MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201920001A
報告書区分
総括
研究課題名
MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 健山正男(国立大学法人 琉球大学大学院医学系研究科 感染病態制御学講座分子病態感染症学分野)
  • 和田秀穂(川崎医科大学血液内科学)
  • 塩野徳史(大阪青山大学健康科学部 看護学科)
  • 岩橋恒太(特定非営利活動法人akta)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
21,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.医療機関とMSMをサポートするNPO aktaが連携した検査システム「HIVcheck.jp」を活用し、ハイリスクMSM層の検査受検推進を図る。また本検査手法を用いて、受検者のHIV感染ステータスと行動データをリンクさせた血清行動疫学調査を実施し、ハイリスク群の明確化をはかる。
2.地方都市で、地域性に配慮した形で公的機関以外の医療機関等を活用したHIV検査の提供体制を整備し、対面型の接触を避けるMSMへの検査促進を行う。
3.当事者NGOが協働し、従来の予防介入が届きにくかったハイリスクMSMの実態把握と有効な介入方法の検討を行う。
研究方法
本研究では、都市部では「HIVcheck.jp」を活用した検査機会の拡大、受検者の感染ステータスと質問紙調査による行動データをリンクさせた血清行動疫学調査を実施する。また、地方都市では、急性感染期の症状を見逃さず適切に検査が提供できるよう医療職種への啓蒙と、コミュニティに向けて急性感染期に関する情報発信を同時に行う。また中四国地域で、医療機関等を活用した検査提供体制の整備を図る。またNGOが協働し、従来の予防介入が届きにくかったハイリスクMSMの実態把握と有効な介入方法の検討を行う。研究1.自己検査キットによる検査機会の拡大と血清行動疫学調査の実施、研究2.地方における新たな検査機会の開発‐医療者からの検査推奨によるMSMの検査受検環境改善、研究3. 地方における新たな検査機会の開発‐クリニック・診療所における検査機会の拡大、研究4. 地方都市での陽性者の検査・予防サービスの接点に関する調査、研究5.よりハイリスクなMSM層の解明と有効な介入方法の検討の分担研究により遂行する。
結果と考察
研究1は、aktaにて累計で2,087キットを配布、ACCにて1,756件のスクリーニング検査を実施した。検査結果は99%の対象者が閲覧していた。スクリーニング陽性者の確認検査のための医療へのつなぎを向上できるようビデオ等も作成した。研究期間全体での陽性割合は3.83%であった(なお複数回受検者はN=1としてカウントした)。
研究2では、沖縄県でHIV検査提供が可能な民間の医療機関を開拓し、行政とNGOと協働して広報を実施した。nankrによるホームページ宣伝を開始することで、1.5倍の受検者の向上を認めている。73名の受検者を認め、陽性者も1名出ている。また2019年6月に行政によるMSM向けHIVと梅毒検査をコミュニティセンターmabuiにおいて実施し、上限枠を超える利用者20名が来場した。
研究3は新たに香川県でクリニックを開拓し、HIV陽性者1人、梅毒陽性者を受診につなげた。民間医療におけるHIV検査提供は、陽性時にも受療に確実につなげることが可能である点でもメリットは大きい。
研究4では、地方都市拠点病院で質問紙調査を実施、過去5年以内に陽性が判明した陽性者よりデータを収集した。陽性判明前にHIV検査を受けたものは35%、HIV急性期症状が出て医療機関受診をし、そのうちHIV検査勧奨を受けた割合は28%であることを示した。より民間医療機関や急性期症状で受診可能性のある医療機関への啓蒙が重要である。
研究5では、全国NGOと協働し商業施設利用者向けに質問紙調査を実施した。コミュニティセンター認知割合は商業施設調査で45%、インターネット調査で63%であった。コミュニティセンター認知者の方がHIV検査の受検経験割合が高く、性感染症の既往も高かった。また若者層MSMへの面接調査から出会いの場、HIVの情報入手元、検査ニーズに関する基礎資料を得た。
結論
わが国では未達成である「90%の陽性者が自身の感染ステータスを把握する状況」の到達のためにも、「HIVcheck.jp」のような検査手法は保健所等での検査よりも陽性割合も高く、ハイリスク層への検査アプローチとしては有効である。地方都市では、民間医療を活用した検査を中四国で実施し、保健所よりも高い陽性割合を得た。医療とコミュニティ行政が協働し、医療者、MSMコミュニティ双方に検査促進に向けて働きかけていく必要がある。また従来の商業施設ベース型の介入が届きにくかったハイリスクMSMに対して検査促進、介入促進のための新たなアプローチが必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2023-07-12

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201920001B
報告書区分
総合
研究課題名
MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 健山 正男(国立大学法人琉球大学大学院医学系研究科)
  • 和田 秀穂(川崎医科大学血液内科学)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学健康科学部・看護学科)
  • 岩橋 恒太(特定非営利法人 akta)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.医療機関とMSMをサポートするNPO aktaが連携した検査システム「HIVcheck.jp」を活用し、ハイリスクMSM層の検査受検推進を図る。また本検査手法を用いて、受検者のHIV感染ステータスと行動データをリンクさせた血清行動疫学調査を実施し、ハイリスク群の明確化をはかる。
2.地方都市で、地域性に配慮した形で公的機関以外の医療機関等を活用したHIV検査の提供体制を整備し、対面型の接触を避けるMSMへの検査促進を行う。
3.当事者NGOが協働し、従来の予防介入が届きにくかったハイリスクMSMの実態把握と有効な介入方法の検討を行う。
研究方法
本研究では、都市部では「HIVcheck.jp」を活用した検査機会の拡大、受検者の感染ステータスと質問紙調査による行動データをリンクさせた血清行動疫学調査を実施する。また、地方都市では、急性感染期の症状を見逃さず適切に検査が提供できるよう医療職種への啓蒙と、コミュニティに向けて急性感染期に関する情報発信を同時に行う。また中四国地域で、医療機関等を活用した検査提供体制の整備を図る。またNGOが協働し、従来の予防介入が届きにくかったハイリスクMSMの実態把握と有効な介入方法の検討を行う。研究1.自己検査キットによる検査機会の拡大と血清行動疫学調査の実施、研究2.地方における新たな検査機会の開発‐医療者からの検査推奨によるMSMの検査受検環境改善、研究3. 地方における新たな検査機会の開発‐クリニック・診療所における検査機会の拡大、研究4. 地方都市での陽性者の検査・予防サービスの接点に関する調査、研究5.よりハイリスクなMSM層の解明と有効な介入方法の検討の分担研究により遂行する。
結果と考察
研究1は、平成30年2月26日よりaktaにて累計で2,087キットを配布した。ハッテン場で49キット、沖縄で55件の配布を行った。ACCにて1,756件のスクリーニング検査を実施した。検査結果は99%の対象者が閲覧していた。研究期間全体での陽性割合は3.83%であった(なお複数回受検者はN=1としてカウントした)。ハッテン場配布由来の検体の陽性割合は、コミュニティセンター配布由来検体より高かった。スクリーニング陽性者のうち医療機関への受診を確認できたのは21件(46.7%)であった。研究2では、沖縄県でHIV検査提供が可能な民間の医療機関を開拓し、行政とNGOと協働して広報を実施した。nankrによるホームページ宣伝を開始することで、1.5倍の受検者の向上を認めている。73名の受検者を認め、陽性者も1名出ている。また研究所年度より毎年行政によるMSM向けHIVと梅毒検査をコミュニティセンターmabuiにおいて実施した。研究3は岡山市3施設、倉敷市3施設であり、受検者総数は31人で、HIV陽性者1人、梅毒陽性者3人を新規に診断した。後者では、福山市2施設、松山地区2施設、高松市1施設が参加し、受検者総数は26人で、HIV陽性者1人、梅毒陽性2人を新規に診断した。研究4では、地方都市拠点病院で質問紙調査を実施、過去5年以内に陽性が判明した陽性者よりデータを収集した。陽性判明前にHIV検査を受けたものは35%、HIV急性期症状が出て医療機関受診をし、そのうちHIV検査勧奨を受けた割合は28%であることを示した。研究5では、全国NGOと協働し中四国地域および横浜、仙台、名古屋地域では質問紙調査を実施し、大阪、沖縄地域ではインターネット調査を実施した。U=Uといった新しい知識の所有は検査行動と関連が見られた。コミュニティセンター認知割合は商業施設調査で45%、インターネット調査で63%であった。コミュニティセンター認知者の方がHIV検査の受検経験割合が高く、性感染症の既往歴も高かった。
研究は概ね計画通りに進行し、都市部、地方都市別に検査普及の取り組みと、今後検査や予防啓発を届けるべき集団やその集団へのアプローチの基礎資料を得ることができた。
結論
わが国では未達成である「90%の陽性者が自身の感染ステータスを把握する状況」の到達のためにも、「HIVcheck.jp」のような検査手法は保健所等での検査よりも陽性割合も高いハイリスク層への検査としては有効である。地方都市では、民間医療を活用した検査を中四国で実施し、保健所よりも高い陽性割合を得た。医療とコミュニティが協働し、医療者、MSMコミュニティ双方に働きかける社会的意義は大きい。従来の商業施設ベース型の介入が届きにくかったハイリスクMSMへの検査拡大、介入促進が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-01-17

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201920001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
コミュニティセンター、ゲイ向け商業施設で「HIVcheck.jp」プログラムとして、HIV検査キットを2087個配布し、1756件(回収率84.1%)の検査を実施し、99%の結果が利用者により確認された。スクリーニング検査で45名陽性が判明した。複数回利用者はN=1とカウントし陽性割合は3.83%であった。商業施設集積地に設置されたコミュニティセンターでは、HIV検査や予防情報を普及してきた。評価研究からコミュニティセンター資材の認知とHIV検査に正の相関が示され、その成果を国際誌に発表した。
臨床的観点からの成果
コミュニティベースに展開する「HIVcheck.jp」での陽性割合は従来の保健所の陽性割合より 8 倍高く、受け取り者の20% 以上は生涯初の検査機会となっていること、ハッテン場由来の検体の陽性割合が高いことから、ハイリスクなMSM への検査としては有用であることが示された。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
地方都市では、NGO、行政、医療の連携による民間クリニックを活用した HIV検査の事業化に成功した岡山県モデル事例を中四国地域にも拡大させた。また、沖縄県や愛知県、岐阜県での民間クリニックを活用した検査提供のモデルとなった。
その他のインパクト
本研究の実績や成果については、学会のみならず、研究分担者は積極的に愛知県、東京都、岐阜県、三重県、大阪府、岡山県、沖縄県のHIV検査や診療、予防啓発に従事する保健師、技師、医師に対して研修会、講習会の場を通じて普及に努めた。またhttps://www.msm-japan.com/ のサイトにも研究成果報告書を掲載し、公開に努めている。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
金子典代、塩野徳史
コミュニティセンターに来場するゲイ・バイセクシュアル男性のHIV・エイズの最新情報の認知度とHIV検査経験,コンドーム使用との関連
日本エイズ学会誌 , 23 (2) , 78-86  (2021)
原著論文2
宮田りりぃ、塩野徳史、金子典代
MSM(Men who have sex with men)に割り当てられるトランスジェンダーを対象とするHIV/AIDS予防啓発に向けた一考察-ハッテン場利用経験のある女装者2名の事例から
日本エイズ学会誌 , 23 (1) , 18-25  (2021)
原著論文3
金子典代、塩野徳史、本間隆之他
地方都市在住のMSM(Men who have sex with men)における調査時点までと過去1年のHIV検査経験と関連要因
日本エイズ学会誌 , 21 (1) , 34-44  (2019)
原著論文4
Tsunefusa Hayashida, Misao Takano, Kiyoto Tsuchiya, et al.
Validation of mailed via postal service dried blood spot cards on commercially available HIV testing systems
Global Health & Medicine , 3 (6) , 394-400  (2021)
10.35772/ghm.2021.01105
原著論文5
Noriyo Kaneko, Nigel Sherriff, Michiko Takaku, et al.
Increasing access to HIV testing for men who have sex with men in Japan using digital vending machine technology
International journal of STD and AIDS  (2022)
10.1177/09564624221094965
原著論文6
金子典代、健山正男、和田秀穂、他
HIV治療通院中のMSMにおける急性感染期の医療機関の受診、受診先でのHIV検査の受検、性感染症の既往
日本性感染症学会誌 , 34 (1) , 99-101  (2024)
10.24775/jjsti.S-2022-0002

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
2024-07-04

収支報告書

文献番号
201920001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,932,000円
(2)補助金確定額
24,932,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,592,312円
人件費・謝金 2,084,927円
旅費 2,472,262円
その他 14,574,019円
間接経費 3,252,000円
合計 24,975,520円

備考

備考
収支差額43,520円は研究者の自己資金である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-