HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究

文献情報

文献番号
201920002A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
野田 龍也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡 祐一(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 明神 大也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部付属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
18,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、HIV感染者、特に血液凝固異常症(血友病等)を合併したHIV感染者が受けている治療の標準的な姿を明らかにするとともに、血液凝固異常症全国調査事業など、通常の調査・支援の網からこぼれ落ちている可能性のある患者に、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)による悉皆調査の光を当て、適切な社会・医療介入へつなげることを目的としている。
研究方法
本研究は、HIV感染症及び血液凝固異常症に関する学会や全国各地域で活動する臨床専門家および、NDBの専門家が参画した。
最終年度となる令和元年度は、NDBによる患者数推計の精緻化、血液製剤及び抗HIV薬の処方分布や処方組み合わせ、新薬の処方状況の分析を行った。血液凝固異常症患者の分析としては、併存疾患(基礎疾患たる悪性腫瘍の併存を含む。)の内訳などの社会的な懸案事項の推計にも取り組んだ。HIV/AIDSの分析としては、横幕班との強い連携のもと、抗HIV薬の処方状況を全国的に正確に把握するとともに、C型肝炎や悪性腫瘍などの併存疾患について、有病率や治療状況、予後まで含めた受療状況の把握を行い、エイズ動向委員会への報告を行った。
結果と考察
3年間の研究を経て、本研究における血液凝固異常症の定義を以下に決定した。
NDBにおける血液凝固異常症定義は、集計期間中に血液凝固異常症関連傷病名を付与され(「血液凝固異常症の関連病名」からアンチトロンビン欠乏症を示す病名(「アンチトロンビンⅢ欠乏症」、「アンチトロンビン欠乏症」の2 つを除外)、かつ血液凝固異常症に関する薬剤を処方された者(ただし、PPSB、フィブリノゲン、フィブロガミンPに関しては、入院での処方の有無を問わず、外来での処方のみとする。)とした。
血液凝固異常症およびHIV/AIDS感染症において、人工関節置換術(股・膝)の実施状況および実施後の併存疾患状況(死亡を含む)の集計を行った。加えて、4つの集団(a HIV感染症全体、b 血液凝固異常症、c HIV感染症かつ血液凝固異常症、d 糖尿病(全国の760万人))それぞれについて、降圧薬の処方、糖尿病薬の処方、DVT・PEの合併(疑いを含む病名による集計)、入院中のDVT・PEの合併(疑い病名を含む)、人工関節置換術(股・膝)の施行、骨折手術の発生、骨粗鬆症薬の処方、MRI・CTの施行、C型肝炎薬処方の実施状況の集計を行った。これらの集計結果についてはまだ検討の余地があり、合併症に関する集計をより精緻化するためには、それぞれの定義について、さらなる精緻化が必要である。
がんの併存状況について、がん患者の定義(患者定義D)を、抗悪性腫瘍薬を1回でも投与されたことのある患者とし、前述と同様、4つの集団それぞれについて、がん病名コードごとの患者数を集計した。これらの集計結果についても、人工関節置換術(股・膝)と同様、まだ検討の余地があり、がんの定義について、さらなる精緻化が必要である。
上記に基づくNDBデータを用いた集計結果を令和元年8月29日に実施された第154回エイズ動向委員会に提出した。NDB集計は従来の委員会報告を置き換えるものではないが、NDBと感染症法届け出が並立することで、報告値の正確さが増すこと、特に、国際的なHIV医療指標である90-90-90の一部を半自動的に測定できることを示した。
結論
レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者及び彼らの受療状況について、全国悉皆的な把握を試みた。主な結果については、エイズ動向委員会に報告し、一定の評価を得ることができた。
本研究により、NDBにおける血液凝固異常症患者およびHIV患者の定義が、一定程度精緻化され、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者/HIV感染症患者/血液凝固異常症患者の死亡率、高血圧(降圧剤処方)、糖尿病(糖尿病薬処方)、癌(病名)、DVT・PE(病名)の合併状況が明らかになった。
レジメンについては正確な集計が可能である一方で、薬剤は複数の異なる目的で処方されうるため、特定の治療目的で処方した薬剤の処方状況を見るためには、入院時の一時的な処方を除くといった精緻化が必要であることが分かった。
一方で、処方や治療の均てん化の目的でNDB分析を実施するためには、地域別等、詳細な集計が必要であり、集計が詳細になるほど、患者数が10未満のセルが増え、NDB利用にあたっての最小集計単位の原則に抵触するという問題に直面する。これは、NDB分析を行うにあたっての解決すべき課題である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201920002B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
野田 龍也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡 祐一(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座 )
  • 明神 大也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部付属病院)
  • 町田 宗仁(金沢大学 医薬保健研究域医学系国際保健学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
NDBは、日本の保険診療の悉皆データであり、ここ数年で臨床研究利用が可能となってきた。NDBでは、公費負担以外の医療費が発生する医療行為を把握する力に優れている。本研究は、HIV感染者、特に血液凝固異常症(血友病等)を合併したHIV感染者が受けている治療の標準的な姿を明らかにするとともに、血液凝固異常症全国調査事業など、通常の調査・支援の網からこぼれ落ちている可能性のある患者に、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)による悉皆調査の光を当て、適切な社会・医療介入へつなげることを目的とする。
研究方法
本研究においては、血液凝固異常症やHIV感染症に対するNDB的病名定義の検討から着手した。NDB的病名定義においては、全国各地のHIV感染症及び血液凝固異常症の臨床専門家、およびNDB分析専門家が検討を行った。
血液凝固異常症は、病名×血液製剤のマトリックスの構築によるNDB的血液凝固異常症の定義付けを検討した上で、本研究における当該疾患の定義を決定した。その後、名寄せアルゴリズムを用いて患者の集計を行った。
HIV/AIDSについては、その治療において処方される薬剤が他の疾患の治療において使用されることがないため、抗HIV薬を1剤以上処方された患者を、NDB分析におけるHIV感染者/AIDS患者と定義した。患者定義に基づき、性・年齢・都道府県・診療年月別の患者数のNDB集計を行った。
集計要件の精緻化や患者定義の較正により、受療状況の把握を行い、今後への提言をまとめた。
結果と考察
本研究により、NDBにおける血液凝固異常症患者およびHIV患者の定義が、一定程度精緻化された。血液凝固異常症患者およびHIV患者のNDB集計値を、血液凝固異常症全国調査やHIVの全国調査における患者数と比較した。また、HIV感染症に対するレジメンおよび特定のHIV薬の処方状況について分析した。血液凝固異常症およびHIV/AIDS感染症において、人工関節置換術(股・膝)の実施状況および実施後の併存疾患状況(死亡を含む)の集計を行った。合わせて、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者/HIV感染症患者/血液凝固異常症患者の死亡率、B型肝炎、C型肝炎、高血圧、糖尿病)、癌等の合併状況についても検討した。併存疾患に関する集計結果についてはまだ検討の余地があり、合併症に関する集計をより精緻化するためには、併存疾患の定義について、さらなる精緻化が必要である。
 上記の検討に基づくNDBデータを用いた集計結果を、第153回および第154回エイズ動向委員会に提出した。NDB集計は従来の委員会報告を置き換えるものではないが、NDBと感染症法届け出が並立することで、報告値の正確さが増すこと、特に、国際的なHIV医療指標である90-90-90の一部を半自動的に測定できることを示した。
結論
レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者及び彼らの受療状況について、全国悉皆的な把握を試みた。主な結果については、エイズ動向委員会に報告し、一定の評価を得ることができた。   HIV感染者/AIDS患者の疾患定義をNDB上で構築することにほぼ成功し、医療機関をまたいだ受診や各患者の処方状況、併存疾患の有無を匿名のまま把握・追跡できる仕組みが構築された。血液凝固異常症患者についても、NDBによる疾患定義の構築にほぼ成功し、処方状況や各種の併存疾患を全国網羅的に把握することができるようになった。一方、血液凝固異常症患者治療における重要な指標である血液製剤の定期補充療法については、NDBでの定義付けは十分ではなく、今後の研究における課題として残っている。
通常の調査や支援の網からこぼれ落ちている可能性のある患者に悉皆調査の光を当て、適切な医療や支援につなげるという目的について、NDB分析では、従来の抽出調査に基づく病院単位、製薬企業単位の調査に比べ、調査の妥当性を飛躍的に向上させることが可能となった。
本研究でも、より適切な処方が存在する可能性のある少数の患者が集計結果にて散見され、本研究の目的を技術的には達成できることが明らかとなった。しかし、NDBの公表制限により、外部への公表はできない状態であった。NDBの公表基準は2020年度中の変更が見込まれており、「具体的な数値は示さないまでも、当該患者がある地域に存在することを定性的に示す」ことにより、患者の福利厚生により即した治療への誘導を期待するといった工夫が構築されるべきである。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201920002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)上で(a)血液凝固異常症の有病や罹患、(b)HIV感染症の有病や罹患をそれぞれ判定する定義をデータベースの専門家と臨床専門家が協働し、構築した。今後、本研究班が構築した定義を用いることで、血液凝固異常症やHIV感染症に関する悉皆調査・臨床研究が可能になった。
臨床的観点からの成果
本研究により、(1)HIV感染者/AIDS患者及び血液凝固異常症患者が受けている治療の姿を全国を網羅する形で明らかになった。また、(2)通常の調査や支援の網からこぼれ落ちている可能性のある患者に悉皆調査の光を当て、適切な医療や支援につなげることが可能になった。これらの成果により、患者の福利厚生により即した治療への誘導を期待したい。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、ガイドラインに即した標準的な医療を、NDBというビッグデータを用いて支援する新しい試みであり、研究成果を、他の厚労科研研究班(「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班」代表・横幕能行)と共有し、共同研究を進めている。
その他行政的観点からの成果
第153回以降のエイズ動向委員会にNDBを用いたHIV感染症患者に関する集計結果を継続的に提出している。特に、累積ではなく現在処方を受けている患者数を悉皆的に求められることがNDBの強みであり、今後もエイズ動向委員会を含め、行政との共同分析を継続する。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2024-06-07

収支報告書

文献番号
201920002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,750,000円
(2)補助金確定額
18,750,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,532,993円
人件費・謝金 2,216,597円
旅費 440,830円
その他 9,559,580円
間接経費 0円
合計 18,750,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-05-01
更新日
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