医療観察法の制度対象者の治療・支援体制の整備のための研究

文献情報

文献番号
201918016A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法の制度対象者の治療・支援体制の整備のための研究
課題番号
H30-精神-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神リハビリテーション部、第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
  • 大鶴 卓(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 岡田 幸之(国立大学法人 東京医科歯科大学)
  • 五十嵐 禎人(国立大学法人 千葉大学)
  • 今村 扶美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)の制度対象者に関する転帰・予後・治療介入等の実態を継続的に明らかにすること、国際比較やいわゆる複雑事例のプロファイリングとセグメント化を行い、それらを基にした実効性の高い治療や介入方法等を示すことである。
研究方法
本年度には2回の研究班会議を開催し、8つの各分担研究班の連携を図るとともに研究成果を共有した。各分担研究班は、初年度に引き続き疫学調査または介入研究を進めた。
結果と考察
医療観察法重度精神疾患標準的治療法確立事業により全国の指定入院医療機関から毎月提出され蓄積された、いわゆる“入院データベース”を研究活用するため、研究利活用委員会の規定を定め倫理委員会の承認を得た。また退院後の対象者について、昨年度に引き続き転帰・長期予後に関する全国調査等を行った。
指定入院医療機関を退院し通院処遇に移行した対象者(n=1,078)の再他害行為発生率をKaplan-Meier法により算出すると1.7%/3年であった。また、自殺既遂の累積発生率は2.5%/3年であった。通院処遇終了者(718名)の地域生活日数割合(精神保健福祉法入院していない期間/総観察期間)は87.8%であった。地域生活開始後(調整入院群は調整入院から退院した後)1年間の対象者の平均地域生活日数は349.3日であった。通院処遇終了者718名中101名(14.1%)が通院処遇期間中に就労をしていた。
全指定入院医療機関を対象として、長期入院例や行動制限実施例など複雑事例の個別調査結果及び統計学堤検討をさらに進めた。複雑事例中核群は、長期措置入院群と比較すると、重複障害やクロザピン使用の割合が多く、退院困難理由については、「症状改善困難」が少ないものの、「衝動制御困難」が同程度であり、「環境調整困難」が多かった。また、複雑事例中核群は「疾病治療困難型」「関係構築困難型」「セルフコントロール困難型」の3型に分類された。「疾病治療困難型」では早期のクロザピン導入やクロザピン抵抗性への対応、処遇終了の判断基準の策定が、「セルフコントロール困難型」では、重複障害に対する標準化された心理社会的治療や行動制限最小化が、「関係構築困難型」では、重複障害コンサルテーションや多職種チームの交代、転院が必要な介入方法として考えられた。複雑事例に対して、指定入院医療機関16施設が参加し、相互コンサルテーションを実施した。
医療観察法審判に資することを目的として、鑑定書作成の手引き(案)および鑑定書式(案)の一部の策定を行った。今後、最高裁判所、管轄省庁とも協議しながらさらに検討を進めることとした。
初年度に作成した研究計画に沿って、全指定通院医療機関を対象とした予備的、実態把握調査を実施した。医療状況の実態を把握するための調査では、637施設にアンケート調査を行い459施設から回収(回収率72%)できた一方、対象者の予後調査では現在推定される通院対象者の17%に回収率がとどまった。同意取得を前提とした研究調査の限界が明らかとなった。
海外比較を目的にイギリス、オランダ、韓国の司法精神医療制度を調査した。複雑事例専用の高規格ユニットを設置するよりも、複雑事例の多様性を考慮すると一律の定義や治療法の確立は困難であること、地域移行への困難さの増加から、高規格ユニットは機能不全に陥る危険性を持つことが指摘された。むしろ本研究班で従来から検討してきた、多様性や個別性に対応したケースフォーミュレーションを用いてのコンサルテーションや転院を複雑事例対応の中心に据えるべきであることが明らかとなった。
結論
我が国の医療観察制度は約14年間運用され、再他害行為率の低さや各種の指標から引き続き概ね順調に運用されていると考えられた。
一方、指定入院医療機関では、長期入院や、長期または頻回行動制限を必要とする複雑事例が認められ、その特徴が一部明らかにされたが、さらに明確化し治療・介入方法の開発が必要である。クロザピンなどの生物学的治療に加え、複雑事例の多様性に対応する個別性の高いケースフォーミュレーションを用いた、行動障害や生活障害に対する心理社会的介入の強化が必要である。指定入院医療機関同士の密接な連携による、施設を超えたコンサルテーションの実施や既存の指定入院医療機関への転院の実践を促進する必要がある。
医療観察制度の運用や見直しにとって必要不可欠な通院処遇の基礎的データを収集するための体制をただちに構築する必要があるが、通院処遇の実態調査では、対象者の同意を前提とする研究では補足率の低さやサンプリングバイアスによる限界があり、研究によらない調査方法の検討・確立も必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-11-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201918016Z