障害者の地域移行及び地域生活支援のサービスの実態調査及び活用推進のためのガイドライン開発に資する研究

文献情報

文献番号
201918008A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者の地域移行及び地域生活支援のサービスの実態調査及び活用推進のためのガイドライン開発に資する研究
課題番号
H30-身体・知的-一般-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井千代(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・地域・司法精神医療研究部・部長)
  • 行實志都子(神奈川県立保健福祉大学・保健福祉学部・准教授)
  • 鈴木孝典(高知県立大学・社会福祉学部・准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成30年度における指定一般相談支援事業所に対する調査結果を踏まえ、市町村行政機関及び精神科病院や障害者支援施設等と相談支援事業所が積極的に連携し、障害者の地域移行・地域定着支援及び自立生活援助を円滑に展開することを促進するとともに、必要とする支援を利用者自らが選択し希望する生活を実現できるよう、サービス活用のためのガイドブックの作成及び障害福祉サービス報酬改定に資する基礎資料の収集を目的とする。
研究方法
各調査票の作成には、先行研究レビュー及び研究分担・協力者によるワーディングを行い、量的・質的調査の質問項目案を検討し、パイロットスタディを経て調査票を作成した。実施した調査は、①精神科病院と障害福祉サービス事業所等との地域連携のあり方に関する調査(量的調査)、②障害者支援施設における地域移行支援に関する実態調査(量的調査)、③相談支援事業所における自立生活援助事業の実施状況に関する調査(量的調査・質的調査)である。量的調査の送付には各関係団体の協力により宛名ラベルまたは名簿の提供を得て、統計解析には、統計解析用ソフトSPSS Statistics Ver.20,Ver.26を用いた。質的調査は、研究協力者による機縁法で、特性の異なる5事業所を選定し訪問によるインタビュー調査を実施した。各調査票の発送・回収・集計・入力、及びインタビュー調査の録音データの逐語記録作成は、業者に委託した。
倫理的配慮として、聖学院大学研究倫理審査会の研究倫理審査及び承認を得た(承認番号:第2019-1b-1号、第2019-1b-2号)。
結果と考察
 各調査の回収状況は、①日本精神科病院協会の会員285機関(回収率:23.8%)、②障害者支援施設204施設(回収率40.8%)、③自立生活援助の指定相談支援事業所98カ所(回収率54.7%)、利用者に関する個票は358人分であった。質的調査は5か所で実施した。
 障害者の地域移行支援には、同法人や関連法人の枠を超えた地域連携に基づく展開については、医療と福祉、また施設・病院と地域の事業所間に連携の課題があると考えられる。反対に、関係機関の良好な連携体制が構築できると、障害者の地域移行を促進する要因となることも考えられ、マネジメントを担う相談支援専門員や市町村行政職員には、入院・入所者の地域移行支援を促進するための地域連携や基盤整備のために協議会等の場を活用して関係機関同士の連携を取り持つことも求められる。
 障害者の地域生活支援においては、平成30年度に新設された自立生活援助が、障害者の地域生活における多様で流動的な課題に都度対応していることに加え、相談支援事業所がこのサービスを実施することで計画相談支援の質を上げ、地域移行・地域定着支援との連続性を保持するうえで有効であることが推察された。好事例といえる自立生活援助の相談支援事業所は、実施体制の整備においても工夫をしており、この知見を後続する事業所へ情報提供することも必要であると考えられる。
障害者の地域移行・地域生活支援において必要とされる支援内容は多岐に渡り、市町村における支給決定の迅速かつ柔軟な対応が求められるとともに、有限のマンパワーやサービス、施設・機関等の効率的な活用のためには、特にサービス等利用計画の作成にあたる相談支援専門員に対する期待は高いといえる。なお、地域移行支援サービスが届いていない入院・入所者へのアプローチについて、国家資格専門職である精神保健福祉士と社会福祉士を配置する相談支援事業所におけるフットワークのよい柔軟な地域生活支援の展開が見られていることに鑑み、地域連携ネットワーク作りにも寄与することが期待される。
結論
 障害者の生活は、障害福祉や保健医療におけるフォーマルなサービスに加え、地域のインフォーマルな資源や本人の生活史との兼ね合いで多様なものによって支えられている。これらのサービスの効果的で効率的な提供のためには、障害者本人の意思の尊重と地域の基盤整備及び関係機関の連携が欠かせない。加えて、サービス提供を迅速かつ適切に行うための市町村による支給決定の判断や障害福祉サービスの報酬のあり方も重要である。また、障害者の地域生活支援の責務を有する市町村行政機関の担当職員が制度を熟知し、適切に運用できるよう、相談支援専門員をはじめとして精神保健福祉士や社会福祉士などの専門職によるソーシャルワーク機能の発揮が求められている。
 本研究により作成したガイドブックが有効に活用され、障害のある人びとが適切な情報提供と支援を受けて自らの意思で地域生活へと移行し、その後の生活においても必要な支援を過不足なく受けながら社会の一員として生活できるような地域づくりが求められる。

公開日・更新日

公開日
2020-11-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201918008B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者の地域移行及び地域生活支援のサービスの実態調査及び活用推進のためのガイドライン開発に資する研究
課題番号
H30-身体・知的-一般-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代 (国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所地域・司法精神医療研究部  )
  • 行實 志都子(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 鈴木 孝典(高知県立大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
相談支援事業所における障害者の地域相談支援と自立生活援助の実施体制及び実施状況に関する悉皆調査と好事例インタビュー調査により、精神科医療機関や障害者支援施設と相談支援事業所及び自治体の連携に基づくサービス提供に関する提言及びサービス活用の促進を目的とする。 
研究方法
自記式質問紙の郵送やWEB返送による量的調査と、好事例インタビュー調査を実施した。内容は、①指定一般相談支援事業所の地域相談支援に関する悉皆調査、②地域移行・地域定着支援の展開における多機関連携の好事例インタビユー調査、③精神科病院と障害福祉サービス事業所等との地域連携のあり方に関する調査、④障害者支援施設における地域移行支援に関する実態調査、⑤相談支援事業所における自立生活援助事業の実施状況に関する調査、⑥自立生活援助を実施する相談支援事業所の好事例インタビュー調査である。研究実施体制として、研究分担者及び、関係団体からの推薦者による企画検討会議とワーキンググループを組織し、先行研究レビュー及びワーディングを行い、質問項目に関する協議を経て質問紙調査票及びインタビューガイドを作成した。インタビユー調査は、研究協力者を含む2名以上が訪問した。また、調査票の作成、発送、回収、入力と集計は業者に委託した。
調査の分析結果に基づき、協力者間の協議を経て考察を行った。
結果と考察
上記の各調査の回収数・回収率は、①1,473/3,775(回収率39.0%)、②4か所合計21名、内訳は、相談支援専門員(相談支援事業所)5名、自治体職員(市区町村役場)10名、精神保健福祉士・生活指導員(精神科病院・障害者支援施設)6名、③285/1,196(回収率23.8%)、④204/500(回収率40.8%)、⑤98/179(回収率54.7%で、合計358人分)、⑥5か所で合計12名のサービス管理責任者と地域生活支援員であった。精神科病院からの退院支援においては、相談支援事業所との間での日常的な連携体制の有無や、精神保健福祉士の配置及び地域の社会資源の充実度が地域移行支援の利活用に影響していると考えられ、障害者支援施設においては、大規模法人内の事業所間での連携によるグループホームへの移行が多く地域移行支援はあまり使われていないが、別法人等の事業所と連携した退所支援においては地域移行支援のニーズがあることが推察された。こうした多機関連携のマネジメントを担う相談支援専門員や市町村行政職員には、入院・入所者の地域移行支援を促進するための地域連携や基盤整備に向け、協議会等の場を活用して関係機関同士の連携を取り持つ役割が求められる。一方、相談支援事業所においては、計画相談支援の実施が優先されている傾向にあることが推察され、地域定着支援では「時間外対応が難しい」ことが実施できない理由の上位にあることからも事業所内の人員配置や業務マネジメントの課題がうかがわれた。なお、地域相談支援に専従する職員、特に精神保健福祉士、ピアサポーターの配置が有用であることが把握された。自立生活援助は、障害者の地域生活における多様で流動的な課題に都度対応できることに加え、相談支援事業所がこれを併設することでアセスメントやモニタリングの機会となり、計画相談支援の質を上げ、地域移行・地域定着支援との連続性を保持するうえで有効であると考えられる。
結論
障害者の生活は、障害福祉や保健医療のフォーマルなサービスのみならず、多様なものによって支えられているが、障害福祉サービスを効果的で効率的に提供するためには、障害者本人への情報提供と意思の尊重、地域の基盤整備及び関係機関の連携が欠かせない。加えて、迅速かつ適切なサービス提供のための市町村による支給決定の判断や、障害福祉サービスの報酬のあり方も重要である。また、障害者の地域生活支援の責務を有する市町村の担当者が制度を熟知し適切に運用できるように、相談支援専門員をはじめ国家資格専門職である精神保健福祉士や社会福祉士によるソーシャルワーク機能の発揮が求められる。本事業に関係するすべての従事者におけるサービス提供のためのノウハウ不足や知識不足を補い、また、事業実施のコツや工夫を広く周知する目的で、地域性や利用者の特性に応じた先進地の取組み例を多彩に把握することへのニーズは高いといえる。本研究により作成したガイドブックが有効活用され、障害のある人びとが適切な情報提供と支援を受けて自らの意思で地域生活へと移行し、必要な支援を過不足なく受けながら社会の一員として生活できるような地域づくりが求められる。支援者の判断やサービス提供及び支援の展開が、障害者本人の望む暮らしの実現にとって実際に適切に寄与できているかを調査し、サービスの効果を評価するとともに必要な改善を図ることは今後の研究課題である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201918008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
障害者の地域移行支援について、精神科病院及び障害者支援施設における実施実態及び活用促進のための課題を把握できた。従来、地域移行支援の展開には関係機関の連携が不可欠の要素であり、その推進において精神科病院における精神保健福祉士の配置が有用であることがうかがわれた。平成30年度に開始された自立生活援助事業の指定相談支援事業所に対する悉皆調査により、実施体制及び利用者の概況について把握し、報酬のあり方に関する提言に資するデータを収集できた。
臨床的観点からの成果
相談支援事業所が中心となり、精神科病院や障害者支援施設と連携して障害者の地域移行及び地域定着支援を行うにあたり、新サービスである自立生活援助を併用することにより、障害者にとって支援の連続性を保ちながら継続的にかかわることができ、課題発見やアセスメント、モニタリングの質を向上させ、障害者本人の意思を尊重しながら必要なサービスを効果的かつ効率的に提供するためのマネジメントが行えることが推察された。また、相談支援事業所における自立生活援助の実施体制に係る多様な工夫を収集することができた。
ガイドライン等の開発
研究成果物として『障害者の 地域移行・地域生活支援に関するサービス活用のためのガイドブック』を作成した。今後の都道府県や市町村・圏域における協議会等を通じて、障害者の地域移行・地域定着支援と自立生活援助の実施や活用を促進するための研修会等で活用されることが見込まれる。
その他行政的観点からの成果
障害保健福祉部精神・障害保健課「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会第2回(令和2年5月22日)資料として「地域移行支援及び地域定着支援の実態等」について利用が進まない理由等をとりあげ、医療と福祉等の連携体制構築の必要性のエビデンスとして用いられたほか、障害福祉サービス報酬体系に関する課題や、従事者の知識・技術の向上に関する課題が指摘された。
その他のインパクト
第40回日本社会精神医学会(2021年3月4~5日)において、研究成果の一部を「精神科病院と障害福祉サービス事業所等との地域連携のあり方に関する調査研究」として、精神科医療機関における地域援助事業者等と連携した支援の取組の現状と課題について発表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
講演5件,職場研修でのガイドブック活用1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
田村綾子
精神障害者の地域移行支援及び地域定着支援の実態と精神保健福祉士の役割
日本精神科病院協会誌 , 40 (2) , 43-47  (2021)

公開日・更新日

公開日
2023-06-06
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
201918008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,980,000円
(2)補助金確定額
5,787,000円
差引額 [(1)-(2)]
193,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 529,303円
人件費・謝金 524,512円
旅費 1,025,884円
その他 2,327,464円
間接経費 1,380,000円
合計 5,787,163円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
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