文献情報
文献番号
201919016A
報告書区分
総括
研究課題名
細菌の薬剤耐性機構解析に基づいた多職種連携による効率的・効果的な院内耐性菌制御の確立のための研究
課題番号
19HA1004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
大毛 宏喜(広島大学病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
- 八木 哲也(名古屋大学 大学院 医学系研究科 臨床感染統御学)
- 矢原 耕史(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 第二室)
- 飯沼 由嗣(金沢医科大学 医学部 臨床感染症学)
- 村木 優一(京都薬科大学 薬学部 臨床薬剤疫学分野)
- 小椋 正道(東海大学 医学部 看護学科)
- 清祐 麻紀子(九州大学病院 検査部)
- 菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
感染防止対策加算の算定要件を満たしていない比較的小規模な医療機関や,高齢者施設に代表される社会福祉施設では,耐性菌のアウトブレイクが起きているとの報告が散見されるものの実態は明らかでない.同一医療圏ではこれらの施設を含めて患者の行き来があり,水面下での耐性菌アウトブレイクは医療圏全体の課題である.院内感染対策の専門家が不在で,感染対策に割く財源に乏しいこれらの施設では,対策を取らない限り今後も耐性菌の拡大が避けられない.そこで本研究では,耐性菌の広がりや影響を調査することで,今後の施策の立案に寄与する提言を行うことを目的とした.
研究方法
特に基礎研究者と臨床の多職種連携を特徴とする本研究班は,その特性を生かしてデータに基づいた根拠のある効率的な薬剤耐性対策の立案を目指している.初年度は①高齢者施設における耐性菌保有状況とその影響の調査,②地域での薬剤耐性菌の分子疫学解析に基づいた伝播メカニズム検討,③二次医療圏での抗菌薬使用調査,④医療機関および検査センターにおける検査体制の評価,を主に行った.①では広島県内の社会福祉施設5施設で,入所者より口腔内ぬぐい液および便検体を採取し,ESBL産生菌およびカルバペネム耐性腸内細菌科細菌の分離同定と遺伝子解析を行った.また耐性菌保菌の影響評価として,高齢者医療施設において同意が得られた入所者を対象に,耐性菌の保菌軍と非保菌群とで各種パラメータの比較と観察を行った.②では地域連携施設でのカルバペネマーゼ産生菌のプラスミド解析や,高病原性MRSAクローンの流行状況調査を実施し,分子疫学的な伝播経路の解析を試みた.③では広島県の二次医療圏における抗菌薬使用状況の把握を田辺班で入手したナショナルデータベースにおける二次医療圏の集計表情報を使用して評価した.さらに厚生労働省より公表されている平成29年度のDPCデータを用いて,カルバペネム系薬の標準化/予測使用モデルの構築を行った.④では微生物検査における業務フローについて,施設や検査センターの現状調査を行い,課題を明らかにするためのアンケートを実施した.
結果と考察
介護福祉施設3施設のESBL産生菌保菌率は,口腔検体を対象とすると21.1%,便中ではそれぞれ71.6%であった.菌種で最も多かったのは大腸菌で,広島大学病院で大腸菌に占めるESBL産生菌の割合は20%程度であるのに対し,介護保険施設で便中から分離された大腸菌に占めるESBL産生菌の割合は90%超であった.これらの結果から,高齢者施設における耐性菌の保菌率は市中と比較して予想以上に高率であることが明らかになった.地域連携施設でのプラスミド解析では,調査を行った3施設では,IMI-9産生のEnterobacter属の広がりを認めた.また肺炎桿菌のカルバペネマーゼは,IMP-1型が多くを占め,一部IMP-6が検出された.IMP-6にはIncNプラスミド上に遺伝子がコードされている特徴を明らかにできた.IMP-1型産生株は複数の施設で同一のMLST株が検出されていることから,クローナルな広がりが示唆された.また異なるMLST株で共通したInc型のプラスミドが見られており,プラスミドを介した広がりも考えられた.市中発症皮膚軟部組織感染症由来のMRSAを収集した結果,高病原性因子産生株の著明な増加と,海外の市中型MRSAで分離される毒素であるPanton Valentine Leukocidin (PVL)産生株の増加傾向が明らかとなった.広島県の二次医療圏における2013年から2016年までの経口抗菌薬の使用状況を見ると,抗菌薬使用の増減幅は外来で顕著で,この傾向は高齢者においては医療圏に関係なく同様であったのに対し,小児や生産年齢人口では医療圏による差を認めた.さらに抗菌薬使用データに基づく重回帰分析により,カルバペネム系薬の予測式を構築することが出来た.微生物検査においては検査内容と方法,さらには報告体制まで様々であることが明らかになった.耐性菌検出とそれに基づいた抗菌薬適正使用につなげるために,体制の標準化が必要であることが明確になった.
結論
本年度は高齢者施設における耐性菌の広がりや,MRSAの市中での拡大傾向を明らかにできた.また耐性菌の拡大が染色体性やプラスミド性など多彩であることも明らかになった.これらの基礎的なデータは次年度以降の具体的な対策の立案に重要な情報となる.さらに抗菌薬使用状況の地域的な特徴や適正使用に不可欠な微生物検査の標準化のための課題も浮き彫りにできた.また継続して観察を行っている高齢者施設での耐性菌保菌者と非保菌者の比較検討は次年度以降重要な知見をもたらすと期待できる.本研究班の多職種連携という特色を生かし,次年度の成果につなげたい.
公開日・更新日
公開日
2021-05-20
更新日
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