急性弛緩性麻痺、急性脳炎・脳症等の神経疾患に関する網羅的病原体検索を含めた原因及び病態の究明、治療法の確立に資する臨床疫学研究

文献情報

文献番号
201919014A
報告書区分
総括
研究課題名
急性弛緩性麻痺、急性脳炎・脳症等の神経疾患に関する網羅的病原体検索を含めた原因及び病態の究明、治療法の確立に資する臨床疫学研究
課題番号
19HA1002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 林 昌宏(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所 )
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 原 誠(日本大学 医学部)
  • 八代 将登(岡山大学病院 小児科)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学 医学部)
  • 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部)
  • 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野)
  • 森 墾(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,475,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2015年と2018年に多発した急性弛緩性麻痺(AFP)について全国調査を実施し、予後改善に繋がる方法を検討する。AFMの神経生理学的特徴を明らかにし、神経障害の病態を推定し、2015年と2018年で比較検討する。神経画像レビュー、病変の経時的変化の検討、上腕神経叢MRI等を用いた検討を行い神経障害の病態解明に繋げる。
感染症発生動向調査に基づいて届けられた急性脳炎・脳症、AFPについて、病原体検索の現状を調査し、不明症例については、日本脳炎(JE)、ダニ媒介脳炎(TBE)、自己免疫性脳炎を鑑別する方法を確立し、網羅的病原体検索を実施することで、原因究明に繋げる。検体採取、保管・搬送方法、検査・診断法及び手順を確立し、臨床医の意識調査を行うと共に国内検査フローの改善を図る。
研究分担者の所属する地域のAFP・急性脳炎・脳症の全数把握を実施することで、感染症発生動向調査による補足率から全国の症例数を推計し、臨床現場における病原体検索のための検体採取の実態を明らかにして、現状の改善に繋げる。
研究方法
①AFP症例の症状、病原体検索、神経画像、神経生理学的所見について解析する。②感染症発生動向調査(急性脳炎・脳症・AFP)を疫学的に解析し、disease burdenを明らかにする。③地域検討から急性脳炎・脳症・AFPについて全数把握を行い、感染症発生動向調査の補足率を検討し、医療者の意識調査と、病原体検索の重要性について啓発を行う。④自己免疫性脳炎の診断のため、抗神経抗体測定系を確立し、臨床応用する。⑤地方衛生研究所における病原体検索の現状を明らかにし、病原体不明症例の病原体検索を行う。⑥適切な臨床検体の採取時期・採取方法・保管・搬送方法を普及させ、網羅的な病原体解析を行う。地衛研で病原体不明であった症例は、国立感染症研究所の倫理承認(平成31年承認)に基づいて、臨床・疫学情報とともに、急性期の5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)及び急性期と回復期のペア血清を国立感染症研究所に搬送依頼し、網羅的な病原体遺伝子の検出、日本脳炎、ダニ媒介脳炎の特異的IgM抗体測定を行う。
結果と考察
2019年の急性脳炎(脳症を含む)報告数は959人で、年齢中央値は4歳、病原体不明が最多で、次いでインフルエンザウイルスであった。原因病原体は年齢群により特徴が認められた。原因不明急性脳炎・脳症18人から採取された臨床検体100件について網羅的な病原体検索をしたところ約4割から病態と関連する可能性がある病原体が検出された。ペア血清の解析によりJEおよびTBEは含まれていないと考えられた。自己免疫性脳炎については、本研究班で開発した抗体価定量法を用いて、脳炎症状と抗体価推移の相関を追跡することで、臨床応用可能な治療効果判定の指標として利用することが期待される。
2018年秋にAFPの多発があった。原因病原体としての最多報告はEV-D68で、ポリオウイルス検出症例はなかった。弛緩性麻痺は下肢に多く、8%で呼吸筋麻痺が報告された。脳幹病変を40人中14人に認め、うち8人に脳幹症状を認めた。全脊髄またはほぼ全脊髄に病変を認めたのは23人であったが、麻痺の分布は四肢麻痺から単麻痺まで様々であった。発症後6日までは灰白質と白質を含む広範な病変が多く、発症後7日以降に白質に限局傾向を認めた。ガドリニウム造影効果は、麻痺出現後3日以降で増強効果が高率であった。2018年AFM症例の神経生理学的特徴は、M波振幅の低下とF波出現率の低下で、2015年AFM症例と同様に運動神経の軸索型障害を呈していると考えられた。腕神経叢MRIで、末梢神経の腫脹と高信号を認め、末梢神経も関与していることが初めて示された。国内免疫グロブリン製剤9製剤中すべての製剤にEVD68に対する高力価の中和抗体が含まれていた。
結論
原因不明の急性脳炎・脳症22人についてJEおよびTBEに対するIgM捕捉ELISAは全て陰性であった。原因不明急性脳炎・脳症症例の約4割で原因病原体の推定に繋がった。脳炎患者25人中5人の髄液から抗神経抗体検出を検出し、全例で治療に伴い抗体価の低下を確認した。治療法開発の一環として、国内免疫グロブリン製剤中のEVD68に対する中和抗体を測定した結果、9製剤すべての製剤に高力価の抗体が含まれていた。臨床現場では、「複数の部位からの検体採取」、「超低温冷凍庫への正確な保存」、「保健所への届出」などが不十分であった。小児入院施設のある福島県内全ての医療機関と連携して急性脳炎・脳症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、AFP等の感染症関連中枢神経疾患による小児の入院患者の全数を把握し、可能な限り原因病原体を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201919014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,475,000円
(2)補助金確定額
7,217,000円
差引額 [(1)-(2)]
258,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,544,433円
人件費・謝金 265,150円
旅費 1,266,594円
その他 1,141,635円
間接経費 0円
合計 7,217,812円

備考

備考
自己資金として812円

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
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