向精神薬の適切な継続・減量・中止等の精神科薬物療法の出口戦略の実践に資する研究

文献情報

• 文献番号: 201918030A
• 報告書区分: 総括
• 研究課題名: 向精神薬の適切な継続・減量・中止等の精神科薬物療法の出口戦略の実践に資する研究
• 課題番号: 19GC1012
• 研究年度: 令和1(2019)年度
• 研究代表者(所属機関): 三島 和夫(国立大学法人秋田大学 大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座)

研究分担者(所属機関)

• 稲田健(東京女子科大学　神経精神科)
• 加藤正樹(関西医科大学　精神神経科学講座)
• 岡田俊(名古屋大学医学部附属病院　親と子どもの心療科)
• 岸太郎(藤田医科大学　精神神経科学講座)
• 渡辺範雄(京都大学大学院　医学研究科　社会健康医学系専攻健康増進行動学分野)
• 高江洲義和(杏林大学医学部　精神神経科学教室)
• 橋本亮太(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター　精神保健研究所　精神疾患病態研究部)
• 吉尾隆(東邦大学薬学部　臨床薬学研究室)
• 山之内芳雄(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター　精神保健研究所　精神医療政策研究部)
• 安田由華(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター　精神保健研究所　精神疾患病態研究部)

• 研究区分: 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
• 研究開始年度: 令和1(2019)年度
• 研究終了予定年度: 令和2(2020)年度
• 研究費: 13,200,000円
• 研究者交替、所属機関変更: -

研究報告書（概要版）

研究目的

向精神薬の多剤併用と漫然とした長期処方に起因する副作用リスクに関する臨床および社会的な懸念が強まっている状況を鑑み、先行事業である「向精神薬の処方実態の解明と適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインに関する研究（2017～2018 年度厚生労働科学研究費補助金・障害者政策総合研究事業）」に携わった精神科医、薬剤師、公認心理師、エビデンス医学、共同意志決定に関する専門家等が中心となり、向精神薬を用いた精神科薬物療法の益と害に関するエビデンスの収集と専門家によるコンセンサス会議を通じて現状の問題点を整理し、安全で安心な出口戦略（安全な長期維持療法もしくは減量中止法とその共同意志決定手順）に資する実践マニュアルを作成する。

研究方法

医療現場で頻用される6つの向精神薬（主要標的疾患）、抗精神病薬（統合失調症）、抗うつ薬（うつ病）、気分安定薬（双極性障害）、睡眠薬（不眠症）、抗不安薬（不安障害）、ADHD治療薬（注意欠如多動性障害、成人）の適正な使用と安全で安心な出口戦略に資する患者用資材（Decision Aid; DA）とその実践マニュアルを作成する。具体的にはガイドラインの根拠となったシステマティックレビュー・メタ解析の結果を元に、出口戦略を患者と共同意志決定するための実践マニュアルを作成する。医師、薬剤師、コメディカルスタッフ、患者および家族を対象として実践マニュアルに関するニーズ調査および使用感調査を行い実用性の向上を図る。また実践マニュアルを実地臨床で展開する上での指針や課題について関連学会の専門家によるレビューを受け指摘事項を反映する。作成したマニュアルを用いた事例検討を行い、その有用性と運用上の問題点を抽出し改善を行う。これらの作業を通じて治療アドヒアランスの向上に資する精神科薬物療法の出口戦略を明示した実践マニュアルを作成する。

結果と考察

本年度は、抗精神病薬（統合失調症）、抗うつ薬（うつ病）、気分安定薬（双極性障害）、睡眠薬（不眠症）、抗不安薬（不安障害）、ADHD治療薬（注意欠如多動性障害、成人）について、寛解後の長期維持療法および減薬･中止の益と害を明示的に示した患者用資材（Decision Aid; DA）とその実践マニュアルのベータ版を作成した。精神科医、薬剤師、公認心理師、共同意志決定に関する専門家等60名超のメンバーが作業に当たった。IPDACが設定している6項目を必須の資格基準として含むこととした。治療選択肢（長期維持療法、減薬･中止）の益と害については精神科薬物療法の出口戦略に関するガイドラインの根拠となったシステマティックレビュー・メタ解析の結果を元に、薬物療法の継続･中止時の再燃率、中止成功率などの臨床情報をピクトグラムで提示するなど患者が理解しやすいように努めた。患者および治療者を対象としたDAベータ版の使用感調査を実施するため調査実施施設での倫理審査の申請作業に着手した。このほか、全国35病院の精神病床入院患者の処方データ、33 万人のレセプトデータを用いたレトロスペクティブコホート研究により、抗精神病薬および睡眠薬の処方実態、高用量処方、長期処方の背景要因の分析を行った。また、精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究（EGUIDEプロジェクト）において統合失調症およびうつ病治療ガイドラインの講習を行い、ガイドラインの理解度、実践度、処方行動の評価、講習会資料の改訂を行い、参加者の理解度の向上を図った。GRADEワーキング・グループが、エビデンスを実臨床に活かすために作成した MAking GRADE the Irresistible Choice上での共同意思決定実践ツールの概要および利点・欠点を整理し、向精神薬の新規出口戦略研究の患者支援ツールの開発に資する情報を収集した。
今後、処方医や薬剤師、患者を対象にしたニーズ調査および使用感調査、EGUIDEプロジェクトや薬剤師による実用性評価、専門学会でのレビューを経てその結果を反映し、実際の臨床例も提示するなど使用者側の理解を助ける工夫を行うことにより、臨床現場での汎用性が高いマニュアルが作成できるものと期待される。

結論

今日の精神医療は向精神薬を用いた精神科薬物療法が主流だが、急性期治療における薬剤選択、適応、薬効、副作用などその導入部分に関する知見が数多く集積されているのに対して、治療の終結に関する指針やその根拠となるエビデンスが乏しい。本研究事業で作成する精神科薬物療法の出口戦略実践マニュアルを十分に啓発し適正運用をすることで、向精神薬の適正使用に関して医療者、患者、社会が抱いている懸念の緩和と、多剤併用や漫然長期処方例の減少に資することが期待される。

公開日・更新日

• 公開日: 2020-11-16
• 更新日: -

収支報告書

• 文献番号: 201918030Z