、抗HIV抗体陽性検体に関してLag-Avidity assay(Incidence assay)を実施した。松岡グループの結果では、HIV診断後の海外転出数、死亡者数を考慮すると日本国内の未診断率は15%以上であり、診断率が85%以下になることから、First90は達成されていないことが示唆された。
結果と考察
感染症発生動向調査のHIV/AIDS届出における診断時CD4値報告状況
2020年1月8日時点では、2019年に診断・届出された1,225症例のうち、CD4値の記入があった症例の割合は54%(661例)であった。届出機関種別に見ると、エイズ治療拠点病院からの届出では69%(546/787例)、エイズ治療拠点病院以外の病院・診療所からの届出では31%(86/280例)、保健所等からの届出では18%(29/158例)であった。診断時CD4値を導入する技術的な議論として、5類感染症であることから、運用面の課題が保健所を始めとして大きいと考えられた。エイズ治療拠点病院でもCD4値の記入がない届出が3割強を占め、CD4値が届出項目であることの周知や、既に届出された症例のCD4値の追加記入を依頼するなど、記入割合の改善に向けた対策が必要と考えられた。また、診断した医療機関にて治療やCD4値の測定が行われるとは限らないため、他院でのCD4値の検査結果の取得や追加報告のための仕組みを考えることも重要である。保健所から届出された症例も同様と考える。
結論
感染症発生動向調査のHIV/AIDS届出における診断時CD4値報告状況、累積HIV発生総数の算出に関しては、各グループにおける活動が行われた。特に、累積HIV発生総数は本年度暫定値を得ることができた。さらに、我が国において、よりよい推計値を得るためには、未治療患者におけるCD4値の感染からの減衰速度についての研究が必要であることが判明したことから、本年度新たに、CD4値の減衰研究の実現に向けて関係機関との調整を開始した。
診断時のCD4値の届出については、未検査感染者数の推定に有用とされているのみならず、HIV感染者の明確に分類されることのない病期を表しており、公衆衛生学的な現状評価の観点からも重要な指標になり情報収集は有用であると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-01-17

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201920004B
報告書区分
総合
研究課題名
日本におけるHIV感染者・エイズ患者の発生動向に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染拡大抑制に向け、WHOはカスケードケアに基づく90-90-90達成を目指すことを推奨している。これは、HIV陽性者が感染の状況について自らの診断を知っている率(診断率)、診断者の治療率、治療の成功率のいずれも90%以上を各国が目指すものである。本邦においても早期診断・早期治療に向け、これらの把握が必要である。特に本邦では感染症発生動向調査により毎年の新規HIV/AIDS発生報告件数が継続的に把握されているが、精度の高い累積HIV発生総数(HIV/AIDS報告総数+未診断HIV陽性者数)の推定をベースに、診断率、治療率、成功率を正しく分析することが喫緊の課題である。
研究方法
砂川グループでは、モデリングの専門家と共同して、ケンブリッジ法、ECDC法、スペクトラム法、US法等を用いた累積HIV感染者数の推計を行った。2017年末時点での累積感染者数の推計値(2020年1月時点暫定値)は30,498~37,236人(日本国籍のみ)、34,362~41,002人(外国籍を含む)であった。
松岡グループでは、行政検査を受検しHIV陽性が判明した血液検体を用いて、HIV時期を推定する目的でRecent Infection testing algorismに基づきスクリーニング検査、確定検査の判定結果を再解析すると共に、抗HIV抗体陽性検体に関してLag-Avidity assay(Incidence assay)を実施した。松岡グループの結果では、HIV診断後の海外転出数、死亡者数を考慮すると日本国内の未診断率は15%以上であり、診断率が85%以下になることから、First90は達成されていないことが示唆された。
結果と考察
感染症発生動向調査のHIV/AIDS届出における診断時CD4値報告状況
診断時CD4値を届出項目として導入し、定期的に報告状況の評価を行った。診断時CD4値を導入する技術的な議論として、5類感染症であることから、運用面の課題が保健所を始めとして大きいと考えられた。エイズ治療拠点病院でもCD4値の記入がない届出が3割強を占め、CD4値が届出項目であることの周知や、既に届出された症例のCD4値の追加記入を依頼するなど、記入割合の改善に向けた対策が必要と考えられた。また、診断した医療機関にて治療やCD4値の測定が行われるとは限らないため、他院でのCD4値の検査結果の取得や追加報告のための仕組みを考えることも重要である。保健所から届出された症例も同様と考える。
結論
砂川グループでは、1年目は、感染症発生動向調査の改訂に向けた需要や課題の抽出を行い、診断時のCD4値を届出項目として導入した。2年目、3年目は、診断時のCD4値の情報の届出状況の把握や課題の抽出を行った。また、累積HIV発生総数の推計研究について、複数の地域(大阪府,沖縄県)の情報を入手し、3年目は、我が国における国内HIV感染者の推計値(暫定値)を算出した。また、よりよい推定値を得るために新たにCD4減衰研究が必要なことから、研究開始に向けて調整を開始した。
松岡グループでは、1年目は、血清診断学的手法を用いた感染時期の推定に関して実験データを収集した。2年目は、2006年以降の未診断者を含む日本国内の新規HIV感染者数、新規HIV感染者の診断率を推定し、エイズ発生動向委員会にて参考値として提供した。3年目は、2015年以降、保健所等の公的検査機関でHIV陽性が診断された血液検体を対象として調査を進めるための研究協力体制を構築し、Incidence assayを実施した。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-01-17

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201920004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV感染拡大抑制に向け早期診断・早期治療は重要戦略とされており、国際的にカスケードケアに基づく90-90-90の達成が提唱されている。本研究班では、既存の複数の推計方法やIncidence assayを行い、様々な視点から、このFirst90の指標とされる日本国内HIV感染者数の推定を行った。
臨床的観点からの成果
累積HIV感染者数の算出については、国内の数理モデル研究者と協働し、既存の複数の推計方法を使用し、推計値を算出した。また、モデルの改善や海外研究者からの情報収集を行うことにより、よりよい推計値の算出を目指した。また、実験系では、Incidence assayを用いた方法により推計値の算出を行った。今後これらの方法論を元に、どのように継続的に全国推計を行うかという議論は、我が国としての90-90-90の算出や、国としてのHIV/AIDS対応に直結しており重要であると考えている。
ガイドライン等の開発
First90の指標とされる日本国内HIV感染者数を推計し、エイズ発生動向委員会(令和2年3月2日延期)へ参考値として提供した。
その他行政的観点からの成果
病態を踏まえたHIV/AIDS発生動向を把握するという観点から、需要や課題の抽出、情報収集、国内研究者に対しインタビューを行った。その後、国内感染症発生動向調査において、2019年1月1日から診断時CD4値を含めることを皮切りとして、その後の診断時CD4の記入割合の評価を行い課題の抽出を行った。診断時CD4値を感染症発生動向調査に含める技術的な議論として、5類感染症であることから、運用面の課題が保健所を始めとして大きいことから、今後も、改善に取り組んでいくことが必要である。
その他のインパクト
HIV感染者数は、メディアによりしばしば取り上げられる話題であり、社会へのインパクトは大きい。また、HIVについて、日本で重要な会議の一つである、エイズ発生動向委員会に関与し、HIVの公衆衛生及び医療への影響力も大きいと考えている。今後も引き続き、よりよい推計値の算出を目指した研究が必要であり、感染症発生動向調査を利用し、安定的継続的なHIV感染者数推計値を算出できる体制構築に取り組むことが重要である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201920004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,000,000円
(2)補助金確定額
11,257,000円
差引額 [(1)-(2)]
743,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,961,012円
人件費・謝金 13,800円
旅費 1,451,848円
その他 831,060円
間接経費 0円
合計 11,257,720円

備考

備考
支出合計と補助金確定額との差額
自己資金:720円

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-