カルシウム拮抗剤治療を受けた高血圧症患者の健康結果に関する臨床研究論文のシステマテイックレビュー及びメタアナリシス

文献情報

文献番号
199800755A
報告書区分
総括
研究課題名
カルシウム拮抗剤治療を受けた高血圧症患者の健康結果に関する臨床研究論文のシステマテイックレビュー及びメタアナリシス
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 龍彦(東京大学先端科学技術研究センター分子生物医学研究部門教授)
研究分担者(所属機関)
  • 森口尚史((財)医療経済研究機構調査部部長)
  • 浜窪隆雄(東京大学先端科学技術研究センター分子生物医学研究部門講師)
  • 佐藤千史(東京医科歯科大学医学部保健衛生学科教授)
  • 上村隆元(慶応義塾大学医学部衛生学・公衆衛生学教室助手)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
合併症のない高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療は
心血管疾患イベント及び脳血管疾患イベントの発生リスクを抑制できるか否かを検証する。
研究方法
(方法)実施手順は次の通りであった。
「研究仮説の提示→網羅的な関連文献の検索・収集→解析対象文献の選択と評価→選択された論文の研究結果の併合可能性の検討と統計的分析→感度分析→結論」
結果と考察
(結果及び考察)今回、我々の設定した選択基準に合致した論文は4本であった。論文選択基準は以下の通りであった。
論文選択基準;「合併症のない高血圧症患者対象。エンドポイントは脳血管疾患や心血管イベントの発生率。カルシウム拮抗剤(長時間作用型)とプラセボあるいは他の降圧剤との比較が無作為化比較試験でなされているもの。試験に参加した患者数が200人以上で、最低2年以上の治療経過観察がなされたもの。」
選択した論文につきPetoのFixed Effects Modelを用いて解析すると共に、論文の均一性の検証と感度分析を行うことにより、結果の安定性の検証も行った。
その結果、次のようなことが判明した。
今回の分析により、合併症のない高血圧症患者に対しては年齢を問わず、長時間作用型のカルシウム拮抗剤治療により、致死的・非致死的循環器疾患リスクが減少する可能性が高いことが示された。更に、合併症のない高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療は、プラセボに比して致死的・非致死的循環器疾患リスクを減少させる可能性が高いことも示された。
しかし、現時点ではまだ、合併症のない高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療が他の降圧剤治療(今回は利尿薬)を明らかに凌駕するという証拠は見出せないことがわかった。
今後は、合併症のない高血圧の治療については長時間作用型のカルシウム拮抗剤を含めた降圧剤をいかに臨床的に適正かつ効率的に使い分けるかということに焦点が絞られていくであろう。
我々は、長時間作用型のカルシウム拮抗剤を含めた降圧剤に関して医療経済効果も踏まえた適正かつ効率的な処方戦略を構築するために、引き続き、長時間作用型のカルシウム拮抗剤が他の降圧剤に比べて有効かつ安全なのかを科学的に評価していく予定である。
結論
合併症のない高血圧症患者に対しては年齢を問わず、長時間作用型のカルシウム拮抗剤治療により、致死的・非致死的循環器疾患リスクが減少する可能性が高い。また、合併症のない高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療は、プラセボに比して致死的・非致死的循環器疾患リスクを減少させる可能性が高い。
しかし、現時点ではまだ、合併症のない高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療が他の降圧剤治療を明らかに凌駕するという証拠は見出せない。
(8のB)糖尿病を合併する高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療とACE阻害剤治療の臨床効果比較(メタアナリシス)について
(研究目的)糖尿病を合併する高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療とACE阻害剤治療のどちらが心血管疾患イベント及び脳血管疾患イベントの発生リスクを抑制できるかを検証する。
(方法)実施手順は次の通りであった。
「研究仮説の提示→網羅的な関連文献の検索・収集→解析対象文献の選択と評価→選択された論文の研究結果の併合可能性の検討と統計的分析→感度分析→結論」
(結果及び考察)今回、我々の設定した選択基準に合致し解析対象となった論文は3本であった。論文選択基準は以下の通りであった。
論文選択基準;「糖尿病合併の高血圧症患者対象。エンドポイントは脳血管疾患及び心血管イベントの発生率。カルシウム拮抗剤(長時間作用型)とACE阻害薬との比較が無作為化比較試験でなされているもの。試験に参加した患者数が200人以上で、最低2年以上の治療経過観察がなされたもの。」
選択した論文につきPetoのFixed Effects Modelを用いて解析すると共に、論文の均一性の検証と感度分析を行うことにより結果の安定性の検証も行った。その結果、次のようなことが判明した。
今回の分析で糖尿病を合併する高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療は、ACE阻害剤治療よりも2.25倍、致死的・非致死的心血管イベントリスクを有意に増加させることが判明した。(95%信頼区間;1.45-3.48)
しかし、致死的・非致死的脳血管障害を増加させるか否かについては、その可能性はあるものの統計的有意差は見出せず更なる検証が必要であることが明らかになった。
糖尿病合併高血圧患者の治療については、糖尿病性腎症の進展抑制効果もあわせて考え、ACE阻害剤をはじめとし、ACE阻害剤単独で十分な降圧が得られない場合には他の降圧剤を少量ずつ併用させて血圧を適正値にまで下げていくという治療戦略が現時点では妥当であろう。
少なくとも長時間作用型といえどもカルシウム拮抗剤だけを大量に増量して降圧することは避けることが望ましい。
今後、我々は糖尿病合併高血圧症患者に対する最適な治療戦略を考案するつもりだが、特にACE阻害剤を他のどのような降圧剤とどのように併用させて血圧を適正値にまで下げていけばいいのかを医療経済的な観点も取り入れて考察していく予定である。
(結論)糖尿病を合併する高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療は、ACE阻害剤治療よりも2.25倍、致死的・非致死的心血管イベントリスクを有意に増加させることが判明した。(95%信頼区間;1.45-3.48)
しかし、致死的・非致死的脳血管障害を増加させるか否かについては、その可能性はあるものの統計的有意差は見出せず更なる検証が必要であることが明らかになった。
(8のC)高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤治療と患者のQOL(生活の質)について
(研究目的) 
最近、従来の病態生理学に基づいた疾病特異的尺度や5年生存率といつた尺度に加えて患者のQOLも同時に評価する必要性が提唱されている。
そこで、我々は、カルシウム拮抗剤治療を受けた患者のQOL(生活の質)評価に関する論文のメタアナリシスも施行しようとした。
(方法)実施手順は次の通りであった。
「研究仮説の提示→網羅的な関連文献の検索・収集→解析対象文献の選択と評価」
(解析対象文献の選択と質の評価の結果)検索・収集・選択した論文の質の評価を主任及び共同研究者が互いに独立し行い、その後の委員会で検討した。論文選択基準は次の通りであった。
「合併症のない高血圧症患者対象。エンドポイントはカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療における治療前・治療中・治療後のQOL。QOLの定義が明確になされているもの。科学的に妥当性のあるQOL測定指標が用いられてQOLが測定されているもの。カルシウム拮抗剤(長時間作用型)とプラセボあるいは他の降圧剤とのQOLの比較が無作為化比較試験でなされているもの。試験に参加した患者数が200人以上で、最低2年以上の治療経過観察がなされたもの。」
(考察)我々は、カルシウム拮抗剤を投与された患者のQOL評価に関する論文のメタアナリシスも施行しようとした。しかし、我々の設定した論文選択基準を満たす論文は、ごく少数で、しかも各論文のQOL評価項目が一定していないことが判明した。
したがって現時点では、高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療のQOL論文のメタアナリシスを行うことは妥当ではないとの結論を出さざるを得なかった。
降圧剤の最適処方戦略を立てる際に患者のQOLを考慮することは重要である。
しかし、現時点では降圧剤に関するQOL論文のメタアナリシス結果を降圧剤の最適処方戦略を立てる際の参照情報として利用することよりも、科学的に妥当性の証明されたQOL測定指標を作成し、それに基づくQOL測定を行い、その結果を参照情報として利用することが妥当であると思われた。
(結論)現時点では、高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤(長時間作用型)治療のQOL論文のメタアナリシスを行うことは妥当ではない。
(研究全体の総括)
本研究事業は、高血圧症患者に対するカルシウム拮抗剤治療の有効性を評価するために実施されたメタアナリシスだが、特に長時間作用型のカルシウム拮抗剤治療に限定して実施した点では国内的・国際的に最初の研究であった。
今回の研究から得られた重要な知見は我が国において「根拠に基づく高血圧治療ガイドライン」を作成する際の参照情報になると思われる。

公開日・更新日

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