障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究

文献情報

文献番号
201918009A
報告書区分
総括
研究課題名
障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究
課題番号
H30-身体・知的-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 前田 浩利(医療法人財団はるたか会)
  • 岡 明(東京大学医学部)
  • 江原 伯陽(医療法人社団エバラこどもクリニック)
  • 北住 映二(心身障害児総合医療療育センター小児科)
  • 荒木 暁子(公益社団法人日本看護協会)
  • 星 順(医療型障害児入所施設カルガモの家)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
8,067,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急増して社会問題化している非重症心身障害児の医療ケア児について前田班の研究報告をたたき台にして、児の安全性を確保して家族の負担の少ない適切な医療・福祉サービスが受けられるような判定基準を確立する。
研究方法
1)在宅医療児の家族の負担とリスク度をケア別に定量的に明らかにするために全国の1162名の在宅小児患者を対象に家族負担と見守り度とに関するアンケート調査を実施した。2)全国の通所支援施設538施設を対象に、動く医療的ケア児(這い移動以上の運動機能をもつもの)を受け入れるために施設が必要と感じている資源(①看護師配置、②看護師以外の職員配置、③居住空間等)についてアンケート調査を実施した。3)埼玉県内で積極的に医療的ケア児を取り扱っている通所施設に対する移動可能な要医療的ケア児者の受け入れの実態調査を実施した。これらの調査結果をもとに通所支援サービスに関わる新しい医療的ケア児判定スコアの試案を作成し、その試案を医療的ケア児に関わる11の関係団体にヒヤリングした上で、再度班会議で検討し、最終的な医療的ケア児判定スコアを作成した。
結果と考察
1)567名の家族から在宅小児患者の在宅ケアの回答を得、991名の主治医から医療的ケアに関連するリスクに関しての回答を得た。医療的ケアそのものに要する時間においては、経管栄養や薬液吸入でも平均時間が非常に長く家族の医療的ケアの負担は予想以上に重いこと、動く子どもと寝たきりの子どもに大きな差が無いことが明らかになった。一方では運動能力別に、指示を守れる児と守れない児にわけた分析では、移動能力の有る児では聞き分けの守れない児で有意に医療的ケア時間が長く必要とされることが明らかとなった。寝たきりの状態と、動ける(座位以上)両方の状態での医療的ケアを経験している家族介護者にインタビューを行ったところ多くの事例で動ける様になった方が寝たきりの状態よりも大変であるという回答を得られた。更に同意を得られた事例に対して、対面インタビューとコマ撮り撮影カメラを用いたタイムスタディ分析した結果では、家族介護者は自宅での医療的ケアの実施において、児が動くことにより様々なアクシデントを経験していた。そうしたアクシデントを経験すると、それを再発させないために、常に目で見るだけでなくセンサー等の音を意識するといった五感を総動員して見守る様になっていた。子供の様子を、こうした限られた空間で常時見守るということは、介護者の移動範囲もそこに限定されることになり、純粋な医療的ケアそのものではなく、医療的ケアの周辺部分(医ケアとかかわるケア)が、時間と負担を増しているのではないかという仮説が導き出された。
2)回答が得られた259施設のデータを解析した。動く医療的ケア児をみている施設は、平均利用者数33人中、動く医療的ケア児数3.9人であった。指示理解があり動ける人工呼吸器児は、3つの資源を最も多く必要としていた。また、動ける経管栄養児は非看護師職員と専用空間をより必要とし、動けて指示理解がない経管栄養児は非看護師職員をより多く必要としていた。動く医療的ケア児をみていない施設は、みている施設と比べて、動く医療的ケア児を警戒しているものと思われた。
3)移動可能な要医療的ケア児者を受け入れている事業所は、返送のあった22事業所のうち、14事業所であり、すべて福祉型の事業所であった。今後について積極的に受け入れたいと答えた事業所は7施設であるが、現在受け入れている14事業所中5施設にとどまっていた。事業が継続できるためには、医療支援体制整備と、居室の在り方改善と職員配置への支援につながる、サービス報酬の見直しが必要であると考えられた。
 これらの結果を踏まえて、平成30年度障害福祉サービス等報酬改定において、新設されたが充分に活用されていない障害児通所支援のための看護職員加配加算に新たに「見守りスコア」を設けた上で、幾つかの項目の基本スコアを修正した医療的ケア判定スコア新案を作成し、厚生労働省担当官の同意を得られた医療的ケア児に関わる11の関係団体にヒヤリングしたところ、4団体から全面的な同意を得られ、7団体からは基本的な同意の上で部分修正を求められた。そこで一部修正を要望されたことを受け、分担研究者と研究協力員全員で検討した上で医療的ケア判定スコア新案を確定した。
結論
受け入れ施設側の現状の課題を踏まえて、在宅でケアする家族の負担軽減のためにも、動く高度医療ケア児の障害児通所施設への受け入れ促進を図るための「障害児通所支援サービスに関わる新しい医療的ケア児判定スコア」を作成し、関係学会・団体にも基本的な賛同をいただいた。
(医療的ケア判定スコア新案は、総括研究報告書(表3)医療的ケア判定新スコア新案を参照)

公開日・更新日

公開日
2021-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201918009B
報告書区分
総合
研究課題名
障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究
課題番号
H30-身体・知的-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 前田 浩利(医療法人財団はるたか会)
  • 岡 明(東京大学医学部)
  • 江原 伯陽(医療法人社団エバラこどもクリニック)
  • 北住 映二(心身障害児総合医療療育センター小児科)
  • 荒木 暁子(公益社団法人日本看護協会)
  • 星 順(医療型障害児入所施設カルガモの家)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動く医療ケア児の家族の負担が軽減されるよう,平成26年度前田班の研究報告をたたき台にして,適切な障害福祉サービスが受けられるための医療的ケア児の判定基準を確立する.
研究方法
1)在宅医療児の家族の負担をケア別に定量化するために30年度に7事例の患者宅に複数の24時間のコマ撮りカメラを設置して分析した結果,動く医療的ケア児では家族が直接ケアをする時間だけでなく見守りに要する時間が非常に大きいということが明らかとなった.それを踏まえて31年度には全国の1162名を対象に家族負担と見守り度とに関するアンケート調査を実施した.2)30年度には全国の重症心身障害児・者施設250箇所を対象に動く医療的ケア児者の短期入所のアンケート調査を行った.3)31年度には全国の通所支援施設538施設を対象に,動く医療的ケア児を受け入れるために施設が必要と感じている資源についてアンケート調査を実施した.4)30年度に実施した埼玉県内の障害児通所事業所の調査で積極的に医療的ケア児を受け入れている34箇所の通所施設に対して,受け入れに必要な資源についてのアンケート調査を実施した.これらの調査結果をもとに通所支援サービスに関わる新しい医療的ケア児判定スコアの試案を作成し,その試案を医療的ケア児に関わる11の関係団体にヒヤリングした上で医療的ケア児判定スコアを作成した.
結果と考察
1)在宅小児患者の実態調査では,経管栄養や薬液吸入にかかる時間が非常に長く家族に負担がかかることが明らかになった.一方では運動能力別及び指示を守れる児と守れない児にわけた分析では,移動能力があり指示を守れない児で有意に医療的ケア時間が長かった.寝たきりの状態と動ける状態の両方を経験している医療的ケア児の家族介護者にインタビューしたところ,多くの事例で動ける様になった方が大変になったという回答を得た.対面インタビューとコマ撮り撮影カメラを用いたタイムスタディ分析では,家族介護者は自宅での医療的ケアにおいて,児が動くことにより様々なアクシデントを経験していた.そうしたアクシデントを経験すると,それを再発させないために,常に目で見るだけでなくSpO2モニター等の音を意識するといった五感を総動員して見守る様になっていた.限られた空間で常時見守るということは,介護者の移動範囲もそこに限定されることになり,純粋な医療的ケアよりも医療的ケアの周辺部分(医ケアとかかわるケア)に時間と負担がかかっているという結論が導き出された.2)109施設から回答があった.うち42施設で直近1年間に,移動可能な医療的ケア児者118名の短期入所の受け入れが行われていた.うち49名において,安全確保のために,スタッフによる常時の見守りや1対1での対応が必要とされていた.今後の受け入れに前向きなのは9施設のみであった.動く医療的ケア児者においても短期入所が保障されるためには,安全確保のためのハード面の整備とともに,必要に応じて加配が可能な職員体制とそれを支える施設給付費などが条件としてあげられた.3)回答が得られた259施設のデータを解析した.指示理解があり動ける人工呼吸器児は,看護師,非看護師職員,専用空間の3つの資源を最も多く必要としていた.また,動ける経管栄養児は非看護師職員と専用空間をより必要とし,動けて指示理解がない経管栄養児は非看護師職員をより多く必要としていた.4)移動可能な要医療的ケア児者を受け入れている事業所は,返送のあった22事業所のうち,14事業所であった.今後も積極的に受け入れたいと答えた事業所は現在受け入れている14事業所中5施設にとどまっていた.事業が継続できるためには,医療支援体制整備と,専用空間と看護師・非看護師職員配置の確保が必要であると考えられた.これらの結果を踏まえて,平成30年度障害福祉サービス等報酬改定において新設された障害児通所支援の看護職員加配加算に用いる医療的ケア児判定スコアに対し,新たに「見守りスコア」を設けた上で,幾つかの項目の基本スコアを修正した「医療的ケア判定スコア新案」を作成した。医療的ケア児に関わる11の関係団体にヒヤリングしたところ,4団体から全面的な同意を得られ,7団体からは基本的な同意の上で部分修正を求められた.そこで一部修正を要望されたことを受け,分担研究者と研究協力員全員で検討した上で医療的ケア判定スコア新案を確定した.
結論
障害児通所支援の受け入れ施設側の現状の課題を踏まえて,在宅でケアする家族の負担も考慮し,動く高度医療ケア児の障害児通所施設への受け入れを促進するための「医療的ケア児判定スコア新案」を作成し,関係団体にも基本的な賛同をいただいた.(総合研究報告書(表3)医療的ケア判定新スコア新案を参照)

公開日・更新日

公開日
2021-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201918009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
近年、医療的ケアを日常的に必要とする運動機能の高い子ども(以下、動ける医療的ケア児)は、身体障害が軽度であるにもかかわらず介護の負担が大きいと現場で指摘されている。しかし、その負担の実像は明らかではなかった。今回、患者と家族のビデオ撮影研究や施設アンケート調査などにより、介護者の負担の理由が明らかとなった。すなわち、動ける医療的ケア児は、危険を伴う医療デバイスを抱えながら動くため、介護者はケアそのものよりも、危険を予測して児を見守り続けることに負担を感じていることが判明した。
臨床的観点からの成果
動ける医療的ケア児の実態を明らかにした臨床的意義は大きい。また1995年に創設された超重症児スコアから25年が経過し、医療的ケアが多様化している実状に鑑み、現行の医療的ケア児判定スコアに掲載されている医療的ケアの項目を検討した。これに基づき、見守り度の要素を加えてケアの項目を増やした「医療的ケア児判定スコア新案」を開発した。このように、制度を臨床の実態に合わせて改定できた点は、画期的である。
ガイドライン等の開発
我々は「医療的ケア児判定スコア新案」を、児童福祉法の障害児通所支援に活用することを想定して開発したが、ひいては障害者総合支援法の生活介護や障害児者短期入所へ応用することが検討されると聞いており、ガイドラインに準じる扱いを受ける可能性がある。
その他行政的観点からの成果
動ける医療的ケア児を受け入れる通所支援施設が評価されるよう、また昨今の多様化した医療的ケアに対応できるよう「医療的ケア児判定スコア新案」を開発した。これは令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における、児童発達支援・放課後等デイサービスの基本報酬の看護職員加配加算の要件の改定、福祉型障害児入所施設の看護職員配置加算の要件の改定、生活介護における常勤看護職員等配置加算(3)の新設、医療連携体制加算の改定において活用された。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201918009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,927,710円
人件費・謝金 1,126,937円
旅費 540,280円
その他 4,472,073円
間接経費 1,933,000円
合計 10,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-05-25
更新日
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